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106話 ごめんなさい、と
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赤みを帯びた濃い茶色の髪に、琥珀のような瞳——間違いない。
ベルンハルトの隣にいるのは、フィリーナだ。
「イーダ王女、やはりここにいたか」
彼の顔は整っている。それに加え、とても凛々しい。また、目つきは鋭く、戦うために生まれてきたのかと思ってしまいそうなほどだ。
そんなベルンハルトは、フィリーナの手首を掴んでいる。
「ベルンハルト!」
「フィリーナを捕まえた。話はする、と言っている」
ベルンハルトにがっちり手首を掴まれてしまっているフィリーナは、肩を落とし身を縮め、すっかり弱っている。それはもう、可哀想と思ってしまうほどに。
「それに……フィリーナ」
目が合うと、彼女は視線を逸らした。
私は彼女へ歩み寄る。
「フィリーナ、何がどうなっているの」
「……あ」
怒られると思っているのだろう。彼女の琥珀色の瞳は弱々しく震えていた。
「襲撃に荷担していたと聞いたわ。事実なの?」
「す……すみませ……」
「事実なのね? 貴女がそんなことをする人だとは今でも思えないけれど。もしかして、誰かに命じられたの?」
私がそう問った時、フィリーナは泣き出しそうな顔をしていた。
「ふ……ふぁい……。し、しゅ……」
「ししゅ?」
「シュヴァル……さんに……」
やはり関係していた——シュヴァルが。
フィリーナは突然頭を下げる。
「す、す……すみませーんっ!」
首が折れないか心配になってしまうほどの凄まじい勢いで、彼女は、何度も何度も頭を下げる。頭部がとれて飛んでいかないか、少々不安だ。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「お、落ち着いて」
混乱してしまっているフィリーナを何とか落ち着かせようと、私は咄嗟に、彼女の手を握った。ベルンハルトが手首を掴んでいない方の手を、である。
「ふ、ふぇぇ……ごめんなさいー……」
「いいの。それより、その、シュヴァルに関する話を聞かせて」
ベルンハルトが私へ視線を向けてくる。それはまるで、「甘すぎないか」とでも言いたげな視線だ。
「どういう話なの? 大丈夫なら、そこを聞かせてほしいのだけど」
「は、はい……」
今は、ベルンハルトもアスターも、そして父親もいる。リンディアだけは欠けているが、そのくらいは問題ないだろう。
これは、絶好のタイミングだ。
「王女様の傍に……お仕えする侍女になって……」
「えぇ」
「王女様が一人になる時間を作るようにと、頼まれたんですぅ……それは、仕留めやすくするためだって……」
父親が突如叫ぶ。
「そんなことがあるものかぁっ!」
シュヴァルのことを悪く言われて苛立ったのかもしれない。
「ひっ……」
「おかしなことを言うなよぅ!」
「ふ、ふえぇ……」
迫力ある父親の言葉に、フィリーナは、小動物のように怯えている。
「父さん! 騒がないで!」
「イーダぁ! だって、おかしいだろぅ!」
「黙って最後まで聞く!」
「……分かった。仕方ないなぁ。分かったよぅ」
何が「仕方ないなぁ」よ!
そんな言葉を鋭く吐いてやりたくなる衝動を抑える。
王女だけに、下手なことは言えない。だから、そんな衝動に駆られていたことは、私だけの秘密にしておこうと思う。
「続けて、フィリーナ」
「は、はい……」
ふぅ、と息を吐き出す動作を二三回繰り返してから、フィリーナは再び話し出す。
「最初は断りました……けど……家族のことを言われて……」
「家族のこと?」
「従わなかったら、家族に強いる労働を増やすって……」
ベルンハルトに片側の手首を掴まれたまま、フィリーナはそんなことを述べる。
その体は、縮んで、小さくなってしまっていた。
フィリーナが襲撃に荷担したことは事実。けれども、彼女もまた被害者なのではないかと、そう思ってしまう部分もある。
私としては、彼女を責める気にはあまりなれない。
「それで……ふえぇ……」
琥珀のような瞳から、涙の粒がぽろぽろと零れ落ちる。
「すみま……せん……」
一度は、演技だろうか、と疑った。許してもらうために、悪かったと思っているかのように振る舞っているという可能性も考えた。
けれど、どうしてもそうは思えなくて。
「泣かないで、フィリーナ。泣かなくていいのよ」
こんなことを言ったらお人好しと笑われてしまうかもしれないが、私は、フィリーナを責めたくはなかった。
彼女は悪人ではない。だからきっと、自分がしたことを後悔しているはずだ。
襲撃者に力を貸したということはこちらとしては許せないこと。
けれど、彼女が自ら望んで力を貸したわけではないのなら、一方的に責め続けるというのもおかしな話だ。
「ふ、ふえぇ……でも……」
「え?」
「でも、おじいさんにも……ご迷惑を……」
おじいさん?
アスターのことだろうか。
「すっ……すみませんでした……」
フィリーナはアスターに視線を向け、頭を下げる。
それに対しアスターは、ベッドに寝たまま、「次から気をつけてくれれば問題ないよ」と返していた。
それを見て少しほっこりしていると。
「どうする、イーダ王女」
ベルンハルトが尋ねてきた。
「え」
「この女をどうするか、と聞いているんだ」
「フィリーナを?」
こくりと頷くベルンハルト。
彼の眼差しは、真剣そのものであった。
「それは……これからも侍女として働いてもらえば良くないかしら」
「こんなコロコロ変わるような女は、置いておいても何の役にも立たない。むしろ迷惑になる」
どうやら、ベルンハルトはフィリーナに腹を立てているようだ。彼は非常に不機嫌そうな顔つきをしている。
「フィリーナだって、きっと、望んでそうなっているわけじゃないわよ?」
「忠誠心のない人間は、イーダ王女に仕えるには相応しくない」
ベルンハルトは冷たかった。
だが、その言葉は私を思ってのものだと分かる。だから私は、ベルンハルトを悪いとは思わない。
彼は器用ではないけれど、私のことを考えてくれている。
それはありがたいことだし、感謝すべきことだ。
「……ありがとう、ベルンハルト。私のことを考えてくれているのね」
「いや。考えてなどいない」
「ふふっ。貴方らしい発言ね」
「僕らしい? それは、少し馬鹿にしているのか?」
「まさか! 褒め言葉よ」
すると、ベルンハルトの口角がほんの少しだけ持ち上がる。
「……そうか」
彼は嬉しげだった。
ベルンハルトの隣にいるのは、フィリーナだ。
「イーダ王女、やはりここにいたか」
彼の顔は整っている。それに加え、とても凛々しい。また、目つきは鋭く、戦うために生まれてきたのかと思ってしまいそうなほどだ。
そんなベルンハルトは、フィリーナの手首を掴んでいる。
「ベルンハルト!」
「フィリーナを捕まえた。話はする、と言っている」
ベルンハルトにがっちり手首を掴まれてしまっているフィリーナは、肩を落とし身を縮め、すっかり弱っている。それはもう、可哀想と思ってしまうほどに。
「それに……フィリーナ」
目が合うと、彼女は視線を逸らした。
私は彼女へ歩み寄る。
「フィリーナ、何がどうなっているの」
「……あ」
怒られると思っているのだろう。彼女の琥珀色の瞳は弱々しく震えていた。
「襲撃に荷担していたと聞いたわ。事実なの?」
「す……すみませ……」
「事実なのね? 貴女がそんなことをする人だとは今でも思えないけれど。もしかして、誰かに命じられたの?」
私がそう問った時、フィリーナは泣き出しそうな顔をしていた。
「ふ……ふぁい……。し、しゅ……」
「ししゅ?」
「シュヴァル……さんに……」
やはり関係していた——シュヴァルが。
フィリーナは突然頭を下げる。
「す、す……すみませーんっ!」
首が折れないか心配になってしまうほどの凄まじい勢いで、彼女は、何度も何度も頭を下げる。頭部がとれて飛んでいかないか、少々不安だ。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「お、落ち着いて」
混乱してしまっているフィリーナを何とか落ち着かせようと、私は咄嗟に、彼女の手を握った。ベルンハルトが手首を掴んでいない方の手を、である。
「ふ、ふぇぇ……ごめんなさいー……」
「いいの。それより、その、シュヴァルに関する話を聞かせて」
ベルンハルトが私へ視線を向けてくる。それはまるで、「甘すぎないか」とでも言いたげな視線だ。
「どういう話なの? 大丈夫なら、そこを聞かせてほしいのだけど」
「は、はい……」
今は、ベルンハルトもアスターも、そして父親もいる。リンディアだけは欠けているが、そのくらいは問題ないだろう。
これは、絶好のタイミングだ。
「王女様の傍に……お仕えする侍女になって……」
「えぇ」
「王女様が一人になる時間を作るようにと、頼まれたんですぅ……それは、仕留めやすくするためだって……」
父親が突如叫ぶ。
「そんなことがあるものかぁっ!」
シュヴァルのことを悪く言われて苛立ったのかもしれない。
「ひっ……」
「おかしなことを言うなよぅ!」
「ふ、ふえぇ……」
迫力ある父親の言葉に、フィリーナは、小動物のように怯えている。
「父さん! 騒がないで!」
「イーダぁ! だって、おかしいだろぅ!」
「黙って最後まで聞く!」
「……分かった。仕方ないなぁ。分かったよぅ」
何が「仕方ないなぁ」よ!
そんな言葉を鋭く吐いてやりたくなる衝動を抑える。
王女だけに、下手なことは言えない。だから、そんな衝動に駆られていたことは、私だけの秘密にしておこうと思う。
「続けて、フィリーナ」
「は、はい……」
ふぅ、と息を吐き出す動作を二三回繰り返してから、フィリーナは再び話し出す。
「最初は断りました……けど……家族のことを言われて……」
「家族のこと?」
「従わなかったら、家族に強いる労働を増やすって……」
ベルンハルトに片側の手首を掴まれたまま、フィリーナはそんなことを述べる。
その体は、縮んで、小さくなってしまっていた。
フィリーナが襲撃に荷担したことは事実。けれども、彼女もまた被害者なのではないかと、そう思ってしまう部分もある。
私としては、彼女を責める気にはあまりなれない。
「それで……ふえぇ……」
琥珀のような瞳から、涙の粒がぽろぽろと零れ落ちる。
「すみま……せん……」
一度は、演技だろうか、と疑った。許してもらうために、悪かったと思っているかのように振る舞っているという可能性も考えた。
けれど、どうしてもそうは思えなくて。
「泣かないで、フィリーナ。泣かなくていいのよ」
こんなことを言ったらお人好しと笑われてしまうかもしれないが、私は、フィリーナを責めたくはなかった。
彼女は悪人ではない。だからきっと、自分がしたことを後悔しているはずだ。
襲撃者に力を貸したということはこちらとしては許せないこと。
けれど、彼女が自ら望んで力を貸したわけではないのなら、一方的に責め続けるというのもおかしな話だ。
「ふ、ふえぇ……でも……」
「え?」
「でも、おじいさんにも……ご迷惑を……」
おじいさん?
アスターのことだろうか。
「すっ……すみませんでした……」
フィリーナはアスターに視線を向け、頭を下げる。
それに対しアスターは、ベッドに寝たまま、「次から気をつけてくれれば問題ないよ」と返していた。
それを見て少しほっこりしていると。
「どうする、イーダ王女」
ベルンハルトが尋ねてきた。
「え」
「この女をどうするか、と聞いているんだ」
「フィリーナを?」
こくりと頷くベルンハルト。
彼の眼差しは、真剣そのものであった。
「それは……これからも侍女として働いてもらえば良くないかしら」
「こんなコロコロ変わるような女は、置いておいても何の役にも立たない。むしろ迷惑になる」
どうやら、ベルンハルトはフィリーナに腹を立てているようだ。彼は非常に不機嫌そうな顔つきをしている。
「フィリーナだって、きっと、望んでそうなっているわけじゃないわよ?」
「忠誠心のない人間は、イーダ王女に仕えるには相応しくない」
ベルンハルトは冷たかった。
だが、その言葉は私を思ってのものだと分かる。だから私は、ベルンハルトを悪いとは思わない。
彼は器用ではないけれど、私のことを考えてくれている。
それはありがたいことだし、感謝すべきことだ。
「……ありがとう、ベルンハルト。私のことを考えてくれているのね」
「いや。考えてなどいない」
「ふふっ。貴方らしい発言ね」
「僕らしい? それは、少し馬鹿にしているのか?」
「まさか! 褒め言葉よ」
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「……そうか」
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