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15話 芽生える予感
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こうして、ベルンハルトを従者として迎えることに決めた。
新しい誰かと出会い、同じ時間を過ごすこと。そして、その誰かと、いつか別れなくてはならないこと。それらに対する恐怖心は、まだ完全に消えたわけではない。
だが、いつまでも怯えて閉じ籠もっているだけでは何も変わらない、と思う気持ちもある。
だから私は、彼を迎えようと決断したのだ。
「じゃ、彼も従者になるってわけねー」
それまでは私とベルンハルトの会話を黙って聞いていたリンディアが、私たちの話がまとまるや否や、口を開いた。
「面白くなってきたじゃなーい」
久々に話し出したリンディアは、口元に挑戦的な笑みを浮かべている。
「イーダ王女は、あたし一人じゃ納得できないって感じみたいねー?」
「いいえ。それは違うわ」
「えー。でも、どう考えてもそうじゃなーい」
べつに、リンディアがどうだからベルンハルトを従者にする、というわけではない。単に、今その話になったから、というだけのことだ。だが、そう思われてしまったものは仕方がない。
「あたしの目の前でそんな話をするってことはー、さりげなく見せつけているとしか思えないのよねー」
め、面倒臭い……。
内心そう思ってしまったが、それをはっきり告げるのも問題だ。それに、無益な争いは避けたいという思いもあるため、下手に出ておくことにした。
「そう思わせてしまったなら、ごめんなさい。謝るわ。けれど、本当にそんなつもりはなかったの」
それは、まぎれもない事実である。
「本当にー?」
「えぇ、本当よ」
リンディアの水晶のような瞳を見つめ、落ち着いた調子で返した。
すると彼女は口を閉ざす。
そして、それから少し、十秒には満たない沈黙の後、彼女は再び口を開く。
「……ま、そう言うならいーわ」
リンディアの表情が、ほんの少し柔らかくなった気がした。
「べつに、あたしだって、イーダ王女を悪く言いたいわけじゃなーいものー」
「分かってくれたのね。ありがとう、リンディア」
「変なこと言って、悪かったわねー」
そう言ってからリンディアは、ベルンハルトの方へと歩いていく。数歩進んだ後、彼の前で足を止めると、彼女はさっと手を伸ばした。
「ま、よろしくねー」
しかし、ベルンハルトはその手を取らなかった。
「悪いが、お前と握手する気はない」
ベルンハルトに冷たい態度をとられ、リンディアは顔に怒りの色を浮かべる。
「ちょっと、何よそれ」
リンディアは低い声を出す。
だが、ベルンハルトはそのくらいでは怯まない。特に何かを言うことはせず、冷ややかな目つきでリンディアをじっと見ているだけだ。
「せっかく握手してあげよーとしたのに、拒むなんて。一体、どういうつもりなの?」
「お前のような女と馴れ合おうとは思わない」
「すっごく感じ悪い男ね!」
ベルンハルトの言葉は、リンディアの怒りに油を注ぐばかり。これでは、ベルンハルトが何か言えば言うほどリンディアは怒る、という構図にしかならない。
「そもそも、僕は握手してほしいなどとは言っていないはずなのだが」
「そーね。だったら何? あたしのサービス精神にいちゃもんをつける気?」
従者になったと思ったら、いきなり喧嘩。
こんなことが続くようではやっていられないので、勇気を出して、はっきり言うことにした。
「喧嘩は止めて!」
こんな偉そうに言うというのも、問題だとは思う。だが、取り敢えず止めないことにはどうにもならないから、仕方がない。
「喧嘩する従者なんて、必要ないのよ!」
つい調子を強めてしまった。
ベルンハルトとリンディアが、同時に私の顔を見る。
——やってしまった。
こんな思いやりのないことを言ってしまうなんて。私は最低だ、と思わざるを得なかった。二人とも、危険な目に遭うことを承知した上で従者になってくれた、勇敢な人なのに。
「あ……その、ごめんなさい」
力になろうとしてくれている人に対して、私はなんということを言ってしまったのだろう。
「さすがに言いすぎたわ。ごめんなさい」
すると、リンディアが口を開く。
「やーね! そんな暗い顔をしないでちょーだい!」
あっけらかんとした声に、私は驚きを隠せなかった。
驚きのあまり、言葉も出ない。
「貴女は悪いことなんて、なーんにもしてないじゃなーい」
自分の赤い髪を指でくるくるといじりながら、リンディアはそんなことを言う。しかもさっぱりした声色で。
妙な人である。不思議で仕方がない。
「イーダ王女が謝ることなんてないのよー」
「そうだ」
突如、ベルンハルトが参加してきた。
「原因はこの女。貴女ではない」
だがやはり、彼はリンディアを刺激するようなことしか言わない。そこにぶれはなかった。正直一番困るところなので、できればぶれてほしいのだが。
「ちょっとー。今、何て言ったのー?」
「原因はイーダ王女ではない、と言っただけだ」
「本当にそれだけだったかしらねー?」
「僕は嘘はつかない」
今回は喧嘩に発展するところまではいかなかったようだ。
思えば、こんな風に誰かと過ごすのは久しぶり。はっきりと「嬉しい!」と言うことはできないけれど、やはり嬉しさはある。
そんなこんなで、私は、ベルンハルトとリンディアという従者を得た。
もし何かが起きた時のことを考えると、また過去と同じ悲劇が繰り返されないか、少し不安。ただ、それとは裏腹に安心感もある。よく分からない、微妙な心境だ。
けれども、この出会いはきっと、私の中の何かを変えてくれるだろう。
具体的な根拠はないけれど、そんな予感がするのだ。
その予感が——良い意味で当たりますように。
私はそう願う。今、心の底から。
新しい誰かと出会い、同じ時間を過ごすこと。そして、その誰かと、いつか別れなくてはならないこと。それらに対する恐怖心は、まだ完全に消えたわけではない。
だが、いつまでも怯えて閉じ籠もっているだけでは何も変わらない、と思う気持ちもある。
だから私は、彼を迎えようと決断したのだ。
「じゃ、彼も従者になるってわけねー」
それまでは私とベルンハルトの会話を黙って聞いていたリンディアが、私たちの話がまとまるや否や、口を開いた。
「面白くなってきたじゃなーい」
久々に話し出したリンディアは、口元に挑戦的な笑みを浮かべている。
「イーダ王女は、あたし一人じゃ納得できないって感じみたいねー?」
「いいえ。それは違うわ」
「えー。でも、どう考えてもそうじゃなーい」
べつに、リンディアがどうだからベルンハルトを従者にする、というわけではない。単に、今その話になったから、というだけのことだ。だが、そう思われてしまったものは仕方がない。
「あたしの目の前でそんな話をするってことはー、さりげなく見せつけているとしか思えないのよねー」
め、面倒臭い……。
内心そう思ってしまったが、それをはっきり告げるのも問題だ。それに、無益な争いは避けたいという思いもあるため、下手に出ておくことにした。
「そう思わせてしまったなら、ごめんなさい。謝るわ。けれど、本当にそんなつもりはなかったの」
それは、まぎれもない事実である。
「本当にー?」
「えぇ、本当よ」
リンディアの水晶のような瞳を見つめ、落ち着いた調子で返した。
すると彼女は口を閉ざす。
そして、それから少し、十秒には満たない沈黙の後、彼女は再び口を開く。
「……ま、そう言うならいーわ」
リンディアの表情が、ほんの少し柔らかくなった気がした。
「べつに、あたしだって、イーダ王女を悪く言いたいわけじゃなーいものー」
「分かってくれたのね。ありがとう、リンディア」
「変なこと言って、悪かったわねー」
そう言ってからリンディアは、ベルンハルトの方へと歩いていく。数歩進んだ後、彼の前で足を止めると、彼女はさっと手を伸ばした。
「ま、よろしくねー」
しかし、ベルンハルトはその手を取らなかった。
「悪いが、お前と握手する気はない」
ベルンハルトに冷たい態度をとられ、リンディアは顔に怒りの色を浮かべる。
「ちょっと、何よそれ」
リンディアは低い声を出す。
だが、ベルンハルトはそのくらいでは怯まない。特に何かを言うことはせず、冷ややかな目つきでリンディアをじっと見ているだけだ。
「せっかく握手してあげよーとしたのに、拒むなんて。一体、どういうつもりなの?」
「お前のような女と馴れ合おうとは思わない」
「すっごく感じ悪い男ね!」
ベルンハルトの言葉は、リンディアの怒りに油を注ぐばかり。これでは、ベルンハルトが何か言えば言うほどリンディアは怒る、という構図にしかならない。
「そもそも、僕は握手してほしいなどとは言っていないはずなのだが」
「そーね。だったら何? あたしのサービス精神にいちゃもんをつける気?」
従者になったと思ったら、いきなり喧嘩。
こんなことが続くようではやっていられないので、勇気を出して、はっきり言うことにした。
「喧嘩は止めて!」
こんな偉そうに言うというのも、問題だとは思う。だが、取り敢えず止めないことにはどうにもならないから、仕方がない。
「喧嘩する従者なんて、必要ないのよ!」
つい調子を強めてしまった。
ベルンハルトとリンディアが、同時に私の顔を見る。
——やってしまった。
こんな思いやりのないことを言ってしまうなんて。私は最低だ、と思わざるを得なかった。二人とも、危険な目に遭うことを承知した上で従者になってくれた、勇敢な人なのに。
「あ……その、ごめんなさい」
力になろうとしてくれている人に対して、私はなんということを言ってしまったのだろう。
「さすがに言いすぎたわ。ごめんなさい」
すると、リンディアが口を開く。
「やーね! そんな暗い顔をしないでちょーだい!」
あっけらかんとした声に、私は驚きを隠せなかった。
驚きのあまり、言葉も出ない。
「貴女は悪いことなんて、なーんにもしてないじゃなーい」
自分の赤い髪を指でくるくるといじりながら、リンディアはそんなことを言う。しかもさっぱりした声色で。
妙な人である。不思議で仕方がない。
「イーダ王女が謝ることなんてないのよー」
「そうだ」
突如、ベルンハルトが参加してきた。
「原因はこの女。貴女ではない」
だがやはり、彼はリンディアを刺激するようなことしか言わない。そこにぶれはなかった。正直一番困るところなので、できればぶれてほしいのだが。
「ちょっとー。今、何て言ったのー?」
「原因はイーダ王女ではない、と言っただけだ」
「本当にそれだけだったかしらねー?」
「僕は嘘はつかない」
今回は喧嘩に発展するところまではいかなかったようだ。
思えば、こんな風に誰かと過ごすのは久しぶり。はっきりと「嬉しい!」と言うことはできないけれど、やはり嬉しさはある。
そんなこんなで、私は、ベルンハルトとリンディアという従者を得た。
もし何かが起きた時のことを考えると、また過去と同じ悲劇が繰り返されないか、少し不安。ただ、それとは裏腹に安心感もある。よく分からない、微妙な心境だ。
けれども、この出会いはきっと、私の中の何かを変えてくれるだろう。
具体的な根拠はないけれど、そんな予感がするのだ。
その予感が——良い意味で当たりますように。
私はそう願う。今、心の底から。
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