イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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82話 証明したい

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「実は俺、今困ってるんだよ! 周りから、サボってばかりだから弱い、なんて言われてさー」

 突如話しかけてきた男性は、妙に気さくな人だった。
 警戒心剥き出しのベルンハルトに対してでも躊躇いなく喋りかけていけるというその度胸は、見ていて密かに感心したくらいだ。

「だから、俺と戦ってくれないか?」
「……なぜ僕なんだ」
「なぜって? そんなの簡単なことだろ! 噂になってる有名なやつに勝つところを見せつけて、俺が弱くないってことを周りに証明したいんだ!」

 なんて人だろう。
 そんなことにベルンハルトを利用しようだなんて、最低。

「随分な自信だな」
「まーな! 俺、腕っぷしには自信あるんだ!」

 男性は自信に満ちた表情で言う。
 そんな彼を見て、ベルンハルトは暫し黙り込む。

「王女さんの従者より強いってことを証明できれば、もう『サボってばかりだから弱い』なんて言われなくて済むからな!」

 男性はそんなことを平然と言ってのけた。

 信じられない。本人の目の前で「今から利用させてもらう」みたいな意味の発言をするなんて、まったく理解できない。できるなら「よく平然とそんなことを言えるわね」と食ってかかっていきたいくらいだ。

 無論、知り合いでもない人にいきなり食ってかかるなんて、できっこないのだけれど。

「頼む! 俺と戦ってくれ!」

 男性は、両の手のひらを合わせながら、ベルンハルトに頼み込む。

「断る」
「頼む、頼むよぉ」
「断る」
「ホント、困るんだよ! 頼む! いや、お願いします!」

 必死に頼み込む男性へベルンハルトが向ける視線は、冷ややかなものだった。

「あ! もしかして、自信がないのか!?」
「…………」
「なぁーに、それは心配するな! 俺に負けても、誰も馬鹿になんてしねぇよ! それはただ、俺が強かっただけだからな!」
「……不愉快だ、消えろ」

 ベルンハルトが顔をしかめていることに、男性は気がついていないみたいだ。
 もしかしたら、彼は少し残念な人なのかもしれない。

「頼むよ! 俺と戦ってくれ!」
「他の相手を探した方がいい」
「何だって?」
「僕は手加減などできない。だから、負けてくれる者を探す方が望ましい」

 言ってやれ言ってやれ、という気分だ。

「負けてくれる者と戦う方が、確実だろう」

 ベルンハルトは淡々とそう言った。

 すると、男性は急に怒り出す。

「はぁ!? 何勘違いしてんだ! アンタみたいなのが俺に勝てるわけないだろ!」

 男性はその面に憤怒の色を浮かべながら、ベルンハルトの襟元をぐいと掴む。

「王女さんの従者だからって、調子こくなよ!」
「……普通に受け答えしただけなのだが」
「オルマリン人でもないくせに! 偉そうな顔をするな!」
「……話がずれていると思うのだが」

 ベルンハルトは落ち着き払っている。襟元を掴まれているにもかかわらず、その顔に動揺の色が浮かぶことはない。

 しかし、このままでは男性の怒りは収まらないだろう。
 怒りがさらに激しくなるということはあっても、放っておいて収まるということはなさそうだ。

 彼の怒りを収めるには、勝負を受けるしかないのかもしれない。そうしなくては、今ここで戦いなってしまいそうな勢いだ。

 こんな場所で乱闘騒ぎなんて、絶対に嫌である。

「落ち着きなさい!」

 怒りに操られてしまっている男性を止めるには、私が出ていくしかない。

「なっ……けど、王女さん!」
「ひとまず黙りなさい」
「は……はい」

 男性は、私が予想していたよりかは素直だった。

「そんなにベルンハルトと勝負したいというなら、受けても構わないわ」
「イーダ王女!?」

 驚きの声をあげるベルンハルト。
 しかし私は、それを気にせずに続ける。

「ただし、もしベルンハルトが勝っても恨まないこと。それでどう?」
「あ……あぁ! それでもいい! ま、俺が勝つけどな」

 随分な自信である。

「ベルンハルトもそれでいい?」
「勝ってしまっても問題ないのか」
「もちろんよ。わざと負ける必要なんてないでしょう」
「……そうだな。貴女がそう言うのなら、受けよう」

 話はまとまった。

 これで良かったのか、よく分からないところもある。
 ただ、これが乱闘騒ぎにならないための数少ない道だったのだ。大きな騒ぎを起こさないためだから、仕方ない。


 移動した先は、修練場。
 星王に仕える者たちが、その戦闘力を上げるために訓練をする場所らしい。

 ここの来たのは初めてだ。

 しかし、『諦めない心』『挫けない心』『一日百善』などと書かれた紙が壁に貼り付けられていることから、ただならぬ熱さを感じる。

「では、ただいまより! カッタッタとベルンハルトの模擬試合を開始する!」

 挑んできた男性は、カッタッタという名前だったようだ。

「いかなる武器の使用も認めない! 両者とも体一つで戦うこととし、相手を先にギブアップさせた方を勝者とする!」

 ベルンハルトは勝者となれるのだろうか——そういった不安が消えることはない。私の胸には、今もまだ、不安という名の暗雲が立ち込めている。

 けれども、私が不安になったところで何も変わりはしないのだ。

 私が不安になったからといって、ベルンハルトが強くなるわけではない。私が心配したからといって、ベルンハルトの勝利が約束されるわけではない。

 なら、今私がすべきことは、ただ一つではないか。

 不安を与えない。
 意識を極力私へ向けさせない。

 それだけが、無力な私にできる、唯一の協力だ。

「では、両者位置につけ。試合——」

 大丈夫。ベルンハルトならきっと、そう易々と負けはしない。

「開始!」

 カッタッタとベルンハルトの勝負が始まる。

 どのような結末が待ち受けているのかは知るよしもないけれど——今はただ、ベルンハルトがカッタッタに勝ってくれることを願うのみだ。
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