イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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113話 腹とユニコーン

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 シュヴァルが指をパチンと鳴らしたのを合図に、部屋の隅に置かれたロッカーから二人の男が現れた。

 その男たちを、私は見たことがある。

 あれは確か、数日前リンディアと調理場へ行った時のことだ。完成した卵焼きを持って、リンディアと合流するのを待っていると、二人の男が大きな声で喋りながら通過していった。

 一人はやや腹が出た三十代くらいと思われる男。もう一人は、紫の髪を頭頂部で角のように固めているスリムな男。数日経っているためある程度薄れてしまってはいるが、個性的な二人だったから、記憶から消え去ってはいなかった。

「捕らえなさい」

 冷ややかに命じるシュヴァル。

「承知!」
「はいっぷ!」

 二人の個性的な男はほぼ同時に返事をし、私とリンディアの方へ向かってきた。

 リンディアは拳銃を抜く。
 そして、引き金を引く。

「うわぉっぷ!」

 光の弾丸は、ユニコーンのような髪型をしたスリムな男の脚を掠めた。

「何してるんだ」
「ち、ちょっと当たったっぷ……」
「そのくらいで弱ってる場合かよっ!」

 意外にも、腹が出ている方の男が迫ってくる。

 リンディアは銃口を彼に向け、何度も光の弾丸を放つ。が、男はそれを確実にかわし、みるみるうちに接近してきた。

 距離を詰められたリンディアは、拳銃を下ろし、戦闘体勢をとる。
 肉弾戦になることを想定して、なのだろう。

 ——と、その時、突如腕を後ろ向きに引っ張られた。

「なっ……!」

 何が起きたのか、すぐには理解できなかった。しかし、すぐ後ろに人影があるのを見た瞬間、背後に回られたのだと悟った。

「悪いけど、大人しくしておいていただけるっぷ?」

 いつの間にか背後に回り私の腕を掴んでいたのは、ユニコーンのような髪型をした男。リンディアに向かっていっているのとは違う方の男だ。

「……離して下さい」
「そういうわけにはいかないんっぷ」
「離して!」

 私は調子を強める。
 しかし、結局何の意味もなかった。

「無理なんっぷ!」

 離してもらえないどころか、逆に力を強められてしまった。

「ちょっと、痛いわ! 止めて!」
「……ごめんなさいっぷ」
「離してちょうだい!」

 腕をこんなに強く掴まれるのは、初めての経験だ。それだけに、衝撃が大きい。

 ただ腕を掴まれただけ。
 そう考えると、そんなに騒ぐようなことではないのだろうが。

「一体、何をするつもりなの」
「大人しくしてくれていれば、痛いことはしないっぷ!」

 ユニコーンのような頭の男は、そんな悪人には見えない。けれど、私の腕を離してくれそうにはなかった。

 大人しくしているしかないのだろうか。
 私には、腕を掴まれたままじっとしているという道しか存在しないのだろうか。

 無力。それを改めて突きつけられているようで、胸がずぅんと重い。何もできない無能。そう嘲笑われているようで、悔しい。

 でも、それらは真実だ。

 他人を救うどころか、自分の身を護ることさえ満足にできないのだから。

「お願い、離して」
「それは無理なんだっぷ」
「お願いよ」
「怖いのは分かるっぷ。でも、だからって離すわけにはいかないっぷ」


 それからしばらく、腹が出ている方の男がやって来た。
 彼の肩には、意識のないリンディアが担がれている。その光景に、私はさらに衝撃を受けた。

 ——私のせいだ。

 そんな思いが一気に押し寄せ、この胸の内で渦巻く。

「完了っぷ?」
「あぁ。これを使えばすぐに終わった」

 リンディアを担いでいる腹が出た男の手には、折り畳まれた白い紙。

「紙っぷ?」
「あの薬品で塗らした紙だよ」
「なるほどっぷ!」

 今すぐ突き飛ばしてやりたい、と思った。今すぐ駆け出して転倒させてやりたい、と。
 リンディアに酷いことをした男を、私は許せなかったのだ。

 だが、何かしてやりたいと思ったところで何かができるわけではない。このユニコーン頭から逃れない限り、自由に動くことはできないのだ。

「アンタも順調か?」
「もちっぷ! この娘は力が弱いから、気絶させなくても大丈夫そうっぷ」
「そのまま連れていくのか」

 ……連れていく?

「一応そのつもりっぷ!」
「なら目隠ししておけよー」
「このままで大丈夫だと思うっぷよ?」

 どこか真面目さのある腹が出た男と、非常に呑気なユニコーン風な髪型の男。二人の会話からは、彼らの親しさが溢れ出ている。

「そんなだから、アンタは詰めが甘いんだよ」
「えぇー。そんな言い方、酷いっぷ!」
「取り敢えず、目隠ししろよ」
「分かったっぷ! 分かったっぷ!」

 その後、私の腕は腹が出ている方の男に渡された。それから、ユニコーン頭の男によって、白く細長い紙で目隠しを施される。

 視覚さえ奪われた。
 周囲の状況を確認することさえままならない。

「よしっ。これで行くっぷよ!」

 ユニコーン頭の男は個性的な口調だ。だから、彼は話し方だけで彼だと判別できる。少々イラッとする口調ではあるが、判別しやすいという意味ではありがたいかもしれない。

 しかし、どこへ連れていかれるのだろう?

 それだけが謎だ。

 捕らわれ殺されるというなら分かる。だが、どうやらそうではないらしい。
 すぐに殺されないのはありがたいことではある。けれど、「死以上の悲劇が待っていたら……」という不安は、どうしても残ってしまう。

「あの方の指示通り、あそこへ行くぞ!」
「分かっているっぷ。そんなに慌てなくていいっぷ」
「アンタは呑気すぎるんだよ」

 私は強制的に歩かされた。

 目隠しのせいで何一つ見えず、一歩踏み出すことすら不安だ。

 どこへ行くのか、どんなところを行くのか。そういったことが何も分からない状態でただひたすらに歩くことがこんなに不安にさせるということに、私は初めて気づいた。

 しばらくして、私は考えることを止めた。

 考えれば考えるほど不安になる。
 良いことはまったくない、と感じたから。
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