イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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135話 話をしながら

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 ベッドのある個室で、私とベルンハルトは、リンディアと話す。

「そーいえばさー」
「何?」
「その……アスターはどーなったのかしらー」

 リンディアは、非常に気まずそうな顔をしながら尋ねてきた。

 いつも嫌いと言っていて、酷い言葉を投げかけることも日常茶飯事。けれど、それは外向きであって。

 リンディアは、本当は、アスターのことをちゃんと考えているのだ。
 そして、アスターはそれに気づいている。

 彼女に酷いことを言われてもアスターが怒らないのは、きっと、リンディアが素直になれない性格であることを知っているからなのだろう。

「アスターさん……実は私も知らないの。でも多分、命に別状はないと思うわよ」
「そーなの?」
「きちんと治療すれば、みたいなことを言っていたわよ」
「あー、そーそー! そーいえば、そんなこと言ってたわねー!」

 とはいえ、もろに撃たれている。
 軽傷とはいかないだろう。

 後遺症なんかが残らなければいいのだが。

「アスターさんに会いに行ってみる?」
「……いーわよ、べつに。アスターに会いたくて仕方ないわけじゃなーいものー」

 リンディアは唇を尖らせる。

 見た感じ明らかに嘘をついていそうな雰囲気だが……突っ込むことはしないで、そっとしておこう。

 私は視線を、一旦、リンディアからベルンハルトへ移す。

「アスターさんはどこに?」
「僕も知らない」
「そう……」
「確認してこようか」

 ベルンハルトの口から発された親切な言葉に、私は数秒声を失ってしまった。彼の口からそんな親切な言葉が出てくるとは、欠片も想像していなかったからである。

「え……いいのかしら」
「貴女が望むなら」

 なぜだろう。理由はよく分からないけれど、今のベルンハルトは、かなり穏やかな顔をしていた。これまでのような冷淡な顔つきとは、少々違っている。

「アスターの居場所と、話せるかどうか。それらの確認で問題ないな?」
「えぇ」
「分かった」

 素直にこくりと頷くベルンハルト。

 その様子は、どことなく愛らしいものだった。
 言葉で表現することは難しいが、何とか表現するとすれば、「可愛げがある」という感じだろうか。

「では、少し失礼する」

 淡々とした声でそれだけ言うと、ベルンハルトは部屋から出ていった。

「……王女様はここにいていーの?」
「え。なぜ?」

 問いの意図が分からず、質問に質問を返してしまう。
 するとリンディアは、口角を僅かに持ち上げ、ニヤリと笑った。

「ベルンハルトと行かなくていーの? ……ってことよー」

 なるほど、そういうことね。
 説明してもらって初めて、リンディアが言おうとしていることの意味を理解することができた。

「それなら、べつにいいのよ」
「そーなの?」
「リンディアと一緒に過ごす時間だって、大切だわ」

 彼女は従者。
 でも、それと同時に、友のような存在でもある。

 王女ゆえ、私は友人が少ない。なかなか友人と言えるような関係は築けないのだ。

 だからこそ、友のような存在の彼女は大切にしたい。これからも、いろんなことを話したりして、関わっていきたいと思う。

「もっといろんなことを話してみたいの」
「……そーなのー?」
「えぇ。外の世界のことなんか、リンディアならよく知っていそうだもの」

 するとリンディアは、垂れてきていた赤い髪を片手でさらりと後ろへ流し、微かに胸を張る。少し自慢げな表情で。

「ま! そーね! 王女様よりは色々知ってるわよー。望むなら、教えてあげてもいーわ」
「本当!?」
「もっちろん! 教えないなんて、ケチ臭いことはしないわよー」

 平和になったら、平穏が訪れたら、もっと色々なことを聞きたいの。

 明るいこと。楽しいこと。
 そして、夢が広がるようなことを。


 その日の晩は、すぐに眠ることができた。
 自室のベッドで眠るのは、物凄く久しぶり。なので、とても不思議な感じで。でも、その柔らかな感触に癒やされて、あっという間に眠りに落ちてしまったのである。


 そして、気づけば朝になっていた。


 窓から差し込む朝日。
 温かく、穏やかで、まるで私たち人間を祝福してくれているかのよう。

 朝がいつもより明るく見える。でも、本当にいつもより明るいということはないのだろう。もちろん、晴れで光が差し込んできているというのはあるが、この明るさは、それだけによるものではない。

 世界を明るく見せているのは、私の心。
 この胸の内がすっきりしているからこそ、こんなにも晴れやかな朝なのだろうと思う。


 ベッドから起き上がり部屋の中央へ向かうと、そこにはベルンハルトの姿があった。

「おはよう」
「あぁ、イーダ王女。起きたのか」

 私から声をかけると、ベルンハルトはこちらを向いた。

「えぇ。おはよう、ベルンハルト」
「おはよう」

 ベルンハルトはあまり愛想よくはない。
 が、それは彼の「普通」なので、私が気にするようなことではないだろう。

「昨夜は眠れたか」
「えぇ。もうぐっすりと」
「それなら良かった」

 ベルンハルトは微かに頬を緩める。

 固さのある、ぎこちない表情。しかし、見る者に嫌な印象を与えるような表情ではない。

「ところで、アスターの件なのだが」
「……あ!」

 そうだった。
 昨夜は眠すぎて、聞き忘れてしまったのだった。

「そうだったわね。どんな感じ?」
「無事は無事のようだ、生きている」

 彼の言葉に、胸を撫で下ろす。

 生きてさえいればいいのだ。どんな状態であったとしても、生きていればどうにかなる。

「ただ、面会はまだ無理そうだな」
「そうなの?」
「数日すれば可能かもしれない、とは言われたが」

 面会は無理——その言葉に、少し動揺。

 だが、数日すれば可能かもしれないと聞き、再び安堵。

「リンディアは知っているの?」
「いや、知らない」
「まだ教えてあげていないのね」
「それは頼まれていなかったからな。伝えておいた方が良かったか」

 確かに、私は、「リンディアに伝えるように」とお願いしてはいなかった。だから、彼がリンディアに伝えていないのは、当たり前のことである。

「できれば、ね」
「分かった。では伝えてこよう」
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