イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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137話 苦労について

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 自室には、私と父親とベルンハルト。
 さほど珍しい組み合わせではないはずなのだが、妙に新鮮な感じがするから不思議だ。

「ところでイーダ王女。先ほどまでは何の話をしていた?」
「父さんと?」
「そう。僕が来るまで、だ」

 ベルンハルトが他人の会話に興味を持つなんて、少し意外だ。彼は「他人の話の内容など、どうでもいい」と考えるような質だと思っていた。

「星王ゆえの苦労について、聞いていたのよ」

 私は正直に答えた。

 本当は、こんなことを答えるべきではなかったのかもしれない。夢のない真実など、関係ない者に明かすべきではなかったのかもしれない。

 だが、隠すというのも問題な気がしたのだ。

 辛いことや暗いことを、隠してしまうのは簡単だ。苦痛は明かさず、良い面だけを表に出すという生き方も、一つなのだろう。

 しかし、それでは苦痛は消えない。

 一人で抱え込み続けることが正義、ということではないはずだ。

「星王ゆえの苦労……なるほど。確かに、星一つを統治するとなれば、苦労も多いだろうな」
「ベルンハルトは、父さんを理解しようとしてくれるのね」
「主の父親のことだ、少しは知っておかなくてはならないだろう」

 相変わらず真面目ね、ベルンハルト。

「嬉しいわ」
「……貴女が喜ぶようなことではないと思うのだが」
「そうかしら。家族以外にも、父親のことを理解しようとしてくれる人がいる。それはとても喜ばしいことだと思うけど」

 するとベルンハルトは、視線を、私から父親へと移した。

「な、何だぁ……? ベルンハルト、少し怖いぞぉ。そんなジロジロ見るなよぅ……」

 いきなり凝視された父親は少し戸惑っているようで、眉を寄せ、反応に困っているような顔つきをしている。

「見つめることに問題があるのか?」
「ジロジロ見られるのはなぁ……怖いぞぅ……」

 理解できない、というような表情を浮かべるベルンハルト。

「不快だったなら謝ろう。すまない」
「いや、まぁ……そう真面目に謝らなくてもいいがなぁ……」
「不快感を抱かせてしまった時は謝る。それは当然のことだ」

 きっぱりと述べるベルンハルト。

 彼はとにかく真面目だった。
 真面目過ぎる、と、思わず叫びたくなるほどに。

「それで、星王ゆえの苦労とは何だ」
「うぅ。傷を抉るような問いは止めてくれよぉ」
「気になるんだ」
「遊び半分かぁ……? そういうのは勘弁してくれよぅ……」

 父親がそう言った瞬間、ベルンハルトは鋭く首を左右に振る。

「遊び半分ではない」

 ベルンハルトは、またしても、きっぱりと述べた。

「イーダ王女が星王になった時の参考になるかもしれないから、聞きたいんだ」
「そういうことだったの!?」

 思わず大きめの声を発してしまう私。

 王女という身分にありながら、声の大きさの調節もまともにできないなんて……少々恥ずかしい。

「何を驚いているんだ、イーダ王女」
「驚くわよ! 予想外だったんだもの!」
「貴女が驚くような話は何もしていないだろう」

 普通はそうなのかもしれない。驚くほどのことではないのかもしれない。けれど、私としては驚きだったのだ。ベルンハルトが私のことを考えてくれていたなんて、と。

「そうかぁ……! ベルンハルトはイーダを思って聞いてくれているんだなぁ……!」
「そうだ」

 すると、父親は急に片方の拳を突き上げる。

「よぅし! なら話そぅ!」
「いいのか」
「モティロン!」
「感謝する」

 ベルンハルトは頭を下げた。
 どうやら話はまとまったみたいだ。

「ならベルンハルトぉ! お茶しながらというのはどうだぁ!?」
「いや、それはいい。気を遣うな」
「気を遣ってるのはそっちだろぅ!?」
「いいんだ。僕は茶などしない」

 お茶を飲みつつ語り合いたそうな父親。それとは対照的に、お茶などには微塵も興味がなさそうなベルンハルト。

 二人は見事にすれ違ってしまっている。

「お茶は嫌かぁ!? なら、他の飲み物はどうなんだぁ!!」
「そういう問題ではない」
「ウソーン! ヒドーイ!!」

 いちいち大袈裟な父親に、ベルンハルトは呆れ顔。もちろん私も、呆れずにはいられない。

「話だけ聞かせてくれ」
「嫌だぁ! ティータイムするぅ!」
「それはイーダ王女とすれば……そうか」

 何か閃いたように目を開くベルンハルト。彼は、私の方へと視線を向けてくる。

「イーダ王女、彼とお茶をしろ」
「え。わ、私?」
「そうだ。貴女はお茶、僕は話。役目を分けよう」

 なるほど、そう来たか。

「どうだろうか」
「いいわよ。ただし……」
「ただし?」
「ベルンハルトもお茶を飲むこと!」

 私が言うと、ベルンハルトは瞳を大きく揺らした。

「それでは分ける意味がない……!」

 ベルンハルトは強く言い放つ。
 なぜお茶をすることをそんなに嫌がるのか分からない。が、恐らくは、苦手意識があるといったところだろうか。

「少しでいいから」
「いや、僕は……」
「いずれ星王に仕える身になるのよ? お茶することくらいに苦手意識を持っているようじゃ、やっていけないわ」

 するとベルンハルトは、言葉を詰まらせた。

 十秒ほどの沈黙の後、彼は小さく言う。

「……そうか」
「そうよ」
「……分かった」

 相手は頑固なベルンハルトだ。それゆえ、もう少し粘られるものと予想していた。しかし、案外そんなことはなく。意外にも、あっさりと受け入れてもらうことができた。話が早くて、非常にありがたい。

「そういうことだから父さん。三人でお茶にしましょ?」
「おぉ! それはいいなぁ!」

 お茶なんて、呑気すぎやしないだろうか。そんな風に思ってしまう部分も、少しはある。

 だが、時には良いだろう。
 のんびりと過ごしたって、罰は当たらないはずだ。

「今から早速、でいいのかぁ!?」

 父親はやる気に満ちている。
 お茶を飲めることになって、嬉しいみたいだ。

「そうね。それでいいと思うわよ」
「同意だ」

 珍しく、ベルンハルトもすんなりと頷いた。

「でも父さん。準備は大丈夫?」
「それは、もう、もうっ……大丈夫だともォッ!!」

 父親の両目からは、涙が溢れ出ていた。

 恐らく、嬉しいのだろう。

 喜んでくれるのは嬉しいことだ。
 落ち込んでいるよりかは、こうやって嬉し泣きしている方が、ずっと良い。
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