ある日突然嫁にされました。

四季

文字の大きさ
11 / 18

11.物々交換と帰宅

しおりを挟む
「ははは! そうだな! では一番美味しい果実を貰おうか!」

 茜色の三つ編みの少女は、ジルカスの大声にも怯まず、落ち着き払っている。容姿こそ年若い娘のようだが、その落ち着きぶりは、とても少女とは思えないものだった。まるで、一人前の大人が少女の皮を被っているかのよう。

「じゃあ……これはどう?」

 ジルカスの言葉への返しとして少女が差し出したのは、昆布色で楕円球の果物。
 表面はざらついていて、皮はかなり厚そう。見た感じ可愛らしい雰囲気ではないし、美味しそうということもない。

「おお! ダエヌか!」
「詳しいんだね、お兄さんは」
「ははは! 分からぬことなど何もない!」

 少女に褒められたジルカスは、なぜか自信満々発言を繰り出す。
 正直、隣にいるだけでも恥ずかしい。ジルカス自身は平気だからそんなことが言えるのだろうが、たまには、その横に立っていなければならない私の身になって考えてみてほしいというものだ。

「我らが持っているのはアベコベソウとアカクサソウだけだが、それでいいのか!?」

 ジルカスの発言を耳にして、ハッとした。

 よく考えてみれば、物と物を交換するシステムである以上、相手がこちらの持ち物に魅力を感じてくれなければならないのだ。

 お金がある世の中なら、欲しいものを見つけた時、お金を出せば大抵買うことができる。しかしそれは、お金に絶対的な価値があるからであって。誰にとっても絶対的な価値を持つお金の代わりを物でするとなると、物のやり取りはさらに複雑化するだろう。

「いいよ! アベコベソウ三十本とダエヌ一個でどう?」
「よし、そうしよう」

 ジルカスは背負っていた大きなカゴを一旦地面に下ろす。そして、その中から、アベコベソウを探し出す。アカクサソウと一緒に入っているから、即座に三十本を取り出すことはできない。が、アベコベソウとアカクサソウは見た目に大きな差があるため、分からなくなってしまうということはない。

「アベコベソウ三十本! これでどうだ!?」
「うん、じゃあダエヌね」

 こうして、茜色の三つ編みの少女とジルカスの間で物々交換が行われたのだった。

 少女との取り引きを終えた後も、私とジルカスは交換所内を練り歩く。そして、ところどころで物々交換を行なった。物々交換の相手は、私にとっては知らない人ばかり。でも、ジルカスには知り合いもいるようで、交換のついでにしばらく喋る相手もいた。


 ◆


 そして、帰宅。
 交換所では色々なものを貰うことができた。それは嬉しかったが、歩き過ぎて疲労困憊だ。

「ふわぁぁぁー……」

 帰宅した安堵感もあって、ついだらけてしまう。
 体を横にするのがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。

「ははは! 我が妻は疲れているようだな!」
「……はい」
「まさか、足腰が弱いのか?」
「こんなに歩いたのは久々です」

 疲れ果てて足が痛い。私はそんな状態なのに、ジルカスはまだ元気。普段と何も変わらないくらい生き生きしている。彼はかなり体力があるみたいだ。あるいは、慣れれば平気になるのだろうか。

「足が痛いなら、ダエヌ足湯をするというのはどうだ!?」

 柑橘を浮かべて入る風呂のようなものだろうか。

「え。足湯に使うなんて、ダエヌが勿体なくないですか」
「ははは! 我が妻はケチ臭いな!」

 ……どさくさに紛れて批判されてしまった。

 でも、ジルカスの批判が間違っているとは思わない。

 事実、私はケチ臭い女だ。

 しかも、ケチ臭いのが常にではないから余計に厄介。常にケチなら「そういう人」という風に理解されて終わりだろうが、たまにケチ臭くなってしまうとそれによって幻滅されがちだ。
 もっとも、それは性格的な部分なので、変えようとしても変えづらいところではあるのだが。

「だが案ずるな! 使うのは皮だけだ!」
「……では、中は?」
「そこは食べる! ジャムにして! 結構美味だぞ」
「そうだったのですね。それなら良いかもしれません」

 どうやら、食べられる部分は食べ、食べられない部分を足湯に使うということらしい。それなら勿体ないなくはない。むしろ有効活用と言えるだろう。

「するか? 足湯」
「はい。せっかくなので試してみたいです」

 ダエヌの皮を使った足湯は、日本では体験できないこと。
 ぜひ経験してみたい、と、今は思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。 ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。  「シェイド様、大好き!!」 「〜〜〜〜っっっ!!???」 逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...