イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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112話 動く

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 少女は崩れ落ち、残るは紅と硝煙の匂いのみ。

「フィリーナ!」

 私は思わず叫ぶ。
 けれども、もう、この声が彼女に届いているかは分からない。

 突如撃ち抜かれたフィリーナの隣にいたリンディアは、目を見開いている。驚愕しているようだった。

 驚くのも無理はない、あまりに急なことだったから。

「シュヴァル……!」

 私はすぐに彼の方へと視線を向ける。

「なぜこんなことを」

 フィリーナへ向けていた銃口を下ろし、シュヴァルは襟を整えていた。何事もなかったかのような顔で。

「彼女は味方だったのではないの……!?」

 シュヴァルは彼女を利用していた。半ば無理矢理、協力させたのだ。歪な形だとしても、敵か味方かといえば味方だったはず。

 にもかかわらず、彼は彼女を躊躇いなく撃った。

 なぜそのようことを平気でできるのか、私にはまったく理解できない。説明なしでは欠片も理解できないし、たとえ説明されたとしても理解することは不可能に近いだろう。

「味方? ……いやはや、面白いことを言いますね」

 緊迫した空気の中、シュヴァルは微かに口角を持ち上げる。
 その表情は、動揺する私たちを嘲笑うかのようなものだった。

「彼女はただの駒にすぎません。味方、なんて近しいものではないのです」
「お……おいっ!」

 愕然とし言葉を失っていた父親が、この頃になって、ようやく口を開いた。

「シュヴァル! これは一体、どういうことなんだぁ!?」

 ずっと信じていた相手に裏切られた父親は、かなり動揺しているようだ。顔面は引きつり、瞳は震えていた。

「こんなにも早くこの時が来るとは思っていなかったのですが……」
「おい、シュヴァル! 問いに答えろぅ!」
「ま、仕方ないですね。こうなってしまってはもう」

 そこまで言って、シュヴァルは拳銃を構える。

 その銃口が睨むのは、父親。
 シュヴァルはついに、父親——星王にまで牙を剥くことにしたようだ。

「銃!?」
「申し訳ありませんが、ここで消えていただきます」
「おいぃ! 話が理解できないぞぅ!」
「理解していただかなくて、結構です」

 冷ややかに言い放ち、シュヴァルは引き金に指を添える。

「や、止め、止めてくれよ! そんなことぅ!」

 本来取り敢えず逃げなくてはならないような状況にもかかわらず、叫ぶことしかしていない。誰より信頼していた側近に銃口を向けられるという事態に、父親はかなり混乱しているようだ。

 そんな父親に駆け寄っていくのは、ベルンハルト。

 彼はすぐに、シュヴァルと父親の間に入った。

「べ、ベルンハルトぉ……」
「危険だ。逃げろ」

 ベルンハルトは落ち着いた声で父親に言う。

 しかし、父親はぼんやりしているまま。
 受けたショックが大きすぎたせいだと思われる。

「こんなの嘘だろぅ……夢だって……」
「現実だ」
「嘘だ! 嘘に決まってるぅ!」

 シュヴァルの裏切りを認めたくない父親は、冷静に現実を突きつけるベルンハルトに掴みかかる。

「嘘だと言ってくれよぅ!」
「これは現実。それが真実だ」

 そんな風に言葉を交わしていた父親とベルンハルトに向けて、銃弾が放たれた。

 ベルンハルトは咄嗟に気づき、反応。
 取り乱している父親諸共、地面に伏せる。

 おかげで、シュヴァルの拳銃から飛び出した弾丸が父親やベルンハルトに命中することはなかった。

 これは、ベルンハルトの動きによって助かったと言っても、過言ではない。父親一人であったなら、銃弾の餌食になっていたことだろう。

「王女様!」
「……リンディア」

 私の方へやって来たのは、リンディア。

「逃げるわよ!」
「わ、私?」
「そーに決まってるでしょー!」

 確かに、と思う。

 父親が狙われているところを見ていたため、私はまったく無関係であるかのように錯覚してしまっていた。が、よくよく考えてみれば、私も無関係ではないのだ。私だってシュヴァルに狙われる対象である。

「でも、フィリーナ」
「……そんなのは後でいーのよ」
「けど、命を落としてしまったら……!」

 ——ぱぁん。

 一瞬何が起きたか分からなかった。
 ただ、頬にじんわりとした痛みだけが残っている。

「どっちが大事なのよ!」

 リンディアは叫んでいた。
 どうやら私は、彼女にビンタされてしまったようだ。

「こんなところで殺されていーって言うの? だったら、大人しく殺られればいーじゃない!」

 シュヴァルの意識は、まだ父親らに向いている。

「生き残るためには捨てなくちゃならないものもあるのよ!」
「……リンディア」
「真実を明るみに出せた、今日はそれだけでじゅーぶんよ。一旦退きましょう」

 リンディアは手を差し出してくれた。

「星王様はベルンハルトが連れて逃げるから、こっちも脱出しましょ」

 私は、彼女の手を取る。
 まだ死にたくなんてないから。

「そうね」

 ——けれど。

「そうはさせませんよ、王女様」

 その時には既に、シュヴァルが、私たちの目の前にまで迫っていた。

 父親とベルンハルトは、もう室内にいない。無事脱出したようだ。そこはホッとできるところである。

 しかし、今度はこちらが危ない。

「こんなことになる原因を作ったのは、貴女です。このシュヴァル、貴女だけは生かして帰らせません」

 私たち二人と扉の間に、シュヴァルがいる。
 この状態では部屋から出られない。

「こんなことして、どーするつもり」

 リンディアが言い放つ。

「実の娘を巻き込むというのは、さすがに良い気がしません。そこを退きなさい、リンディア」
「残念ながら、それは無理よ!」
「父に逆らうつもりですか? そんな愚かな娘を持った覚えはありませんが」

 本当の父娘がこんな形で対峙することになるなんて。
 そんな思いが、胸の内を暗くする。

「愚かはそっちじゃなーい? あたしみたいなのを従者に推薦しちゃうなんて、ばっかねー」
「…………」
「あたしが言いなりになんないことくらい、分かってたでしょー?」

 挑発的に述べるリンディア。しかし、対するシュヴァルは、挑発などには乗らない。彼は、実の娘を、冷淡な目で見つめていた。

 一体どうなってしまうのだろう。

「……少々、娘を舐めていたのかもしれませんね」

 やがて、彼はそう呟いた。
 そして片手を挙げる。

「ま、想像の範囲内ではありますがね!」

 シュヴァルはパチンと指を鳴らした。

 すると、部屋の隅にあったロッカーの扉が開き、そこから男が二人も現れる。
 その男たちを——私は見たことがあった。
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