ある日突然嫁にされました。

四季

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18.根は善良な人

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 共に暮らしているのだ、険悪な関係であり続けることに利益などない。
 歩み寄ることこそが大切——ジルカスの謝罪はそのことに気づかせてくれた。

「もう勝手なことはしません。でも……私、ジルカスさんにお世話になってばかりなのは悔しいので、これからは少しでも力にならせて下さい」

 私は本心を交えつつ話す。

 思いを伝えることは決して簡単なことではない。それは、器用さがなければできないことだ。そして、私には器用さがない。それゆえ、思いを分かりやすく伝えることは得意ではない。

 でも、それでも。

 私たちはこれから一緒に生きていく関係だ。
 だからこそ、純粋な気持ちを伝えられる関係にならねばならない。もちろん、ある程度の礼儀は必要だが、常に心を偽ってばかりというわけにはいかないのだ。

「ははは! そうかそうか! その気持ちは嬉しいぞ!」

 私が自分の気持ちを打ち明けると、彼は豪快に笑った。

「だが心配は要らない! 我が妻は、笑っていれば、それでいい!」

 なぜ五七五調なのだろうか。
 ……いや、そこは気にするべきところではないか。

「野草集めの時には、また手伝ってくれ!」
「あ、はい。それはもちろん」

 どうして野草集めしかさせてもらえないのだろう、という疑問はあるが、ジルカスがそう言うのなら仕方がないのかもしれない。

「では……お掃除もします」
「なぜに!?」
「すべて任せっきりでは申し訳ないので」

 私とジルカスは主従でも何でもない。それゆえ、身の回りのありとあらゆることをジルカスに行ってもらうのは、罪悪感がある。それに、することが何もない暮らしは私には向いていない。私は器用な方ではないが、それでも、できることがあればしていきたいと思っている。

「そ、そうか……なら! 掃除は貴様に頼もう!」
「ありがとうございます」

 暗雲に覆い尽くされていた二人の関係は、ようやく日向へ出ることができそうだ。


 ◆


 その日以降、私は、家の掃除に精を出す暮らしを始めた。

 掃除をすると言っても、私は特別な技術を持った人間ではない。それゆえ、机の上を布で拭いたり埃を集めたりというような素人でも可能な内容の掃除しかできない。この世界には掃除機もないし、とことん不便である。
 ただ、それでも楽しかった。

 忙しく暮らしている時はゆっくりしたいと思うものだが、逆に何もすることがないと何かしたいと思ってくるものなのだと、私は知った。

 掃除を始めたことで、私の生活は、若干だが色づき始めたような気がする。
 それに、家の中の掃除ならジルカスを心配させることもない。


 ◆


「我が妻よ! 今日は野草を採りに行かないか!?」

 私は掃除、ジルカスはそれ以外の用事、と分業し初めてから、早いもので十日ほどが過ぎた。

 ここしばらく、二人の関係は落ち着いている。時折小さなすれ違いはあっても、大きな仲違いはない。それぞれが自身の役目を果たすことで二人共が快適に暮らすことができているようなので、順調だ。

「良いですね」
「ははは! そうだろう! 名案だろう!」

 ジルカスは相変わらずこんな人。常に自信を持っていて、それを露わにすることへの恥じらいがない。
 でも、私もさすがにもう慣れた。
 最初は不思議に思っていたが、今はもう不思議には思わない。ジルカスはそういう質、と分かっているから。

「……自分で言ってしまうと、少し恥ずかしいですよ」
「んな!? 直球ッ!!」
「本当のことしか言っていません」
「そ、そういうものか……?」

 ジルカスは基本的に自信家。けれど、私を大切にしてくれてはいるし、根は善良。だから、たまに鬱陶しく感じることはあっても、嫌いではない。


—終わり—
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