イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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104話 放て、言葉を

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 その頃、星王の間。

「あのね父さん、私やっぱり、アスターさんが嘘をつくとは思えないのよ。父さんがシュヴァルを信頼していることは知っているけれど……ちゃんと確認するべきだわ」

 私はフィリーナのことについて確認するべく星王の間へ行き、今は父親と二人でシュヴァルについて話している。

「父さんだって、変にシュヴァルが疑われるのは嫌でしょう? 少しでも早くはっきりさせた方がいいわ」
「イーダ、またそれを言うのかぁ? シュヴァルを疑うのは、もう止めにしでくれよぉ」

 父親は相変わらずの調子だった。
 子どもが親を信じるように、彼はシュヴァルのことを無条件に信じきっている。

「父さん! いい加減にしてちょうだい!」

 根拠もなく信じきっている父親の様子に苛立った私は、つい口調を強めてしまった。純粋なだけの父親を責めても何も変わらないということは、ちゃんと分かっていたのだけれど。

「い、イーダ……」
「なぜ、少しも理解しようとしてくれないのよ!」

 感情的になっても、良いことは何一つとしてない。それは理解しているつもりだ。
 ただ、それでも、今は言いたかった。

「父さんは私のこと、いつも、可愛いって言ってくれるわよね。けど、シュヴァルのことに関してだけは、ちっとも私の言うことを聞いてくれない。どうしてなのよ!」
「な、イーダぁ……そんなに怒るなよぉ……」
「シュヴァルのことだけは無条件に信じて、実の娘の言葉さえ聞こうとはしない。そんなのおかしいわ!」

 いつもと違って激しい物言いをする私に驚いているのか、父親は、星王らしくなくおろおろしている。

 だが、言うしかない。

 私だって本当はこんなことは言いたくないのだ。

 けれども、自分やアスター、そして従者の皆を護るためには、強く言うことが必要で。

 襲われるのは、できればもう止めにしたい。
 そのためには私も動かなくては。

「父さんは星王でしょう! しっかりしてちょうだいよ!」
「なぁにぃ!? 今日のイーダ、不必要に厳しくないかぁ!?」
「いつまでもシュヴァルの言いなりになっているのは止めて!」

 呼吸が乱れるほど、私は叫んでしまった。
 私が王女でなかったなら、「星王になんたる無礼」と消されてしまっていたことだろう。

 暫し、沈黙。

 空気の揺れぬ静寂の中、私は、「逆に怒られたらどうしよう」なんて考えて不安になる。

 けれど、心の中ですぐに首を左右に振る。
 これは必要なことなのだ、と。

 それからだいぶ経って。

 長い沈黙を先に破ったのは、父親の方だった。

「……そうかぁ」

 父親の声は穏やかだ。

「確かに……確認してみることは必要かもしれないなぁ」

 分かってくれた!? と、私は、ある意味動揺する。
 だって、シュヴァルを信じきっている彼が私の言うことを理解してくれるなんて思わなかったんだもの。

「よし、そうするかぁ。まずはシュヴァルを呼んで……」

 父親が言いかけた時。

 突如、何者かが扉をドンドン叩いた。
 ノックにしては大きい音。

「ちょっと待っててくれよぉ、イーダ。見てくるからなぁ」
「えぇ」

 父親はのそのそと歩き、扉の方へと向かっていく。扉のロックはかかっていないらしく、父親は、そのまま扉を開けた。

「何の騒ぎだ?」
「リンディアです」

 ——リンディア!

 ラナたちから何か有力情報を得られたのか? あるいは、アスターに何かあったのか?

 いずれにせよ、気になる。

「イーダに用かぁ?」
「ここにいます?」
「いるぞぅ! 呼んでくるから、少し待っていてくれよ」

 リンディアを中へ入れれば早いのに……、と思ったことは秘密。

「イーダぁ!」
「分かっているわよ、父さん」

 私は扉の方へと歩いていく。
 そして、扉の外に立っているリンディアへ視線を注いだ。

「何かあったの? リンディア」
「さっきねー、アスターが意識を取り戻したのよー」

 アスターが!

 希望の光が差し込んだ……気がした。

「そうだったの! 会いに行きたいわ」
「そーそー。誘いに来たのよー」
「行ってもいいのね!?」
「もーちろん」

 リンディアの表情は明るい。
 やはり、アスターが目覚めて嬉しいのだろうか。

「そういうわけだから父さん! ちょっと行ってくるわ!」

 私は視線を、リンディアから父親へと移す。

「一緒に行ったら駄目かぁ?」
「……え」

 父親から返ってきた予想外の言葉に、私は正直戸惑った。

「アスターのところへ行くんだろぅ? 俺もお見舞いに行ったら駄目かぁ?」
「大丈夫だと思うけど……どう? リンディア」
「構わないわー。ま、気の利いたことはできないだろーけどー」

 リンディアは微かに頬を緩めつつ返してくれた。父親がアスターに会いに行くことに関して、彼女は不満を抱いてはいないようだ。

「じゃあそうしましょ、父さん」
「よっしゃあ! 行くぅ!」

 父親がアスターに会いに行きたいと思ってくれた、そのこと自体はありがたいこと。

 ただ、騒いだり余計なことを言ったりしたらアスターに迷惑がかかってしまう。
 だから私は、前もって注意しておくことにした。

「ただし、騒がないこと!」
「まっさかぁ! 父さんが騒ぐわけないだろぅ? 子どもじゃあるまいしぃ」
「いつも騒いでいるじゃない……」
「うそーん!! 父さん、騒いでいるかぁー!?」

 ……無自覚とは、恐ろしい。

 その後、私と父親は、リンディアに連れられて、アスターが寝ている部屋まで移動した。


 歩くことしばらく、部屋に到着する。
 先頭を行っていたリンディアが扉を開けてくれ、私と父親はそこを通過。室内へと進む。

「おぉ、イーダくん」

 私たちが部屋へ入るや否や、アスターの声が聞こえてきた。私は思わず、ベッドの方へと駆け寄る。

「アスターさん!」
「……来てくれたのかね、イーダくん」

 アスターは言いながら、片手を持ち上げ、ひらひらと動かす。

 彼はまだ、ベッドの上で横になっている。体を起こすことは難しいのかもしれない。しかし、意識ははっきりしているし、手も自分で操れている。素晴らしいことだ。

「えぇ。父さんも一緒よ」
「父さ……んっ!? それは、星王同伴ということかね」

 驚いた顔をするアスター。

「そうなの。あ、でも、安心してちょうだい。騒がないようにって、前もって注意しておいたわ」
「そうかね……」
「でも、アスターさんの意識が戻って良かった。心配したのよ」
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