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9.野草採取
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「我が妻よ! 野草採取に行こう!」
朝食を終え、少しほっとしていたら、食器の片付けを終わらせたジルカスがやって来た。そんなことを言いながら。
「や、野草……? どういうことですか?」
「大自然の中で採取した野草類を持って、交換所へ行くのだ! そうすれば食料や他の物と交換してもらえる!」
何だ、そのゲームみたいな仕組み。
咄嗟に思ったのはそんなことだったが、よく考えてみれば、物々交換というのは実際に行われていた事柄だ。完全にゲームの中の話というわけでもない。
「この世界には貨幣がないんですか?」
恐らく存在しないのだろうな、と思いつつも、念のため確認してみる。
するとジルカスはおかしな顔をした。
「んん? 何だ、そのカヘーというのは」
「一定量貯めると欲しいものと変えてもらえる紙やコインです」
「ははは! それは独創的だな! しかしそんなものは存在しない。物と物の交換が普通だ!」
どうやら、そういうことらしい。
随分古臭い世界観だが、お金というものに囚われない生活を試してみることができるというのは若干興味深くも感じる。その暮らしが快適か否かは、実際暮らしてみなければ分からないこと。文化がまったく異なる世界での暮らしは、ある意味、良い学びとなるかもしれない。
「分かりました。では行きましょう」
「おおっ!? 野草採取はやる気かッ!?」
元の世界に戻れないのなら、ここで生きていくしかない。となれば、別の物と交換してもらえるお金的存在のものを手に入れるのが大事。野草がお金的存在になってくれるのなら、それを手に入れておくに越したことはない。
◆
家を出て、紅の木々が生い茂る道を歩くことしばらく。
木が生えていない場所にたどり着いた。
ただし、生えている木の本数が少ないとはいえ、まったくないわけではない。それに、地面からは、雑草がしっかりと生えている。
「よし! この辺りが良いな!」
ジルカスは背負っていたカゴを地面に置く。
ちなみに、底面は半径一メートルほどの円で深さは一メートルに届くか否かというくらいのサイズのカゴである。
私は彼よりかなり小さいサイズのカゴを手に持っている。こちらのカゴは背負えるほどの大きさではなかったから、手持ちなのだ。持ち手は硬く、落とさないよう緊張しながら握っていたら指が擦れて痛くなった。
「目的地に到着ですか?」
「そういうことだ! ははは! では早速開始しよう!」
私は「はい」と返事する。
ジルカスの発言はまだ終わらない。
「我が妻よ! よくある野草について、まずは簡単に解説しよう!」
「よろしくお願いします」
言われてみれば、確かに、という感じだ。
野草についての知識がまったくない状態では、野草採取も効率が悪い。
まずはベタな野草について知る。そして、それから実際に入手していく方が、作業効率は絶対に良くなるはず。闇雲に行動するのは、あまり良いこととは言えない。
地面にしゃがみ込んだジルカスは、軍手をはめた手で、足下付近に生えていた雑草のうちの一本を引き抜く。
その草は、緑色の丸い葉を持つ。葉脈は網目状だ。しかし、茶色い根はなぜかひげ根。主根と側根のある、双子葉類的な根ではなかった。
「これは『アベコベソウ』だ! レア度はFといったところか。とにかく、近場に一番よく生えている!」
「アベコベソウ……ですね。覚えられるよう頑張ります」
本当にきちんと覚えられるかは定かでない。
数回聞いていれば、徐々には覚えてくるだろうが。
「ちなみに! すり潰して傷口に塗れば、傷が早く回復するらしい!」
ジルカスは妙に説明口調。
ゲームの最初に出てくるキャラクターのようだ。
朝食を終え、少しほっとしていたら、食器の片付けを終わらせたジルカスがやって来た。そんなことを言いながら。
「や、野草……? どういうことですか?」
「大自然の中で採取した野草類を持って、交換所へ行くのだ! そうすれば食料や他の物と交換してもらえる!」
何だ、そのゲームみたいな仕組み。
咄嗟に思ったのはそんなことだったが、よく考えてみれば、物々交換というのは実際に行われていた事柄だ。完全にゲームの中の話というわけでもない。
「この世界には貨幣がないんですか?」
恐らく存在しないのだろうな、と思いつつも、念のため確認してみる。
するとジルカスはおかしな顔をした。
「んん? 何だ、そのカヘーというのは」
「一定量貯めると欲しいものと変えてもらえる紙やコインです」
「ははは! それは独創的だな! しかしそんなものは存在しない。物と物の交換が普通だ!」
どうやら、そういうことらしい。
随分古臭い世界観だが、お金というものに囚われない生活を試してみることができるというのは若干興味深くも感じる。その暮らしが快適か否かは、実際暮らしてみなければ分からないこと。文化がまったく異なる世界での暮らしは、ある意味、良い学びとなるかもしれない。
「分かりました。では行きましょう」
「おおっ!? 野草採取はやる気かッ!?」
元の世界に戻れないのなら、ここで生きていくしかない。となれば、別の物と交換してもらえるお金的存在のものを手に入れるのが大事。野草がお金的存在になってくれるのなら、それを手に入れておくに越したことはない。
◆
家を出て、紅の木々が生い茂る道を歩くことしばらく。
木が生えていない場所にたどり着いた。
ただし、生えている木の本数が少ないとはいえ、まったくないわけではない。それに、地面からは、雑草がしっかりと生えている。
「よし! この辺りが良いな!」
ジルカスは背負っていたカゴを地面に置く。
ちなみに、底面は半径一メートルほどの円で深さは一メートルに届くか否かというくらいのサイズのカゴである。
私は彼よりかなり小さいサイズのカゴを手に持っている。こちらのカゴは背負えるほどの大きさではなかったから、手持ちなのだ。持ち手は硬く、落とさないよう緊張しながら握っていたら指が擦れて痛くなった。
「目的地に到着ですか?」
「そういうことだ! ははは! では早速開始しよう!」
私は「はい」と返事する。
ジルカスの発言はまだ終わらない。
「我が妻よ! よくある野草について、まずは簡単に解説しよう!」
「よろしくお願いします」
言われてみれば、確かに、という感じだ。
野草についての知識がまったくない状態では、野草採取も効率が悪い。
まずはベタな野草について知る。そして、それから実際に入手していく方が、作業効率は絶対に良くなるはず。闇雲に行動するのは、あまり良いこととは言えない。
地面にしゃがみ込んだジルカスは、軍手をはめた手で、足下付近に生えていた雑草のうちの一本を引き抜く。
その草は、緑色の丸い葉を持つ。葉脈は網目状だ。しかし、茶色い根はなぜかひげ根。主根と側根のある、双子葉類的な根ではなかった。
「これは『アベコベソウ』だ! レア度はFといったところか。とにかく、近場に一番よく生えている!」
「アベコベソウ……ですね。覚えられるよう頑張ります」
本当にきちんと覚えられるかは定かでない。
数回聞いていれば、徐々には覚えてくるだろうが。
「ちなみに! すり潰して傷口に塗れば、傷が早く回復するらしい!」
ジルカスは妙に説明口調。
ゲームの最初に出てくるキャラクターのようだ。
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