ある日突然嫁にされました。

四季

文字の大きさ
17 / 18

17.仲違い?

しおりを挟む
「まったく! 何という危険なことをするんだ!」

 その後、数時間にわたってぶつくさ言われた。

 私の身を案じてくれたことは嬉しい。けれど、鬱陶しい母親のように余計なことばかり言ってくることには、少しばかり腹を立ててしまった。私はそこまで心の広い人間ではないから。

 いつ以来だろう、誰かに対してこんな風に苛立つのは。

 ジルカスとて悪気はないのだろう。それは分かっている。私の身を心配してくれたからこその言葉だということだって分かっているのだ。

 でも、だからといって、何を言われても腹が立たないかと尋ねられれば、頷けはしない。
 私だってもう小さな子どもではないのだ、小さなことでぶつくさ言われれば不快としか感じられない。

「我が妻は無茶が過ぎる!」
「……あの、もう愚痴は止めていただけませんか」

 やがて、私はついに発してしまった。
 色々言われることに耐えきれなくて。

「愚痴だと!? ……違う。心配しただけだ、失礼だぞ!?」
「そんな風に色々言われると、さすがに不快感があります」

 本心を打ち明ければ、きっと分かってもらえるはず。そう信じてはいたのだが、それはただの希望的観測に過ぎず。私の言葉が不器用だっただけかもしれないが、この気持ちがきちんとジルカスに伝わることはなかった。いざ伝えようとすると難しいものだ、気持ちとは。

「心配しただけだろう! それをなぜ、そんな風に言う!?」
「執拗に嫌みを言うのは止めてほしいです」
「嫌み!? そんなことは言っていない! ただ我が妻のことを思って言っているだけだ!」
「愚痴を言うのは私のためにはなりません」

 結局、その日は仲直りできなかった。
 お互い意見があるからこそ、歩み寄れなかった。


 ◆


 それ以降、しばらくの間、気まずい日々だった。

 私が彼の家から出ていけば済んだ話なのだろうが、私にはそこまでの勇気はなく、しかしその結果非常に気まずさのある暮らしをすることとなってしまったのだ。

 彼の家にいさせてもらうなら、私の方が譲るべき。そう思う者だっているだろう。だが、意見が食い違っている状況下では、それは難しいこと。譲るべき、と言う者は、まず私と同じ立場になってみてほしい。そして、自分の意見を捻じ曲げ、相手に従ってみてほしい。話はそれからだ。人間誰しも、口でなら何とでも言えるのだから。


 ◆


 そんな気まずさの中で迎えた、ある朝。
 眉をひそめながらジルカスがやって来た。

「おはよう」
「……おはようございます」

 いつもはこちらが困るくらい大声ばかり出すジルカスだが、今日は妙に弱々しい声で話しかけてくる。

 一般的な常識で考えるなら、これが普通。いつもの大声がおかしい。だが、ジルカスにおける常識に照らし合わせれば、今日の弱々しい喋り方はあまりに不自然だ。もはや、違和感がある、どころの話ではない。違和感しかない、の方が相応しい。

「我が妻よ、この前はすまなかった」
「……え?」

 ジルカスの唐突な謝罪に戸惑う。
 想定外だった、謝られるなんて。

「一体何を言って……?」

 私は、戸惑いに満ちた心のまま、ジルカスの顔へと視線を注ぐ。その時、偶然か否かジルカスもこちらに視線を向けてきていて、目と目が合った。視線が重なるのなんて、いつ以来だろう。

「色々余計なことを言い過ぎたかもしれないと、今は少し反省している」
「いえ……ジルカスさんは悪くありません」
「心配したからといって、あそこまで怒る必要はなかったな。すまん。許してほしい」

 そう言って、ジルカスは頭を下げてくる。
 こんなにきちんと謝罪されてしまったら、こちらも無視するわけにはいかない。さすがに、黙ってそっぽを向いているわけにはいかないだろう。

「勝手な行動をした私にも問題がありました。……こちらこそごめんなさい」

 だから、私も謝罪しておいた。
 お互い非があったのだから、お互い謝り合えれば、一番話が早いだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

処理中です...