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114話 廃墟
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「さぁ、着いたっぷよ」
そんな言葉が耳に入ったのとほぼ同時のタイミングで、紙製の目隠しが外された。視界に光が戻る。
「ここは……」
今おかれている状況を理解しようと、私は、辺りを見回してみた。しかし、辺りを見回しても、まともな情報を得ることはできそうにない。というのも、天井や壁、床など、すべてが同一の材質なのである。
私が今いるこの場所には、真っ黒なコンクリートしか存在しない。
ここはどこなのか。
何のための場所なのか。
また、なぜこんなところへ私を連れてきたのか。
疑問は山ほどある。けれど、そのすべてを問うことなどできないだろう。それに、もし仮に問えたとしても、答えてもらえないに違いない。
「……ここは、どこ?」
辺りには、髪の毛がユニコーンの角のようになっている男だけしかいないようだ。
親しくもない男と二人きりというのは、何とも言えない気分になってしまう。嫌なことをされたりしないだろうか、というような不安も生まれる。
ただ、一対多の状況よりかはましかもしれない。
一対一ならば、何とかなりそうな気がしないこともないからだ。
「ここは郊外の廃ビルだっぷ」
「廃ビル?」
「そうそう、廃ビルっぷ!」
なるほど。使われていない建物、ということか。
……通行人に助けを求めることはできそうにないわね。
「ねぇ」
「何っぷ何っぷ?」
「貴方も、シュヴァルに頼まれてこんなことをしているの?」
私の問いに、男は笑顔で答える。
「そうっぷ! 成功したらお姉ちゃんを貰えるんっぷ!」
角が生えたかのような髪型の男は、頭を上下させながら、そんなことを言った。
男の言動からは、彼が褒美を楽しみにしているということがひしひしと伝わってくる。もっとも、お姉ちゃんを貰うもののように言っているところは謎で仕方ないのだが。
「そう……」
「お姉ちゃんを貰うため、頑張っているんっぷ!」
「そんなに女の人が欲しいのね」
人を物みたいに言う男に少々苛立ち、つい嫌みを言ってしまった。こんなこと、私らしくない。
しかし、男は怒りはしなかった。
ただ、じわりと距離を詰めてくる。
「そうっぷ。女の子は癒やしなんっぷ」
近づいてきた男は、私の片側の手首を掴む。そして、腕を上へ引き上げる。
「……何をするつもり?」
「褒美の前に、少し楽しませてもらうっぷ」
男の片手が私の体へと伸びかけた——その時。
ガタン、と音がして、遠くに見える扉が開いた。やや腹が出ている方の男がやって来たのだ。
「何勝手なことしてんだ、アンタ」
「う、うわ、うわわっぷ!」
突如声をかけられたユニコーン頭は、驚き、私の手首から手を離す。
ぎりぎりのところで触られずに済んだ。これはかなりの幸運である。今ばかりは、やや腹が出た三十代くらいと思われる男に、感謝しなくてはならない。
「な、何もっ……してないっぷ」
「本当か?」
「ほ、ほんっとうっぷ! 嘘なんかつかないっぷ!」
ユニコーンのような髪型の男は、胸の前で両手をひらひらと動かし、ごまかそうとしている。しかし、明らかに不自然なその動作のせいで、焦っていることがまるばれ。彼は嘘をつくのが苦手なタイプのようだ。
「嘘なんかつかない? そんな当たり前のことを敢えて言うなんて、怪しいと思うぞ」
「そっ……そうかなっぷ?」
「ま、いいけどさ。取り敢えず、勝手なことはするなよ」
「分かっているっぷ」
やや腹が出ている方の男は、ユニコーン頭が嘘をついていることに気づいているようだった。分かってはいるけれど、敢えて追求はしない——そういうことなのだろう。
「じゃあ、アンタは彼女を連れてこっちへ来てくれ」
「え。今っぷ?」
「そうだ。あっちの女が目覚めたからな、一緒に閉じ込めておこう」
私は今から、どこかに閉じ込められるというのか。
男たちの会話は、聞けば聞くほど不安になってしまう。できるなら、耳を閉じておきたいくらいだ。
こういう時は不便よね、耳って。
目なら閉じれば何も見ずに済むのに、耳はどうやっても聞こえなくできないんだもの。
「オッケーっぷ! 行こう行こうっぷー」
「逃がさないよう、ちゃんと捕まえておいてくれよ」
「大丈夫っぷ」
ユニコーン頭に再び手を掴まれる。
けれど、先ほどの掴まれた時に比べると、精神的な負担はあまりない。
いや、もちろん、これから起こることに対する不安はあるわけなのだが。けれども、先ほどのように嫌らしい目で見られることに比べれば、まだましと言えるのである。
先ほど腹が出ている方の男が入ってきた扉を通過。そこには、狭い廊下があった。三人横に並んで歩くのはかなり厳しい、というくらいの幅しかない廊下を、私は歩かされた。腹が出ている方の男が案内役であるかのように前を行き、私は、ユニコーン頭に腕を握られた状態で歩く。罪人にでもなったような気分だ。
しばらく歩くと、前を行っていた男が足を止めた。それに合わせ、ユニコーン頭と私もその場で停止する。
「ここから入るぞ」
「え、そこからどこかへ行けるっぷ? 扉なんかないっぷけどっぷ」
腹が出ている方の男が手を当てているのは、ただの壁。雨降りの前の空みたいな灰色をした、人工的な素材の壁だ。扉らしきものは見当たらないし、ロック解除のための何かがある様子もない。
「呪文でも唱えるっぷ?」
「いや」
しかし、そこには本当に扉があった。
「押せば開く」
腹が出ている方の男が壁を押すと、驚いたことに、ギィと音をたてながら壁が動いた。まるで、扉のように。
「おおうっぷ!?」
驚いていたのは、どうやら、私だけではないようだ。
私の腕を掴んでいるユニコーン風な髪型の男も、目を大きく開き、愕然としていた。
現れた扉を通り、その中へと入っていく……。
部屋の中に入って、驚いた。
暗い部屋の一番奥にリンディアの姿があったから。
「リンディア!」
一つに束ねた赤い髪。見間違うはずがない。彼女は間違いなく、リンディアだ。
私一人だけが連れられてきたという可能性もあったのだが、どうやら、そうではなかったようだ。
こんなことを思うのは酷いかもしれないが……彼女も連れられてきていたのだと知り、ほんの少し安堵した。ずっと一緒にはいられないにしても、完全に一人きりという状況よりかは、彼女もいてくれる方が安心感がある。
「リンディアなの!?」
「……その声、王女様ねー」
室内が明るくないため、視界はあまり良くない。けれど、目の前の女性が発した声を聞いて、彼女がリンディアであると確信することができた。赤い髪と声。それらが揃っているのに別人だった、という可能性は低いだろう。
「……無事なの」
「えぇ、大丈夫。リンディアは?」
「問題ないわー」
この頃になってようやく冷静さを取り戻してきた私は、改めて、目を凝らす。リンディアの状態が気になるからだ。
ただ、問題が一つ。
それは、かなり見えにくいこと。
私は目が悪いわけではないけれど、この環境下ですべてをちゃんと捉えることは難しい。そのため、赤い髪のように目立つところは見えるのだが、それ以外の黒っぽい部分などは上手く捉えられないのである。
目を凝らしリンディアの姿を確かに捉えようと試みていると、唐突に、両腕を後ろへ回された。
「えっ」
「じっとしててっぷ」
手首には縄のざらついた感覚。
——くくるつもり?
「何も言わず始めるのは、止めてちょうだい!」
「このくらい、前もって伝えることではないっぷ。大袈裟っぷよっぷ」
そんな言葉が耳に入ったのとほぼ同時のタイミングで、紙製の目隠しが外された。視界に光が戻る。
「ここは……」
今おかれている状況を理解しようと、私は、辺りを見回してみた。しかし、辺りを見回しても、まともな情報を得ることはできそうにない。というのも、天井や壁、床など、すべてが同一の材質なのである。
私が今いるこの場所には、真っ黒なコンクリートしか存在しない。
ここはどこなのか。
何のための場所なのか。
また、なぜこんなところへ私を連れてきたのか。
疑問は山ほどある。けれど、そのすべてを問うことなどできないだろう。それに、もし仮に問えたとしても、答えてもらえないに違いない。
「……ここは、どこ?」
辺りには、髪の毛がユニコーンの角のようになっている男だけしかいないようだ。
親しくもない男と二人きりというのは、何とも言えない気分になってしまう。嫌なことをされたりしないだろうか、というような不安も生まれる。
ただ、一対多の状況よりかはましかもしれない。
一対一ならば、何とかなりそうな気がしないこともないからだ。
「ここは郊外の廃ビルだっぷ」
「廃ビル?」
「そうそう、廃ビルっぷ!」
なるほど。使われていない建物、ということか。
……通行人に助けを求めることはできそうにないわね。
「ねぇ」
「何っぷ何っぷ?」
「貴方も、シュヴァルに頼まれてこんなことをしているの?」
私の問いに、男は笑顔で答える。
「そうっぷ! 成功したらお姉ちゃんを貰えるんっぷ!」
角が生えたかのような髪型の男は、頭を上下させながら、そんなことを言った。
男の言動からは、彼が褒美を楽しみにしているということがひしひしと伝わってくる。もっとも、お姉ちゃんを貰うもののように言っているところは謎で仕方ないのだが。
「そう……」
「お姉ちゃんを貰うため、頑張っているんっぷ!」
「そんなに女の人が欲しいのね」
人を物みたいに言う男に少々苛立ち、つい嫌みを言ってしまった。こんなこと、私らしくない。
しかし、男は怒りはしなかった。
ただ、じわりと距離を詰めてくる。
「そうっぷ。女の子は癒やしなんっぷ」
近づいてきた男は、私の片側の手首を掴む。そして、腕を上へ引き上げる。
「……何をするつもり?」
「褒美の前に、少し楽しませてもらうっぷ」
男の片手が私の体へと伸びかけた——その時。
ガタン、と音がして、遠くに見える扉が開いた。やや腹が出ている方の男がやって来たのだ。
「何勝手なことしてんだ、アンタ」
「う、うわ、うわわっぷ!」
突如声をかけられたユニコーン頭は、驚き、私の手首から手を離す。
ぎりぎりのところで触られずに済んだ。これはかなりの幸運である。今ばかりは、やや腹が出た三十代くらいと思われる男に、感謝しなくてはならない。
「な、何もっ……してないっぷ」
「本当か?」
「ほ、ほんっとうっぷ! 嘘なんかつかないっぷ!」
ユニコーンのような髪型の男は、胸の前で両手をひらひらと動かし、ごまかそうとしている。しかし、明らかに不自然なその動作のせいで、焦っていることがまるばれ。彼は嘘をつくのが苦手なタイプのようだ。
「嘘なんかつかない? そんな当たり前のことを敢えて言うなんて、怪しいと思うぞ」
「そっ……そうかなっぷ?」
「ま、いいけどさ。取り敢えず、勝手なことはするなよ」
「分かっているっぷ」
やや腹が出ている方の男は、ユニコーン頭が嘘をついていることに気づいているようだった。分かってはいるけれど、敢えて追求はしない——そういうことなのだろう。
「じゃあ、アンタは彼女を連れてこっちへ来てくれ」
「え。今っぷ?」
「そうだ。あっちの女が目覚めたからな、一緒に閉じ込めておこう」
私は今から、どこかに閉じ込められるというのか。
男たちの会話は、聞けば聞くほど不安になってしまう。できるなら、耳を閉じておきたいくらいだ。
こういう時は不便よね、耳って。
目なら閉じれば何も見ずに済むのに、耳はどうやっても聞こえなくできないんだもの。
「オッケーっぷ! 行こう行こうっぷー」
「逃がさないよう、ちゃんと捕まえておいてくれよ」
「大丈夫っぷ」
ユニコーン頭に再び手を掴まれる。
けれど、先ほどの掴まれた時に比べると、精神的な負担はあまりない。
いや、もちろん、これから起こることに対する不安はあるわけなのだが。けれども、先ほどのように嫌らしい目で見られることに比べれば、まだましと言えるのである。
先ほど腹が出ている方の男が入ってきた扉を通過。そこには、狭い廊下があった。三人横に並んで歩くのはかなり厳しい、というくらいの幅しかない廊下を、私は歩かされた。腹が出ている方の男が案内役であるかのように前を行き、私は、ユニコーン頭に腕を握られた状態で歩く。罪人にでもなったような気分だ。
しばらく歩くと、前を行っていた男が足を止めた。それに合わせ、ユニコーン頭と私もその場で停止する。
「ここから入るぞ」
「え、そこからどこかへ行けるっぷ? 扉なんかないっぷけどっぷ」
腹が出ている方の男が手を当てているのは、ただの壁。雨降りの前の空みたいな灰色をした、人工的な素材の壁だ。扉らしきものは見当たらないし、ロック解除のための何かがある様子もない。
「呪文でも唱えるっぷ?」
「いや」
しかし、そこには本当に扉があった。
「押せば開く」
腹が出ている方の男が壁を押すと、驚いたことに、ギィと音をたてながら壁が動いた。まるで、扉のように。
「おおうっぷ!?」
驚いていたのは、どうやら、私だけではないようだ。
私の腕を掴んでいるユニコーン風な髪型の男も、目を大きく開き、愕然としていた。
現れた扉を通り、その中へと入っていく……。
部屋の中に入って、驚いた。
暗い部屋の一番奥にリンディアの姿があったから。
「リンディア!」
一つに束ねた赤い髪。見間違うはずがない。彼女は間違いなく、リンディアだ。
私一人だけが連れられてきたという可能性もあったのだが、どうやら、そうではなかったようだ。
こんなことを思うのは酷いかもしれないが……彼女も連れられてきていたのだと知り、ほんの少し安堵した。ずっと一緒にはいられないにしても、完全に一人きりという状況よりかは、彼女もいてくれる方が安心感がある。
「リンディアなの!?」
「……その声、王女様ねー」
室内が明るくないため、視界はあまり良くない。けれど、目の前の女性が発した声を聞いて、彼女がリンディアであると確信することができた。赤い髪と声。それらが揃っているのに別人だった、という可能性は低いだろう。
「……無事なの」
「えぇ、大丈夫。リンディアは?」
「問題ないわー」
この頃になってようやく冷静さを取り戻してきた私は、改めて、目を凝らす。リンディアの状態が気になるからだ。
ただ、問題が一つ。
それは、かなり見えにくいこと。
私は目が悪いわけではないけれど、この環境下ですべてをちゃんと捉えることは難しい。そのため、赤い髪のように目立つところは見えるのだが、それ以外の黒っぽい部分などは上手く捉えられないのである。
目を凝らしリンディアの姿を確かに捉えようと試みていると、唐突に、両腕を後ろへ回された。
「えっ」
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※10/1から連載し、10/7に完結します。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
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