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17話 ネージア人
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翌朝、目が覚めると見慣れない部屋にいた。自分がいるのが自室でないことに驚いて飛び起き、辺りを見回す。すると、ベッドに横たわる父親の姿が目に入った。
そこでやっと思い出した。
私は昨夜、父親のいる部屋で眠りについたのだった、と。
「起きたのか」
状況をすぐには飲み込めずにいた私に、ベルンハルトが声をかけてきた。
「おはよう、ベルンハルト」
私がそう挨拶すると、ベルンハルトは真面目な顔で「おはよう」と返してくれた。きっちり挨拶してくれるところは好印象だ。
「ベルンハルトは早く起きたのね」
「いや、まだ寝ていない」
予想外の返答に、思わず「えっ!?」と言ってしまう。
寝ていない可能性など、まったく考えに入れていなかった。
「寝ていないの!?」
「そうだ」
「どうして」
「僕には、主人を護る義務がある」
ベルンハルトは実にあっさりと答えた。
昨日従者になったばかりだというのに、既に従者らしい発言をしているのが、不思議でならない。
「まさか……私を護るために?」
そう尋ねてみた。
すると彼は、真面目な顔のまま小さく頷く。
「夜間こそ見張っていなくてはならない」
彼は従者としての役目を全うしようと頑張ってくれているようだ。
嫌いなオルマリン人である私を、夜も寝ずに見張っていてくれるなんて、感動ものである。
「そうだったのね……ありがとう、ベルンハルト」
私が感謝の意を述べると、彼は少し恥ずかしそうに目を逸らした。
「たいしたことはしていない」
「いいえ、たいしたことよ。そこまでしてくれるなんて思わなかったわ」
気まずそうな顔をしたまま黙るベルンハルトに、私は、思いきって尋ねてみる。
「その……ベルンハルト。どうして従者になってくれたの?」
初めて出会った時、彼は「仕える気はない」と言っていた。その意思は頑なであるかのように見えた。けれども彼は、最終的に、私の従者となることを選んでくれた——それが不思議だったのだ。
「最初は、仕える気はない、と言っていたでしょう。でも、従者になってくれたわよね。それは……なぜ?」
するとベルンハルトは、その薄い唇を動かす。
「気が変わった。それだけだ」
短い答えだった。
それ以上話す気はないのかもしれないが、一応さらに突っ込んでみる。
「なぜ気が変わったの?」
その問いに対しては、ベルンハルトはすぐに答えなかった。何か考えているような表情で、しばらく黙り込む。
「話したくないなら、言わなくても大丈夫よ……?」
「貴女はオルマリン人。それゆえ、卑怯な悪人だと思っていた」
「へ?」
「だが、それは間違いだと分かった。僕が知っているオルマリン人は最低な人間ばかりだったが、貴女や貴女の父親はそうではないと判断した」
ベルンハルトは淡々と述べる。
「それに、貴女は父親を大切にしている。だから少し親近感を抱いた」
相変わらず感情のこもっていない声だ。
ただ、なぜか冷たくは感じない。
「ベルンハルトも、お父さんのことが大切だったの?」
「当然だ。父は尊敬に値する人だった」
自身の父親を、こうもはっきりと「尊敬に値する人」と言ってのけるということは、ある意味凄いことだと思う。そして、凄いことであると同時に、素晴らしいことだ。
「そう。ベルンハルトのお父さんなら、きっと、素晴らしい方だったのでしょうね」
「貴女が素晴らしいと思うかは分からない。オルマリン人からすれば、単に蛮勇でしかなかったのかもしれない」
「確かに……オルマリン人でないだけで悪く言う人はいるかもしれないわね。けれど、ベルンハルトのお父さんは、きっと素晴らしい人だと思うわ」
今は、こうして静かに語らえることが、何よりも嬉しい。
「私は、もっと貴方のことを知りたいわ。話してもらえない?」
「……僕のことについてを、か」
「えぇ。無理なら構わないけれど」
「いや、無理ではない。それに、従者になる以上話さないわけにはいかないだろうと、予想はしていた」
ベルンハルトは真剣な顔をしていた。頬を緩めることはない。
「……ありがとう。嬉しいわ」
それから私は、ベルンハルトから、彼に関する話を聞いた。
彼の父親は、星都より遥か北にある島の生まれ。
その島に暮らす者たちは、ネージア人と呼ばれていたらしい。
今から数十年も前、オルマリン星統一を掲げていた星王軍は、ネージア人もオルマリン人として生きるよう説得した。が、ネージア人はそれを拒否。かくして、星王軍とネージア人らは戦争へと至ったということだ。
その戦争は長引いた。
ネージア人側だけにではなく、星王軍側にも、多くの犠牲を出したらしい。
だが、最終的には星王軍の勝利に終わった。
その後、生き残ったネージア人らは、第一収容所へと入れられたそうだ。星王軍は、再び彼らと戦争になることを恐れたのだろう。
「そうして収容所に入れられたネージア人の中に、僕の父もいた。父は収容所内で一人のネージア人女性と親しくなり、やがて僕が生まれた」
ベルンハルトの説明は、意外と分かりやすい。あまり賢くはない私でも分かるくらい、簡単にして説明してくれたので、とても助かった。
「じゃあ、ベルンハルトにはオルマリンの血は流れていないのね」
「そうだ」
「なるほど、そうだったのね……」
「幻滅させてしまったなら、すまない」
突然謝ってこられた。
私は慌ててフォローする。
「違うの! 幻滅なんて、するわけない。少しだけでもベルンハルトのことを知ることができて、嬉しいわ!」
ただ、慌てているせいで、逆に怪しげな感じになってしまったかもしれない。
だが本当なのだ。
ベルンハルトがオルマリン人でないことに幻滅する、なんてことは、あり得ない。
「話してくれてありがとう」
「参考になったなら良かった」
「優しいのね!」
すると驚いたことに、それまでは真剣な顔だったベルンハルトが、困ったような顔つきになった。
なんというか……可愛い。
「い、いや。そんなことはない」
「恥ずかしがらなくていいのよ?」
「恥ずかしがってはいない!」
「本当にー?」
「な、何なんだ!」
これまでは凛々しさが勝っていて気がつかなかったが……こういうベルンハルトも悪くないかもしれないと思ったのだった。
そこでやっと思い出した。
私は昨夜、父親のいる部屋で眠りについたのだった、と。
「起きたのか」
状況をすぐには飲み込めずにいた私に、ベルンハルトが声をかけてきた。
「おはよう、ベルンハルト」
私がそう挨拶すると、ベルンハルトは真面目な顔で「おはよう」と返してくれた。きっちり挨拶してくれるところは好印象だ。
「ベルンハルトは早く起きたのね」
「いや、まだ寝ていない」
予想外の返答に、思わず「えっ!?」と言ってしまう。
寝ていない可能性など、まったく考えに入れていなかった。
「寝ていないの!?」
「そうだ」
「どうして」
「僕には、主人を護る義務がある」
ベルンハルトは実にあっさりと答えた。
昨日従者になったばかりだというのに、既に従者らしい発言をしているのが、不思議でならない。
「まさか……私を護るために?」
そう尋ねてみた。
すると彼は、真面目な顔のまま小さく頷く。
「夜間こそ見張っていなくてはならない」
彼は従者としての役目を全うしようと頑張ってくれているようだ。
嫌いなオルマリン人である私を、夜も寝ずに見張っていてくれるなんて、感動ものである。
「そうだったのね……ありがとう、ベルンハルト」
私が感謝の意を述べると、彼は少し恥ずかしそうに目を逸らした。
「たいしたことはしていない」
「いいえ、たいしたことよ。そこまでしてくれるなんて思わなかったわ」
気まずそうな顔をしたまま黙るベルンハルトに、私は、思いきって尋ねてみる。
「その……ベルンハルト。どうして従者になってくれたの?」
初めて出会った時、彼は「仕える気はない」と言っていた。その意思は頑なであるかのように見えた。けれども彼は、最終的に、私の従者となることを選んでくれた——それが不思議だったのだ。
「最初は、仕える気はない、と言っていたでしょう。でも、従者になってくれたわよね。それは……なぜ?」
するとベルンハルトは、その薄い唇を動かす。
「気が変わった。それだけだ」
短い答えだった。
それ以上話す気はないのかもしれないが、一応さらに突っ込んでみる。
「なぜ気が変わったの?」
その問いに対しては、ベルンハルトはすぐに答えなかった。何か考えているような表情で、しばらく黙り込む。
「話したくないなら、言わなくても大丈夫よ……?」
「貴女はオルマリン人。それゆえ、卑怯な悪人だと思っていた」
「へ?」
「だが、それは間違いだと分かった。僕が知っているオルマリン人は最低な人間ばかりだったが、貴女や貴女の父親はそうではないと判断した」
ベルンハルトは淡々と述べる。
「それに、貴女は父親を大切にしている。だから少し親近感を抱いた」
相変わらず感情のこもっていない声だ。
ただ、なぜか冷たくは感じない。
「ベルンハルトも、お父さんのことが大切だったの?」
「当然だ。父は尊敬に値する人だった」
自身の父親を、こうもはっきりと「尊敬に値する人」と言ってのけるということは、ある意味凄いことだと思う。そして、凄いことであると同時に、素晴らしいことだ。
「そう。ベルンハルトのお父さんなら、きっと、素晴らしい方だったのでしょうね」
「貴女が素晴らしいと思うかは分からない。オルマリン人からすれば、単に蛮勇でしかなかったのかもしれない」
「確かに……オルマリン人でないだけで悪く言う人はいるかもしれないわね。けれど、ベルンハルトのお父さんは、きっと素晴らしい人だと思うわ」
今は、こうして静かに語らえることが、何よりも嬉しい。
「私は、もっと貴方のことを知りたいわ。話してもらえない?」
「……僕のことについてを、か」
「えぇ。無理なら構わないけれど」
「いや、無理ではない。それに、従者になる以上話さないわけにはいかないだろうと、予想はしていた」
ベルンハルトは真剣な顔をしていた。頬を緩めることはない。
「……ありがとう。嬉しいわ」
それから私は、ベルンハルトから、彼に関する話を聞いた。
彼の父親は、星都より遥か北にある島の生まれ。
その島に暮らす者たちは、ネージア人と呼ばれていたらしい。
今から数十年も前、オルマリン星統一を掲げていた星王軍は、ネージア人もオルマリン人として生きるよう説得した。が、ネージア人はそれを拒否。かくして、星王軍とネージア人らは戦争へと至ったということだ。
その戦争は長引いた。
ネージア人側だけにではなく、星王軍側にも、多くの犠牲を出したらしい。
だが、最終的には星王軍の勝利に終わった。
その後、生き残ったネージア人らは、第一収容所へと入れられたそうだ。星王軍は、再び彼らと戦争になることを恐れたのだろう。
「そうして収容所に入れられたネージア人の中に、僕の父もいた。父は収容所内で一人のネージア人女性と親しくなり、やがて僕が生まれた」
ベルンハルトの説明は、意外と分かりやすい。あまり賢くはない私でも分かるくらい、簡単にして説明してくれたので、とても助かった。
「じゃあ、ベルンハルトにはオルマリンの血は流れていないのね」
「そうだ」
「なるほど、そうだったのね……」
「幻滅させてしまったなら、すまない」
突然謝ってこられた。
私は慌ててフォローする。
「違うの! 幻滅なんて、するわけない。少しだけでもベルンハルトのことを知ることができて、嬉しいわ!」
ただ、慌てているせいで、逆に怪しげな感じになってしまったかもしれない。
だが本当なのだ。
ベルンハルトがオルマリン人でないことに幻滅する、なんてことは、あり得ない。
「話してくれてありがとう」
「参考になったなら良かった」
「優しいのね!」
すると驚いたことに、それまでは真剣な顔だったベルンハルトが、困ったような顔つきになった。
なんというか……可愛い。
「い、いや。そんなことはない」
「恥ずかしがらなくていいのよ?」
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
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