イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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139話 禁止で止められないこともある

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 イーダらがお茶をしていた頃、リンディアはアスターがいるという部屋を訪ねていた。

 面会は禁止。
 娘のような近い関係であるリンディアでさえ、容易く許可を貰うことはできなかった。

「どーして禁止なのよー」
「申し訳ございません。禁止なものは禁止なのです」

 アスターがいるという部屋の前で、リンディアは、見張りの女性と言葉を交わしている。アスターとの面会を許可してもらえるよう、説得しようとしているのだ。

「他人なら分かるわよー? けど、あたしとアスターは、親子みたいなものだわー。近いかんけーなわけだし、面会するくらい良くないかしらー」

 冷静さを保ち、調子を強めることもなく、ただひたすらに言葉を放つリンディア。
 彼女は彼女なりに、説得しようと頑張っているのだろう。

「しかし、面会は禁止されております」
「あー、もう。どーしてそんなに頑固なのよー?」
「禁止は禁止です。といいますのも、関係の近い者なら面会可能という場合はありますが、今回はそうではないのです」

 見張りの女性は「禁止」の一点張り。リンディアが何を言っても、考えを変えそうにはない。

「面会可能になるまでお待ち下さい」
「かったいこと言わないでちょーだーい」
「いえ、禁止なものは禁止ですから。許可が出ない限りは、ここをお通しすることはできません」

 アスターがいるという部屋の前に立っているいかにも真面目そうな女性。彼女は、眉ひとつ動かすことなく、禁止だと言い続ける。

 リンディアが何か言ったところで、無駄なのだ。

 正式に「面会可能」という指示が出ない限り、彼女が面会を許可することはないだろう。

 人間誰しも心というものを持っていて、必死に訴えられれば、心は容易く揺れるものだ。しかし、彼女にはそれがない。リンディアの前に立ち塞がる彼女は、「面会禁止」という言いつけに忠実すぎる。

 そんな心ない女性の対応に、リンディアはついに腹を立てる。

「そ。ならいーわ」

 ぶっきらぼうに述べるリンディア。

「こーなったら、最終手段」
「……何です?」
「きょーこー突破よ!」

 リンディアの双眸に、鋭い光が宿る。

 彼女は説得を諦めた。
 心ない女性の体を横へ押し退け、突き飛ばし、扉のノブに手をかける。

「な! 無理矢理入るおつもりですか!?」

 女性はその面に驚きの色を滲ませて放つ。
 真面目な彼女は、リンディアがこのような行動に出るとは、欠片も想像していなかったのだろう。

「そーよ! 失礼するわね!」

 リンディアはきっぱり言い、アスターがいるという部屋の扉を開ける。そして、中へと入っていく。女性の「お待ち下さい!」という制止は、リンディアの耳には届かなかった。


 見張りの女性を強行突破し、部屋の中へ入ったリンディア。彼女は、部屋に入るや否や、部屋の端にあるベッドの方へと歩き出す。

「……アスター」

 そのベッドに、アスターは寝ていた。
 白い枕に頭を乗せ、ベージュの毛布をかけてもらっている。

 そんな状態で眠るアスターは、穏やかな顔をしていた。苦しみや悲しみといった、すべての負のものから解放されたような、そんな寝顔だ。

 リンディアはそれを見て、小さく溜め息を漏らす。

「……またこーゆー展開ねー」

 アスターは前に一度動けなくなっている。数日かけてようやく目を覚ましたというのに、病み上がりに戦い、またしても動けない状態になってしまった。あっという間に逆戻り、だ。

「無理してんじゃないわよー。バーカ」

 リンディアは呆れた顔で呟く。そして、偶然ベッドの近くにあった簡易椅子に座る。

 室内に音はない。
 そこに存在するのは、突き刺すような静寂のみ。

「……どーしてあたしなんか庇ったのよ」

 簡易椅子に腰掛けたまま、のリンディアは腕を伸ばす。アスターの手を握るために。

「ばっかみたい。他人のためにやられるなーんて、馬鹿のすることだわー」

 リンディアの細い指と、アスターの脱力した指。それらが互いに絡み合う。気を失っているアスターは何も考えていないのだろうが、二人の指は、パズルのピースのようにぴったり合わさっている。

 手と手が重なり、指と指が絡む。それでも、アスターは目覚めない。彼が意識を取り戻すことはない。

「……アスター」

 らしくなく、切なげな表情を浮かべるリンディア。

 室内に人はいない。ベッドに横たわっているアスターはいるが、彼は意識がないため、いないも同然だ。それゆえ、リンディアは今、一人なのである。

 だからだろうか。
 リンディアはいつになく弱々しい顔をしていた。

 水晶のような透明感のある、水色の瞳。整った弧を描いている眉。聡明そうな薄めの唇。
 それらはいつもと変わらない。何一つとして、変わっていない。顔の作り自体は、普段通りなのだ。

 けれど、そこに浮かぶ色は、日頃と明らかに違っている。

 強気で自信家、そしてどこか挑発的。
 ことあるごとに刺激するようなことを発し、他人を怒らせることを楽しむ。

 それがいつものリンディア。

 しかし、今の彼女にはそういった雰囲気はない。

 今の彼女は少女だった。
 まだ若い、十五十六の娘のような顔をしている。

 大切な者の身を案じ、不安の風に揺れる。そこには、リンディアらしい強気さは欠片も存在していない。

 静寂の中、彼女はただアスターの手を取り続ける。

 そっと握る。
 それ以上でもそれ以下でもない。

 アスターは寝返りをしたいようで、時折体を左右に動かす。だがリンディアは、そんな時でもアスターの手を離さなかった。

「……ねーアスター」

 周囲を見渡し、近くに誰もいないことを確認してから、リンディアは切り出す。

「あたし……何なら、アンタの娘になってもいーのよ」

 アスターは目を閉じている。
 リンディアの言葉は、彼には聞こえていないだろう。

「実の親はどーせあんなやつだもの」

 一人、口を動かす。

「アンタのこと、べつに、好きなわけじゃなーいわー。……けど、あんなやつに比べたら、アンタのほーがずーっといーわよ」
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