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17.仲違い?
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「まったく! 何という危険なことをするんだ!」
その後、数時間にわたってぶつくさ言われた。
私の身を案じてくれたことは嬉しい。けれど、鬱陶しい母親のように余計なことばかり言ってくることには、少しばかり腹を立ててしまった。私はそこまで心の広い人間ではないから。
いつ以来だろう、誰かに対してこんな風に苛立つのは。
ジルカスとて悪気はないのだろう。それは分かっている。私の身を心配してくれたからこその言葉だということだって分かっているのだ。
でも、だからといって、何を言われても腹が立たないかと尋ねられれば、頷けはしない。
私だってもう小さな子どもではないのだ、小さなことでぶつくさ言われれば不快としか感じられない。
「我が妻は無茶が過ぎる!」
「……あの、もう愚痴は止めていただけませんか」
やがて、私はついに発してしまった。
色々言われることに耐えきれなくて。
「愚痴だと!? ……違う。心配しただけだ、失礼だぞ!?」
「そんな風に色々言われると、さすがに不快感があります」
本心を打ち明ければ、きっと分かってもらえるはず。そう信じてはいたのだが、それはただの希望的観測に過ぎず。私の言葉が不器用だっただけかもしれないが、この気持ちがきちんとジルカスに伝わることはなかった。いざ伝えようとすると難しいものだ、気持ちとは。
「心配しただけだろう! それをなぜ、そんな風に言う!?」
「執拗に嫌みを言うのは止めてほしいです」
「嫌み!? そんなことは言っていない! ただ我が妻のことを思って言っているだけだ!」
「愚痴を言うのは私のためにはなりません」
結局、その日は仲直りできなかった。
お互い意見があるからこそ、歩み寄れなかった。
◆
それ以降、しばらくの間、気まずい日々だった。
私が彼の家から出ていけば済んだ話なのだろうが、私にはそこまでの勇気はなく、しかしその結果非常に気まずさのある暮らしをすることとなってしまったのだ。
彼の家にいさせてもらうなら、私の方が譲るべき。そう思う者だっているだろう。だが、意見が食い違っている状況下では、それは難しいこと。譲るべき、と言う者は、まず私と同じ立場になってみてほしい。そして、自分の意見を捻じ曲げ、相手に従ってみてほしい。話はそれからだ。人間誰しも、口でなら何とでも言えるのだから。
◆
そんな気まずさの中で迎えた、ある朝。
眉をひそめながらジルカスがやって来た。
「おはよう」
「……おはようございます」
いつもはこちらが困るくらい大声ばかり出すジルカスだが、今日は妙に弱々しい声で話しかけてくる。
一般的な常識で考えるなら、これが普通。いつもの大声がおかしい。だが、ジルカスにおける常識に照らし合わせれば、今日の弱々しい喋り方はあまりに不自然だ。もはや、違和感がある、どころの話ではない。違和感しかない、の方が相応しい。
「我が妻よ、この前はすまなかった」
「……え?」
ジルカスの唐突な謝罪に戸惑う。
想定外だった、謝られるなんて。
「一体何を言って……?」
私は、戸惑いに満ちた心のまま、ジルカスの顔へと視線を注ぐ。その時、偶然か否かジルカスもこちらに視線を向けてきていて、目と目が合った。視線が重なるのなんて、いつ以来だろう。
「色々余計なことを言い過ぎたかもしれないと、今は少し反省している」
「いえ……ジルカスさんは悪くありません」
「心配したからといって、あそこまで怒る必要はなかったな。すまん。許してほしい」
そう言って、ジルカスは頭を下げてくる。
こんなにきちんと謝罪されてしまったら、こちらも無視するわけにはいかない。さすがに、黙ってそっぽを向いているわけにはいかないだろう。
「勝手な行動をした私にも問題がありました。……こちらこそごめんなさい」
だから、私も謝罪しておいた。
お互い非があったのだから、お互い謝り合えれば、一番話が早いだろう。
その後、数時間にわたってぶつくさ言われた。
私の身を案じてくれたことは嬉しい。けれど、鬱陶しい母親のように余計なことばかり言ってくることには、少しばかり腹を立ててしまった。私はそこまで心の広い人間ではないから。
いつ以来だろう、誰かに対してこんな風に苛立つのは。
ジルカスとて悪気はないのだろう。それは分かっている。私の身を心配してくれたからこその言葉だということだって分かっているのだ。
でも、だからといって、何を言われても腹が立たないかと尋ねられれば、頷けはしない。
私だってもう小さな子どもではないのだ、小さなことでぶつくさ言われれば不快としか感じられない。
「我が妻は無茶が過ぎる!」
「……あの、もう愚痴は止めていただけませんか」
やがて、私はついに発してしまった。
色々言われることに耐えきれなくて。
「愚痴だと!? ……違う。心配しただけだ、失礼だぞ!?」
「そんな風に色々言われると、さすがに不快感があります」
本心を打ち明ければ、きっと分かってもらえるはず。そう信じてはいたのだが、それはただの希望的観測に過ぎず。私の言葉が不器用だっただけかもしれないが、この気持ちがきちんとジルカスに伝わることはなかった。いざ伝えようとすると難しいものだ、気持ちとは。
「心配しただけだろう! それをなぜ、そんな風に言う!?」
「執拗に嫌みを言うのは止めてほしいです」
「嫌み!? そんなことは言っていない! ただ我が妻のことを思って言っているだけだ!」
「愚痴を言うのは私のためにはなりません」
結局、その日は仲直りできなかった。
お互い意見があるからこそ、歩み寄れなかった。
◆
それ以降、しばらくの間、気まずい日々だった。
私が彼の家から出ていけば済んだ話なのだろうが、私にはそこまでの勇気はなく、しかしその結果非常に気まずさのある暮らしをすることとなってしまったのだ。
彼の家にいさせてもらうなら、私の方が譲るべき。そう思う者だっているだろう。だが、意見が食い違っている状況下では、それは難しいこと。譲るべき、と言う者は、まず私と同じ立場になってみてほしい。そして、自分の意見を捻じ曲げ、相手に従ってみてほしい。話はそれからだ。人間誰しも、口でなら何とでも言えるのだから。
◆
そんな気まずさの中で迎えた、ある朝。
眉をひそめながらジルカスがやって来た。
「おはよう」
「……おはようございます」
いつもはこちらが困るくらい大声ばかり出すジルカスだが、今日は妙に弱々しい声で話しかけてくる。
一般的な常識で考えるなら、これが普通。いつもの大声がおかしい。だが、ジルカスにおける常識に照らし合わせれば、今日の弱々しい喋り方はあまりに不自然だ。もはや、違和感がある、どころの話ではない。違和感しかない、の方が相応しい。
「我が妻よ、この前はすまなかった」
「……え?」
ジルカスの唐突な謝罪に戸惑う。
想定外だった、謝られるなんて。
「一体何を言って……?」
私は、戸惑いに満ちた心のまま、ジルカスの顔へと視線を注ぐ。その時、偶然か否かジルカスもこちらに視線を向けてきていて、目と目が合った。視線が重なるのなんて、いつ以来だろう。
「色々余計なことを言い過ぎたかもしれないと、今は少し反省している」
「いえ……ジルカスさんは悪くありません」
「心配したからといって、あそこまで怒る必要はなかったな。すまん。許してほしい」
そう言って、ジルカスは頭を下げてくる。
こんなにきちんと謝罪されてしまったら、こちらも無視するわけにはいかない。さすがに、黙ってそっぽを向いているわけにはいかないだろう。
「勝手な行動をした私にも問題がありました。……こちらこそごめんなさい」
だから、私も謝罪しておいた。
お互い非があったのだから、お互い謝り合えれば、一番話が早いだろう。
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