イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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3話 ベルンハルト・デューラー

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 待つことしばらく。
 一人の青年が、二人の男に両腕をしっかり拘束されながら、連れてこられた。

 他の者たちとは、扱いが明らかに違う。これまでの者たちは、こんな風に拘束されてはいなかった。ということは、この青年は他の者たちとは違う、ということなのだろう。

「連れてきました!」
「おぉ、ご苦労」

 その様子を確認した後、ダンダは私の方へと向いてくる。

「王女様、この男はいかがでしょう? 他より凶暴ではありますが、しつけてしまえば役立ちますぞ!」

 両腕をしっかりと拘束されている青年は、容姿だけ見れば、至って普通だ。

 ほぼ黒と言ってもおかしくはない、暗い焦げ茶色の髪。細く凛々しい目に、黒い瞳。ダンダは凶暴だと言うが、青年の容姿から凶暴性を窺うことはできない。

「凶暴、とはどういうことですか? 何か罪を犯しでもした方なのですか?」

 浮かんだ疑問をずっと持っておくのも面倒なので、思いきって尋ねてみた。
 するとダンダは、渋いものを食べたかのように顔をしかめつつ、私の問いに答えてくれる。

「この男は抵抗ばかりして、己の立場を理解していないのです。それゆえ、もう少し教育が必要やもしれませんな。ただ、しっかり教育すれば、優秀な駒となることは確かです」

 ダンダの説明を聞いてから、私は再び、青年へと視線を向ける。それから少しじっと見つめていると、拘束されている青年がこちらを向いた。

 私を睨んでいる。
 まるで、親の仇を見るかのような目つきで。

 先ほど目にした、他の者たちの媚びるような目つきとは、真逆だ。

 彼は私に気に入られようとは思っていない——言葉を交わさずとも、それが伝わってくる。

 でもなぜだろう。
 よく分からないけれど、彼には興味が湧く。

 彼は一体何者なのか。彼はこれまで、どのような人生を歩んできたのか。そんな風に、色々知りたくなってしまう。

 ——気づけば、私は彼のいる方へと歩み寄っていた。

「貴方、他の人とは違うわね」

 自然に口が動いた。
 これまでは、話したくなんて一度もならなかったのに。

「貴方からは、他の人にはなかった気高さを感じるわ。お名前、聞かせてもらっても構わないかしら」

 すると青年は、私を睨んだまま、小さく口を動かす。

「ベルンハルト・デューラー」

 凄く冷たい声だ。
 でも、なぜか惹かれる。もっと知りたいと思ってしまう。

「ベルンハルトというのね。素敵な名前だわ」

 それは正直な言葉だった。機嫌取りのお世辞などではない。

「私はイーダ・オルマリン」
「……オルマリンの女に用などない」

 両腕を拘束された青年——ベルンハルトは、私の歩み寄ろうする努力を、粉々に打ち砕いた。
 この星の王女である私にこんな態度をとる人は、なかなか見かけない。

「念のため言っておくが、僕はオルマリンの女に仕える気など、微塵もない」
「……そうなの? なら、なぜここに?」
「強制的に連れてこられただけだ」

 ベルンハルトが私から目を逸らすことはなかった。彼は、ほんの一瞬も私から目を離さず、ただひたすら睨み続けている。

「僕はオルマリンに屈する気はない。オルマリンの女に仕えるということも、絶対にあり得ない」

 どうやら彼は私の従者となる気はないようだ。むしろ、私を嫌っている様子である。


 その時。

 眉間にしわを寄せながら、ダンダが私たちのいる方へと、ずんずん歩いてきた。先ほどまでとは顔つきが違っている。

 何事かと思っていると、彼はズボンから短い鞭を取り出した。

「無礼者め!」

 そして、その鞭でベルンハルトの頬を叩いた。

「……っ!」

 ベルンハルトの頬から、赤いものが流れ出す。
 ダンダに鞭で叩かれた時に、切れてしまったものと思われる。

「王女様に対し、何ということを!」

 鋭く叫んでから、ダンダはもう一度、鞭でベルンハルトの頬を叩いた。

「や、止めて下さい!」
「オルマリン人でもないくせに、調子に乗るな!」

 制止しようと言ってみたが、ダンダは少しも聞いてくれない。今のダンダは、ベルンハルトを傷つけることに集中しすぎてしまっているようだ。

「貴様! 王女様にあのような口の利き方をするとは、万死に値するぞ!」

 ダンダの指示で、ベルンハルトの両腕が厳しく締め上げられていく。
 それでも、ベルンハルトは平静を保っていた。だが、締め上げがかなりきつくなり上半身が反り返ってくると、その顔を歪めた。

「……く」

 苦痛に声を漏らすベルンハルトを見て堪らなくなった私は、ついに声を荒らげる。

「止めて! 彼に酷いことをしないで!」

 半ば無意識に体が動き、気づけば、ベルンハルトとダンダの間に立っていた。

 自分でも、自分の行動がよく分からない。
 ただ、私がその位置へ入ったことで、ベルンハルトが鞭で打たれるのを回避することができた。それだけは良かったと思う。

「お、王女様。そこをお退き下さい……!」
「いいえ。退かないわ」

 確かに、ベルンハルトは無礼かもしれない。
 でも、だからといって、傷つけて良いということにはならない。

「一方的に傷つけるのは止めて!」
「し、しかし、王女様……」
「ベルンハルトとは私が話します! ちゃんと話せば、きっと分かってくれるはずよ。だから、それまで少し待って」

 私がベルンハルトを庇う理由など、何もない。ただ、目の前で彼が傷つけられるところを見るのが嫌だっただけだ。

 こういう時だけは王女で良かったと思ったりする。

 それから私は、ベルンハルトの方へと体を向け、改めて話しかける。

「頬は平気?」
「心配されるようなことではない。貴女は知らないだろうが、収容所では、こういうことは日常茶飯事だ」
「……そうなの? 酷い環境なのね」

 収容所内では暴力が当たり前なのだろうか。だとしたら、そこで暮らしている人たちは、きっと辛いはずだ。

「僕からすれば、オルマリンは倒すべき敵だ」
「ベルンハルトはオルマリン人でないの? どこかからやって来たの?」

 気になったので質問してみた。しかし、彼は微かに俯いて、「答える必要はない」と言うだけだった。


 ——刹那。

「……えっ?」

 首の後ろ側、うなじに、突如冷たいものが触れた。
 瞳だけを動かし背後へ視線を向けると、視界の端に、ダンダが拳銃を突きつけている様子が入る。

「……どうして」
「本当なら従者となった者に殺らせるつもりだったのですがな。どうやらそれは無理そうですので、ここでわたくし自らが手を下すことと致します」

 私は信じられなかった。
 まさか、ダンダが私の命を狙っていたなんて。

「では、王女様。お覚悟を」
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