婚約破棄は終わりではありません。 ~異世界恋愛作品集・短期連載などまとめ~

四季

文字の大きさ
15 / 15
その他短編

2作品

しおりを挟む
『関係の終わりというのはいつも突然やって来る……ものですね。~それでも私は幸せになるのです~』


 関係の終わりというのはいつも突然やって来る。

「君との婚約は破棄とすることにした」

 婚約者ガインズからそう宣言されたのは、ある平凡な夏の日で。

「俺は君より魅力的な女性に出会ってしまった。そして真実の愛を知ってしまったんだ。もう彼女しか見えない、だから、もう君は要らないんだ。君など所詮形だけの婚約者だったのだ、と、今は完全に理解した」

 恐らく言っているその女性に惚れたのだろう。彼はそんな極めて自己中心的なことを理由として私を切り捨てようとしている。それは非常に愚かなことだ。自分のことしか考えず、自分のためだけに道を選ぶ。彼の生き方は周囲に迷惑をかけるばかりのもの。

「真実の愛に出会ってしまったら……もう仕方ないんだ。これまでの関係なんてどうでもいいし、そんなものは叩き壊してやる。それだけの覚悟が俺にはある。だから……君とはここでお別れする」

 ガインズは信じられないくらい冷たい目をしていた。

「伝えたからな。では、さらばだ」

 そう言って彼は去っていったのだけれど――その帰り道、彼は野犬の群れに襲われて酷い傷を負い、やがて帰らぬ人となった。

 愛しい人と結ばれようとして。
 近しい人を傷つけて。
 好きなことを好きなように、自分勝手に生きていた彼の最期は呆気ないものだった。

 だがこちらからすれば「ふーん」としか思わない。

 ガインズは私を傷つけた。だから、その人に何があったとしても、それはどうでもいいことだ。彼がどうなったとしても、可哀想だとは思わないし、思いたくもない。ガインズに向ける優しさは私の中にはもう欠片ほども残っていないのだ。私たちの関係はもう変わった。今はもう、婚約者同士だった頃の二人ではない。


 ◆


 あれから何年が経っただろうか。
 確かなことは思い出せない。
 ただ一年や二年といった経過ではない、もっと長い時が流れ過ぎていった。

 私は今、資産家の男性の妻となっている。

「これをどうぞ」
「え!? ……これ、君が淹れてくれたのかい?」
「ええ、淹れてみたの」
「嬉しいよ! ありがとう! 君が淹れてくれる紅茶はいつもとっても美味しいから好きなんだ」

 夫となった彼は私に対して何も求めない。あれをしろ、これをしろ、なんて、絶対に言わない。それに、どんな私であっても受け入れてくれる。

 でも、だからこそ、私は常に彼のためにできることを探している。

 求められなければ何かしたくなるのだから、人の心とは不思議なものだ。

「砂糖は入れておいたから」
「ありがとう!」

 これからも彼と生きていきたい。
 この幸せを護りながら歩みたい。

 だから、そのためにできることがあるなら、何だってやっていくつもり。

「入れない方が良かったら言ってちょうだいね、次からそうするから」
「いやいや、いいんだ、砂糖は好きだし」
「なら良かったわ」
「もう本当に感謝しかないよ」
「いいえ。感謝すべきは私の方よ。私がこうやって穏やかに暮らせているのは貴方がいてくれるからこそだもの、感謝しなくちゃならないのは私」

 彼と出会えて幸せになれた。
 だから彼にお返ししたい。
 けれども私には彼へ返せるものがまだそんなにない。
 それゆえ悩むこともあるけれど。
 一つ一つ考えて行動していけば何か少しは返せるかもしれない。

「その言葉、そのまま返すよ」
「ええー……」
「事実だから仕方ないね」
「お互い様って感じ?」
「そうだね」
「じゃあお互いにお礼を言うことになる感じね」
「ま、厳密にはこっちの方がお世話になってしまってるけどね」

 ありがとう、その気持ちを忘れずに生きてゆけるなら、きっと大丈夫。

 幸せな日々は長く続くだろう。


◆終わり◆



『結局、三人のうちで幸せになれたのは私だけでした。~ハッピーエンドはこの手の中に~』


 私アロマは思いやりのある青年カインと夫婦となっている。

「カイン、ここのお皿洗っておくわね」
「いいよ! 僕が洗うし! そのままでいいよ」
「でも」
「アロマは休んでて」
「そうね……じゃあ別のことをするわ。お茶を淹れるとか」
「いやいや、それじゃ休んでることにならないから」

 かつて私には別の相手がいた。
 その人とは婚約していた。
 けれど彼は他の女性に惚れ込みやがて私との関係性を終わらせた。

 そんな理不尽な出来事があって絶望の海に堕ちていた時カインに出会う。

 悲しんでいた私を支えてくれたのは彼だった。

「でも……」
「いいから休んでて」
「相変わらず頑固ね……」
「よく言われる」
「やっぱりそうなのね」
「うん」

 私たちは思ったことを言い合える関係だ。だから、時に多少すれ違うことがあったとしても、なんだかんだで同じ方向を見つめることができる。睨み合うのではなく話し合う、それが大切なこと。私はそう考えているし、だからこそ、彼と関わる時もそこを考慮して動くようにしている。彼はそれに応じてくれる人なので上手くいっている。

「今日は僕がお茶淹れてくるよ」
「ありがとう」

 共に生きていく、ということは、簡単なことではない。

 きっといろんな出来事に出会うだろうから。
 時には思わぬ困難に遭遇することだってあるだろう。

 それでも私たちは共に歩んでゆけると思う。

 生きていく中で何があったとしても。
 対話する心を忘れず、手を取り合って歩んでゆけば、最悪の未来は訪れないはずだ。

「今日は砂糖どのくらい淹れる?」
「そうね……中くらい、かしら」
「一昨日みたいな?」
「ええ」
「紅茶そのものの濃さは」
「お任せで」
「はーい」

 カインが淹れてくれるお茶はいつも美味しい。
 正直言うと私が淹れたものより美味しいのではないかと思う。
 彼は結婚する前からよくお茶を淹れていたので、きっと、経験値が積み重なっているのだろう。

 ちなみに、かつて私を切り捨てた元婚約者の彼はというと、私との関係を終わらせた一年後くらいに山を散歩していた山賊に襲われ行方不明となった。

 そしてそのまま彼の身体はどこかへ消えて。
 捜索しても発見されなかったために亡くなったという扱いになったそうだ。

 で、彼が惚れていた浮気相手の女性だが、彼女もまた残念な最期を迎えることとなったようだ。

 というのも、酒場で出会って怪しいイケメンに騙され信じられないくらいの額の借金を背負わされてしまったのである。

 もちろん彼女には飛び抜けた返済能力はなく。
 そのためどうしようもなくなってしまって。
 自分の命を売る、という、最悪の形で、借金を返済することとなってしまったそうなのだ。

 元婚約者の彼と、その浮気相手と、私と。その中で幸せになれたのは私だけだった。一度は絶望に堕とされた私が、否、私だけが、道の先で穏やかな幸せを手に入れることができた。

 人生は勝ち負けではない、とはいえ、これはもう私の完全勝利だろう。

「お待たせ! できたよ」
「良い香りね」
「砂糖の種類ちょっと変えてみた」
「どんなのに?」
「前話してたやつ」
「ああ! お菓子屋さんがくれたやつね!」
「そうそう」

 カインとの暮らしはこれからも続いていく。

「いつもとは少し感じが変わりそうね。どんな感じか楽しみだわ」
「僕もまだ飲んでみてなくて」
「じゃあ先飲んでいいわよ?」
「いやいや、そこはそっちから。感想教えて」
「いいの?」
「もちろんいいよ」

 今ここに在る穏やかで幸せな日常を護って生きてゆこう。


◆終わり◆
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

(完結)家族にも婚約者にも愛されなかった私は・・・・・・従姉妹がそんなに大事ですか?

青空一夏
恋愛
 私はラバジェ伯爵家のソフィ。婚約者はクランシー・ブリス侯爵子息だ。彼はとても優しい、優しすぎるかもしれないほどに。けれど、その優しさが向けられているのは私ではない。  私には従姉妹のココ・バークレー男爵令嬢がいるのだけれど、病弱な彼女を必ずクランシー様は夜会でエスコートする。それを私の家族も当然のように考えていた。私はパーティ会場で心ない噂話の餌食になる。それは愛し合う二人を私が邪魔しているというような話だったり、私に落ち度があってクランシー様から大事にされていないのではないか、という憶測だったり。だから私は・・・・・・  これは家族にも婚約者にも愛されなかった私が、自らの意思で成功を勝ち取る物語。  ※貴族のいる異世界。歴史的配慮はないですし、いろいろご都合主義です。  ※途中タグの追加や削除もありえます。  ※表紙は青空作成AIイラストです。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。

吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

あなたの思い通りにはならない

木蓮
恋愛
自分を憎む婚約者との婚約解消を望んでいるシンシアは、婚約者が彼が理想とする女性像を形にしたような男爵令嬢と惹かれあっていることを知り2人の仲を応援する。 しかし、男爵令嬢を愛しながらもシンシアに執着する身勝手な婚約者に我慢の限界をむかえ、彼を切り捨てることにした。 *後半のざまあ部分に匂わせ程度に薬物を使って人を陥れる描写があります。苦手な方はご注意ください。

処理中です...