12 / 18
12.ダエヌの足湯
しおりを挟む
まず用意するのは、直径一メートルほどの丸い木の桶。そこに温かいお湯を注ぐ。それから、ダエヌの食べられない皮部分を投入するのだが、そのまま入れるのではない。投入する前の準備があるのだ。剥いた時に出た皮を、まずは細かく刻む。それから、目の粗い布製の巾着袋へ入れる。そして、しっかりと口を閉じてから、巾着袋ごと桶の中へ。それから皮の成分が滲み出してくるまで数十秒ほど待てば、ダエヌ足湯の準備は完了。後は足を浸けるだけ。
「ははは! どうだ!?」
「結構気持ちいいです」
つま先の毛細血管すら広がりそうな熱に、全身が緩む。また、湯気と共に立ち昇ってくる爽やかな香りも、心を落ち着かせてくれる。
「だろう!? そうだろう!?」
「足湯を紹介して下さって、ありがとうございます」
「ははは! 心ゆくまで感謝するといい!」
ジルカスの返答はいちいち違和感のあるものだ。
でも今は、そんな小さなことは気にならない。
体を温めると心まで穏やかになる、という話を聞いたことがあるが、それもまんざら間違いではないのかもしれない。
胸の奥にはいくつものしこりがある。元いた世界への未練もまったくないわけではない。けれども、ジルカスと共にこちらの世界の暮らしを体験していくうちに、ここでの生活も悪くはないと思えるようになってきた。これは、徐々に馴染んできている、ということなのだろうか。
決して贅沢な暮らしではない。
むしろ、質素なくらい。
電子機器はないし、便利なものは少ないし、いろんな意味で非効率的な生活スタイル。でもそれは、人間の本質を思い出させてくれる。元いた世界に比べて不便さがあることは否めないが、こちらの世界の暮らしが批判するべき悪いものであるとは、私は思わない。
◆
ジルカスとの暮らしの中で、私は、彼に反発することがよくあった。
生まれ育った環境が違う二人だから、そもそも持っている常識が異なる。それゆえ、すれ違ってしまうことも多い。小さなことで喧嘩になることも多々あった。
けれど、なんだかんだで、私たちは共に暮らしていく。
私は行き場がないし、ジルカスは私を妻にしたいようだし、ある意味利害の一致。だから二人が離れることはなかった。
◆
「ははは! 今日でもう二週間か!」
なんだかんだで、こちらの世界に来てから二週間が過ぎた。
最初は戸惑いしかなかったが、これだけ時間が経つと、さすがにもうこちらの世界にも慣れてきている。
「早いものですね」
本当に、時が経つのは早いものだ。
「ははは! 貴様は相変わらず冷淡だな!」
ジルカスはいつも通り大きな声を出している。
だが、生意気な私に対して怒りを抱いているということはないようだ。
「冷淡、だなんて、失礼ですよ」
「それは悪い! すまん!」
「……いえ。私にも問題がありました」
「ははは! どうだ!?」
「結構気持ちいいです」
つま先の毛細血管すら広がりそうな熱に、全身が緩む。また、湯気と共に立ち昇ってくる爽やかな香りも、心を落ち着かせてくれる。
「だろう!? そうだろう!?」
「足湯を紹介して下さって、ありがとうございます」
「ははは! 心ゆくまで感謝するといい!」
ジルカスの返答はいちいち違和感のあるものだ。
でも今は、そんな小さなことは気にならない。
体を温めると心まで穏やかになる、という話を聞いたことがあるが、それもまんざら間違いではないのかもしれない。
胸の奥にはいくつものしこりがある。元いた世界への未練もまったくないわけではない。けれども、ジルカスと共にこちらの世界の暮らしを体験していくうちに、ここでの生活も悪くはないと思えるようになってきた。これは、徐々に馴染んできている、ということなのだろうか。
決して贅沢な暮らしではない。
むしろ、質素なくらい。
電子機器はないし、便利なものは少ないし、いろんな意味で非効率的な生活スタイル。でもそれは、人間の本質を思い出させてくれる。元いた世界に比べて不便さがあることは否めないが、こちらの世界の暮らしが批判するべき悪いものであるとは、私は思わない。
◆
ジルカスとの暮らしの中で、私は、彼に反発することがよくあった。
生まれ育った環境が違う二人だから、そもそも持っている常識が異なる。それゆえ、すれ違ってしまうことも多い。小さなことで喧嘩になることも多々あった。
けれど、なんだかんだで、私たちは共に暮らしていく。
私は行き場がないし、ジルカスは私を妻にしたいようだし、ある意味利害の一致。だから二人が離れることはなかった。
◆
「ははは! 今日でもう二週間か!」
なんだかんだで、こちらの世界に来てから二週間が過ぎた。
最初は戸惑いしかなかったが、これだけ時間が経つと、さすがにもうこちらの世界にも慣れてきている。
「早いものですね」
本当に、時が経つのは早いものだ。
「ははは! 貴様は相変わらず冷淡だな!」
ジルカスはいつも通り大きな声を出している。
だが、生意気な私に対して怒りを抱いているということはないようだ。
「冷淡、だなんて、失礼ですよ」
「それは悪い! すまん!」
「……いえ。私にも問題がありました」
0
あなたにおすすめの小説
銀狼の花嫁~動物の言葉がわかる獣医ですが、追放先の森で銀狼さんを介抱したら森の聖女と呼ばれるようになりました~
川上とむ
恋愛
森に囲まれた村で獣医として働くコルネリアは動物の言葉がわかる一方、その能力を気味悪がられていた。
そんなある日、コルネリアは村の習わしによって森の主である銀狼の花嫁に選ばれてしまう。
それは村からの追放を意味しており、彼女は絶望する。
村に助けてくれる者はおらず、銀狼の元へと送り込まれてしまう。
ところが出会った銀狼は怪我をしており、それを見たコルネリアは彼の傷の手当をする。
すると銀狼は彼女に一目惚れしたらしく、その場で結婚を申し込んでくる。
村に戻ることもできないコルネリアはそれを承諾。晴れて本当の銀狼の花嫁となる。
そのまま森で暮らすことになった彼女だが、動物と会話ができるという能力を活かし、第二の人生を謳歌していく。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
婚約者を妹に譲ったら、婚約者の兄に溺愛された
みみぢあん
恋愛
結婚式がまじかに迫ったジュリーは、幼馴染の婚約者ジョナサンと妹が裏庭で抱き合う姿を目撃する。 それがきっかけで婚約は解消され、妹と元婚約者が結婚することとなった。 落ち込むジュリーのもとへ元婚約者の兄、ファゼリー伯爵エドガーが謝罪をしに訪れた。 もう1人の幼馴染と再会し、ジュリーは子供の頃の初恋を思い出す。
大人になった2人は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる