イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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107話 奇妙な理由とモティロン

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「それにしても——シュヴァルは本当に、やり過ぎではないかね?」

 唐突に切り出したのはアスター。

 ベッドに横たわっている彼は、まだ体を起こすことはできない様子だ。しかし、その表情や目つきはというと、弱々しいこともなく、元気そうである。

「いくら望みを叶えるためだとしても、ここまですることが正しいとは思えないのだよ。まぁ……私には、だがね」

 部屋が静寂に包まれる。
 皆が黙るのも無理もない。それほどに深刻な話題なのだから。

 無音の世界の中、アスターは視線をそっと父親へと向ける。

「シュヴァルが星王の座を狙っていることは事実。いずれ、君も狙われることになると思うよ」

 情けないとはいえ一応星王である人間を「君」なんて呼ぶとは。さりげなく驚いた。

「イーダくんの次に狙われるのは、間違いなく君だとも。星王家の人間だからね」
「シュヴァルが俺の命を狙うというのかぁ? ……馬鹿らしいぞぅ!」

 ぷいっとそっぽを向く父親。
 その様は、まるで子どもだ。星王らしくないどころか、もはや大人らしくすらない。

「勘違いしないでくれよぉっ! シュヴァルは確かにたまーに口が悪いけどなぁ、そんな悪人じゃないんだぞぅ」
「罪のないイーダくんが命を狙われ続けることを、可哀想とは思わないのかね?」

 父親はやや苛立っているようで、つんつんした態度を取っている。
 一方アスターはというと、落ち着きは保ちながらも、いつもより少し棘のある口調になっていた。

「可愛いイーダが狙われるのは、もちろん嫌だぁ!」
「なら、彼女が狙われないために何かしようとは思わないのかね」
「思うよぅ!」
「それならば、シュヴァルについて考えた方が良いと思うのだが」

 アスターははっきりとした声で述べる。

 いつもの穏やかでマイペースな彼とは、雰囲気が明らかに違っていた。
 もしかしたら彼は、シュヴァルの件について話を進めようと頑張ってくれているのかもしれない。

「そういうものなのかぁ……?」
「もちろん。そういうものだとも」

 アスターの言葉を聞いた父親は、酸っぱいものを食べたかのように口をすぼめる。眉間には、日頃はない小さなしわがたくさん寄っていた。

 ……凄い顔。

「イーダは正直なところ、どう思っているんだぁ?」
「確認は必要だと思うわ」

 だから、前からずっと言ってるじゃないの。
 つい、真顔でそう言いたくなってしまった。

「そうかぁ……イーダも賛同してぇいるのかぁ……」

 父親はすぼめた口に片手の人差し指を添える。どうやら、何か考えているようだ。私は様子を窺いつつ、彼が次に言葉を発するのを待つ。

 十秒が過ぎ、二十秒が過ぎ……三十秒が過ぎても、父親は言葉を発しそうにない。

 仕方がないからこちらから声をかけようと思った——その時。

「ベルンハルトォ!」

 父親は突如、ベルンハルトへ視線を向けた。

「……何だろうか」

 フィリーナの手首を掴んだ体勢のまま、ベルンハルトは淡々と返す。

 その表情は冷めていた。
 どんなくらいの冷めっぷりかというと、凄まじくつまらないギャグを急に聞かされた時くらいの冷めっぷりである。

「お前はどう思う?」
「イーダ王女の意思に従う」
「ちゅうじつぅーん!?」

 見ていただけの私が一瞬「眼球が飛び出すのでは」と恐れたほど、父親は目を見開いていた。

「……忠実なわけではない」

 敢えてわざわざ否定するベルンハルト。

「今回の件において、僕にはこれといった意思がない。別段意思がないから、イーダ王女と同じにしておこうと考えただけだ」

 ベルンハルトはこういう時に限って長文を話す。聞かれてもいないのに妙に話すから、いろんな意味で分かりやすい。

「意思がないのかぁ? なら、イーダに賛同するという意思もないかもしれないんじゃないかぁ?」
「いや、それは別だ」
「何となく矛盾してるぞぅ?」
「僕はイーダ王女に仕えている。彼女の意思に従うのは、おかしなことではないはずだ」

 父親は自分の考えに賛同してくれる人を見つけたいのだろう。が、この状況この顔触れでシュヴァルを庇う者など、いるわけがない。

「そ……そうだよなぁ……」

 手を頭に当て、悩んだような顔をする父親。

「どうしたの、父さん。頭でも痛いの?」
「ち、違うぞぅ……」
「疲れた顔をしているわよ」
「イーダが可愛す——あ、いや、違った。シュヴァルにどう対応すべきかで悩んでいるんだよぉ!」

 どうやら父親は揺れているようだ。

 彼はずっと、長年傍にいてくれてきたシュヴァルを、完全に信じてきっていた。だから、私なんかが色々言ったくらいでは、シュヴァルを疑おうとはしなかった。多分、父親の中には、「シュヴァルを疑う」という発想がなかったのだろう。

 けれども、それが変わり始めている。
 少しずつではあるだろうけど、父親の思考は動き始めている。

 ——今なら話を動かせるかもしれない。

「父さん。シュヴァルと話し合いをする場を与えて」

 父親を真っ直ぐ見据え、私はそう言った。

「話し合いをする場ぁ?」
「えぇ」

 数秒間を空けて、続ける。

「私はね、シュヴァルと話したいことが色々あるの」

 今のまま何も手を打たなければ、これから先も、ずっと襲撃されることになるだろう。
 例えるなら、今までのように。

 襲撃され傷つくのが自分であるならまだいい。けれど、実際はそうではなく、傷つくのは私の周りにいる人なのだ。つまり、襲撃によって一番に危険に曝されるのは従者たちだ、ということである。

 この前の襲撃においてアスターがやられたことで、その事実が、より一層浮き彫りになった。

 今回アスターは命に別状はなかったから良かったものの、次やその次も大丈夫という保証はどこにもない。

 それに、次はアスターだけでは済まないかもしれない。
 リンディアやベルンハルトが今回のアスターのような目に遭う可能性も、十分に存在するのだ。

「シュヴァルと話をさせてくれないかしら」
「むっ、無理に決まっているだろぅ!」

 え、意外。

「いくら忠実なシュヴァルが相手とはいえ、可愛いイーダと二人きりにするわけにはいかなぁーいっ!」

 ……うわぁ。

 理由がきつすぎた。

「もちろん、二人きりじゃなくていいわよ」
「父さん同伴ならアリだぞぅ」
「ならそれで。よろしく頼むわ」

 すると父親は、急に、親指をグッと立てる。

「モティロン!」
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