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125話 少し嬉しい?
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リンディアと無事合流できた。
それは良かったのだけれど、これからどうしよう。
彼女は正常な意識を保っている。しかし、注射されたとかなんとかで、体がまともに動かないようだ。
一体、どうすればいいのだろう。
彼女の体を抱え上げて運ぶ、というのは、私の力ではさすがに不可能だ。
「とにかく無事で良かったわ。注射以外に酷いことはされなかった?」
「……えぇ、大丈夫だったわよー」
「本当に良かった」
この言葉は本心だ。
従者が傷ついたり命を落としたりするところは、もう二度と見たくない。
「ところで、これからどうする? リンディア」
「……どーすべきなのかしらねー……」
ベッドに横たわったまま、溜め息を漏らすリンディア。
「……動けないあたし、完全に、足手まといよねー……やだわー……」
リンディアの手は、赤い拳銃をしっかりと握っている。
持ち慣れている拳銃だからか、持ちにくそうということはまったくなかった。
「そんなことないわ! リンディアが無事でいてくれれば、それでいいの」
私はいつもより明るめに発する。
リンディアを暗い気持ちにさせたくないから。
「……ありがとー」
「いえいえ」
——その時。
「何してるん?」
背後には影。
そして、人の声。
振り返るとそこには、ラナの姿があった。
あどけなさの残る体つき。私よりも低い背。片耳の付近で乱雑にまとめた紺の髪。それらの要素から「彼女がラナである」と判断するのに、そう時間はかからなかった。
「貴女は……!」
「ラナ・ルシェフや。久しぶりやね」
全身が強張る。
私は恐怖心を抱いているのだ、と、その時初めて自覚した。
「何しに来たの」
「今日はあの男はいないんや? 珍しいやん」
「あの男……ベルンハルトのことね」
「んー、多分そうやわ」
ラナは呑気に喋っている。
もしかしたら説得できるのでは、なんて思ってしまったほどに、今の彼女は明るい。
「おらんとは思わんかったわ。また戦いを楽しめるかと、期待してたんやけど」
「……なーに言ってんのよー」
ベッドに横たわるリンディアが、唐突に口を挟んできた。
ラナへ拳銃の口を向けながら。
「……戦いを楽しむなんて、じょーだんでも……言ってんじゃないわよー」
リンディアの言葉に、ラナは目を見開いた。しかし、それも束の間。すぐに普段の顔に戻る。さらに、片側の口角を持ち上げ、ニヤリと笑みを浮かべることまでしていた。
「ま、それもそうやな」
意外。
こう来るとは思わなかった。
「……分かって、んなら……最初から言うのは、止めなさいよー……」
真っ当だと思う。
だが、発言における配慮というのは難しいものなのかもしれない。
「ごめんって。許してちょうだいよ」
ラナは顔の前で手を合わせる。
なぜだろう。今日のラナからは、殺気のようなものを感じない。これまでもそうだったように、彼女は今日も、私たちの命を狙っているはずだ。なのに、どうして、こんなにも穏やかなのだろう。私には理解できない。
「何をするつもり?」
「……ちょっと聞きたいことがあるんよ」
真剣な顔つきのラナ。
「聞きたいこと?」
「フィリーナを撃ったのは、王女様の仲間なん?」
ラナは、彼女にしては静かな声色で尋ねてきた。
騒々しいイメージがあっただけに、彼女が静かな声を発しているところを見ると不思議な感じだ。
「解放され呼び出され、ミストと二人で、会議室みたいなとこに向かったんよ。そしたらそこには、フィリーナだけ。しかも倒れてるフィリーナやったから、びびったわ」
「……フィリーナは死んでいたの?」
恐る恐る尋ねると、ラナは笑みを浮かべつつ答えてくれる。
「いやいや。死んではなかった。大丈夫やったで」
ラナの声を聞き、私は思わず声をあげる。
「そうなの!?」
嬉しかった。
フィリーナには酷いことをしてしまった。しかし、まだ謝れていない。だから、もしこのまま彼女が亡くなってしまったりしたら、きちんと謝れないまま別れることになってしまう。それは嫌だ。
もう一度ちゃんと話をしなくては。
ちゃんと話をして、理解しあうことができれば、私たちはきっと仲良しになれるだろう。
「良かった……」
無意識のうちに、安堵の溜め息を漏らしていた。
「ふーん。そんなこと言うんや」
「そうよ。フィリーナは少し残念な娘だけれど、でも、明るくて優しいの」
それに少し嫉妬していた、なんてことは言えないけれど。
「へー、案外気に入ってるんやね。裏切られて恨んでるもんやと、そう思ってたわ」
ラナは剣を抜かない。手を巨大化させることもしない。ただ、愉快そうな笑みを浮かべている。
——攻撃する気はないというの?
「ま、でも、そうゆうことなら良かったわ」
「……どういう意味?」
「フィリーナは今頃ちゃんと手当てされてるわ。心配せんでも、助かるやろ」
ひと呼吸おいて、ラナは続ける。
「にしてもあのおっさん、やっぱワルやったんやな」
「……おっさん?」
「名前何やったっけ……えーと、シュトーレン? いや、ちゃうわ。えーと……」
言いたい人の名を忘れてしまったらしく、ラナは、妙なことを言い始める。そんな彼女に対し、リンディアはベッドに横たわったまま放つ。
「……シュヴァル、でしょー」
なるほど、と思った。
シュヴァルのことを言おうとしていたのなら、「シュトーレン」などと間違えるのも無理はない。
……いや、そうだろうか?
さすがにシュトーレンと間違えることはないだろう、と思ってしまうところもある。ただ、私にとっては明らかに異なる二つの単語だが、ラナにとっては「シュヴァル」も「シュトーレン」も同じようなものなのかもしれない。
「そうや! それやわ!」
ラナは手を合わせ、パンと乾いた音を鳴らした。
「うちはシュヴァルから依頼を受けて、王女様らを殺しに来たんよ。けど、その依頼をうちが受けたんは、あの男が『星王家はこの国に悪い影響を与えている』なんて言うからや」
「……そんなこと言うなんて、サイテーねー……」
「国のためになるんやったらと思て受けたんや。やのに、結果はこれ。はー呆れてまうわー」
ラナにはラナの信条があるのかもしれない、と、この時初めて気がついた。
彼女とて、殺人鬼ではない。だから、ただの人を殺したいというだけではないのかもしれない。今は、そんな風に思うことができた。
……少し嬉しい。
それは良かったのだけれど、これからどうしよう。
彼女は正常な意識を保っている。しかし、注射されたとかなんとかで、体がまともに動かないようだ。
一体、どうすればいいのだろう。
彼女の体を抱え上げて運ぶ、というのは、私の力ではさすがに不可能だ。
「とにかく無事で良かったわ。注射以外に酷いことはされなかった?」
「……えぇ、大丈夫だったわよー」
「本当に良かった」
この言葉は本心だ。
従者が傷ついたり命を落としたりするところは、もう二度と見たくない。
「ところで、これからどうする? リンディア」
「……どーすべきなのかしらねー……」
ベッドに横たわったまま、溜め息を漏らすリンディア。
「……動けないあたし、完全に、足手まといよねー……やだわー……」
リンディアの手は、赤い拳銃をしっかりと握っている。
持ち慣れている拳銃だからか、持ちにくそうということはまったくなかった。
「そんなことないわ! リンディアが無事でいてくれれば、それでいいの」
私はいつもより明るめに発する。
リンディアを暗い気持ちにさせたくないから。
「……ありがとー」
「いえいえ」
——その時。
「何してるん?」
背後には影。
そして、人の声。
振り返るとそこには、ラナの姿があった。
あどけなさの残る体つき。私よりも低い背。片耳の付近で乱雑にまとめた紺の髪。それらの要素から「彼女がラナである」と判断するのに、そう時間はかからなかった。
「貴女は……!」
「ラナ・ルシェフや。久しぶりやね」
全身が強張る。
私は恐怖心を抱いているのだ、と、その時初めて自覚した。
「何しに来たの」
「今日はあの男はいないんや? 珍しいやん」
「あの男……ベルンハルトのことね」
「んー、多分そうやわ」
ラナは呑気に喋っている。
もしかしたら説得できるのでは、なんて思ってしまったほどに、今の彼女は明るい。
「おらんとは思わんかったわ。また戦いを楽しめるかと、期待してたんやけど」
「……なーに言ってんのよー」
ベッドに横たわるリンディアが、唐突に口を挟んできた。
ラナへ拳銃の口を向けながら。
「……戦いを楽しむなんて、じょーだんでも……言ってんじゃないわよー」
リンディアの言葉に、ラナは目を見開いた。しかし、それも束の間。すぐに普段の顔に戻る。さらに、片側の口角を持ち上げ、ニヤリと笑みを浮かべることまでしていた。
「ま、それもそうやな」
意外。
こう来るとは思わなかった。
「……分かって、んなら……最初から言うのは、止めなさいよー……」
真っ当だと思う。
だが、発言における配慮というのは難しいものなのかもしれない。
「ごめんって。許してちょうだいよ」
ラナは顔の前で手を合わせる。
なぜだろう。今日のラナからは、殺気のようなものを感じない。これまでもそうだったように、彼女は今日も、私たちの命を狙っているはずだ。なのに、どうして、こんなにも穏やかなのだろう。私には理解できない。
「何をするつもり?」
「……ちょっと聞きたいことがあるんよ」
真剣な顔つきのラナ。
「聞きたいこと?」
「フィリーナを撃ったのは、王女様の仲間なん?」
ラナは、彼女にしては静かな声色で尋ねてきた。
騒々しいイメージがあっただけに、彼女が静かな声を発しているところを見ると不思議な感じだ。
「解放され呼び出され、ミストと二人で、会議室みたいなとこに向かったんよ。そしたらそこには、フィリーナだけ。しかも倒れてるフィリーナやったから、びびったわ」
「……フィリーナは死んでいたの?」
恐る恐る尋ねると、ラナは笑みを浮かべつつ答えてくれる。
「いやいや。死んではなかった。大丈夫やったで」
ラナの声を聞き、私は思わず声をあげる。
「そうなの!?」
嬉しかった。
フィリーナには酷いことをしてしまった。しかし、まだ謝れていない。だから、もしこのまま彼女が亡くなってしまったりしたら、きちんと謝れないまま別れることになってしまう。それは嫌だ。
もう一度ちゃんと話をしなくては。
ちゃんと話をして、理解しあうことができれば、私たちはきっと仲良しになれるだろう。
「良かった……」
無意識のうちに、安堵の溜め息を漏らしていた。
「ふーん。そんなこと言うんや」
「そうよ。フィリーナは少し残念な娘だけれど、でも、明るくて優しいの」
それに少し嫉妬していた、なんてことは言えないけれど。
「へー、案外気に入ってるんやね。裏切られて恨んでるもんやと、そう思ってたわ」
ラナは剣を抜かない。手を巨大化させることもしない。ただ、愉快そうな笑みを浮かべている。
——攻撃する気はないというの?
「ま、でも、そうゆうことなら良かったわ」
「……どういう意味?」
「フィリーナは今頃ちゃんと手当てされてるわ。心配せんでも、助かるやろ」
ひと呼吸おいて、ラナは続ける。
「にしてもあのおっさん、やっぱワルやったんやな」
「……おっさん?」
「名前何やったっけ……えーと、シュトーレン? いや、ちゃうわ。えーと……」
言いたい人の名を忘れてしまったらしく、ラナは、妙なことを言い始める。そんな彼女に対し、リンディアはベッドに横たわったまま放つ。
「……シュヴァル、でしょー」
なるほど、と思った。
シュヴァルのことを言おうとしていたのなら、「シュトーレン」などと間違えるのも無理はない。
……いや、そうだろうか?
さすがにシュトーレンと間違えることはないだろう、と思ってしまうところもある。ただ、私にとっては明らかに異なる二つの単語だが、ラナにとっては「シュヴァル」も「シュトーレン」も同じようなものなのかもしれない。
「そうや! それやわ!」
ラナは手を合わせ、パンと乾いた音を鳴らした。
「うちはシュヴァルから依頼を受けて、王女様らを殺しに来たんよ。けど、その依頼をうちが受けたんは、あの男が『星王家はこの国に悪い影響を与えている』なんて言うからや」
「……そんなこと言うなんて、サイテーねー……」
「国のためになるんやったらと思て受けたんや。やのに、結果はこれ。はー呆れてまうわー」
ラナにはラナの信条があるのかもしれない、と、この時初めて気がついた。
彼女とて、殺人鬼ではない。だから、ただの人を殺したいというだけではないのかもしれない。今は、そんな風に思うことができた。
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