イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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128話 本当の間違いは

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 ベルンハルトは私を見つめ、そのまま、私がいる方へと真っ直ぐに歩いてくる。

 そして、一メートルも離れていない辺りで止まった。

「無事だったか、イーダ王女」
「えぇ」
「それなら良かった。だが、今後はあまり無茶をするなよ」

 私は視線を下げる。
 あんな別れ方をしたベルンハルトと話すのが、気まずかったのだ。

「……そうね」

 ベルンハルトが私を見ている。じっと見つめている。それには気づいていた。けれど私は、気づかないふりをする。目を合わせたら怒られそうな気がして、彼の凛々しい双眸へ視線を向けることはできなかった。

「勝手なことをして、ごめんなさい」

 助けに来てくれたのに。護ってくれたのに。それなのに私は、ベルンハルトに逆らった。彼の言葉を聞かず、反抗期の子どものように飛び出して。

 ラナが見逃してくれたから良かったものの、これでもし私が殺されていたりなんかしたら、ベルンハルトに大変な迷惑をかけてしまうところだったのだ。

「……本当に、ごめんなさい」

 視線を合わせることはできぬまま、謝る。

 顔を上げることはできない。
 だって、ベルンハルトに嫌われてしまった現実なんて見たくないから。

 私が二度目に謝ってから数秒が経った時、ふと、手に何かが触れた。

「べつに、謝ることはない」

 優しいベルンハルトの言葉に、私は初めて顔を上げることができた。

「……いいえ。私がしてしまった行為は、謝るべきことだわ」
「貴女が謝ることを望むのなら、謝ってもらって問題ない。が、そうでないのなら、謝ってもらわなくて結構だ」

 彼は私の手を取って、そんな風に言ってくれた。

「同じことを繰り返さない。それが最重要事項だ」

 そう、そうなの。一度やらかした間違いを、次に活かすことが必要なのよ。本当にいけないのは、多分、間違うことではなくて同じ間違いを繰り返すことなのよね。

「そーね。……なかなかいーこと言うじゃなーい?」
「お前には関係ない」
「……なーによ、感じ悪ーい」

 口を挟んできたリンディアに対するベルンハルトの態度は、お世辞にも良いとは言えないものだった。

「ごめんなさい、ベルンハルト。もうあんなことはしないわ」
「ならいいが……」

 ベルンハルトはリンディアを一瞥し、すぐに視線を私へ戻す。

「あまり心配させないでくれ」

 絡む指が、重なる手が、温かい。

 こんなことを言うのは間違いかもしれない。おかしいと思われる可能性もある。
 けれど、心から思う。

 ——心配してくれて嬉しい、と。


「その程度で逃げたつもりですか」


 温かな空気を一変させたのは、ミストの無機質な声だった。

 灰がかった水色の髪。黄色に近い色みの光なき瞳。そして、白い手に握られているステッキ。
 そのすべて——ミストというただ一つの存在が、温かな空気を消し去ってしまう。

「そう易々と、わたしから逃れられるとは思わないで下さい」

 ミストはステッキを大袈裟に振り上げる。それから、その先端をスッと私たちに向けた。

 それは、彼女に戦意があるということを表している。

 彼女が戦う気であることを察知し、リンディアとベルンハルトが同時に戦闘体勢をとった。
 ベルンハルトは胸の前でナイフを構え、リンディアはベッドに座ったままだが赤い拳銃を握り直す。

「……またアンタと戦う日が来るなんて、思わなかったけどー……こーなっちゃ仕方ないわねー」
「まったく。しつこいやつは嫌いだ」

 二人が戦闘体勢をとっても、ミストの表情が揺らぐことはない。

「三人まとめて、処分させていただきます」

 ミストは何の躊躇いもなく、ヒールのある靴で床を蹴る。

 彼女の速さは凄まじい。二三秒も経たないうちに、かなり接近してきた。
 ベルンハルトまで、あと三四メートルといったところか。

「お覚悟を」

 ミストの冷たい声。
 しかし、ベルンハルトは怯まない。むしろ踏み出していく。

 結果、先に仕掛けていったのは、意外にもベルンハルトだった。

 ベルンハルトがナイフを振る。ミストはそれをステッキで軽く防ぎ、さらに一歩踏み込む。ベルンハルトにかなり接近し、静かに膝を振り上げる。

「……っ!」

 脇腹に刺さりかけたミストの膝を、ベルンハルトは片腕で止めた。

 すぐに反撃。
 距離がかなり近くなっているところを逆に利用し、拳を突き出す。

 だが、その拳は命中せず。

 ミストがベルンハルトの横側へと回り込んだからである。

「非効率的な動作が多すぎます」

 小さく言って、ミストはステッキをベルンハルトに向けた。

 ——直後。

 ベルンハルトの体が大きく飛んだ。
 彼の体は、リンディアが乗っているベッドにぶつかり、床に落ちる。

「ベルンハルト!」

 思わず叫んでしまった。
 ミストの視線が私に向く。

「では」
「……来ないで!」

 威嚇するように、鋭く叫んでやる。

 だが、私が叫んだくらいで諦めてくれるミストではない。彼女は一切躊躇わず、ステッキの先をこちらへ向けてきた。

 直後、体に何かがぶつかる。

「え」

 腹から胸にかけての辺りに見えない何かがぶつかり、体が後ろへ吹き飛ぶ。
 尻餅をついてしまった。

 腰を打ち、すぐには動き出せない。そんな私に、ミストは歩み寄ってくる。

「さぁ、終わっていただきま——くっ!」

 私の方へと歩いてきていたミストに、緑色の光が飛んできた。ミストは咄嗟にステッキで防ぐ。

「……思いどーりには、させないわよー」

 リンディアだった。
 彼女が助けてくれたのだ。

「邪魔しないで下さい」
「はん! おっかしー。邪魔しないわけないじゃなーい」

 ミストの視線が、私からリンディアへ映る。

「では、そちらから先に仕留めることにしま——っ!」

 リンディアが拳銃の引き金を引いた。緑色の光がミストに向かって飛ぶ。最後まで言い終わらないうちに攻撃されたミストは、不快そうに眉をひそめつつ、リンディアが放った光を避けた。

「他人の話は最後まできちんと聞くべきです」
「あらー。教師みたいなことを言うのねー」
「当然のことを言ったまでです」
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