イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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140話 意外な面を知ってしまった

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 お茶をしながらの父親の愚痴タイムは、長時間続いた。

 開始当初私が思っていたよりもずっと長くて、内心驚いている。星王の苦労について、という話題で、これほど話が続くとは思ってもみなかったのだ。

 そもそも、私は、父親がこんなにいろんな不満を抱いているとは想像していなかった。私は、これまでずっと、彼の明るい方の面しか見ることができていなかったのである。彼のことを「呑気で少々面倒な父親」としか思っていなかったことを、今、少しばかり後悔している。

「……と、こんなものでいいか? ベルンハルト」
「あぁ。色々聞かせてもらえて、参考になった。これだけ分かれば、少しはイーダ王女をサポートできそうだ」

 散々愚痴を聞かされたにもかかわらず、ベルンハルトは穏やかな顔。鬱陶しがるどころか、父親に感謝しているような素振りを見せている。

「ベルンハルトォ! これからもイーダを頼むぞぅ!」

 父親は安定の大声。
 星王とはとても思えない振る舞いだ。威厳も風格も、彼には存在していない。

 もっとも、捉え方次第ではそこが美点なのかもしれないけれど。

「あぁ。できる限りのサポートをする」
「おぉっ! はっきりとした答えだなぁっ!!」
「あくまで『できる限り』ではあるが」
「いい! いいんだ! 寄り添おうという心だけでも、人は救われるものなんだぁっ」

 父親とベルンハルトがそんな風に話をしていた時、誰かが扉をノックした。

 侍女か? あるいは、リンディアか?

 私の頭でぱっと思いつける可能性は、それら二つくらいしかない。

「んん? 何だぁ?」
「確認してくるわ、父さん」
「危ないやつだったら逃げるんだぞぅ!」
「えぇ」

 私は速やかに立ち上がると、扉に向かって真っ直ぐに歩いていく。ノックしたのが誰なのかを確認するためだ。そのまま暫し歩き、ゆっくりと扉を開けてみた。

「どーも」

 扉の向こうにいたのは、リンディア。
 どことなく軽さのある口調と、一つに束ねた赤い髪のおかげで、そこにいるのが彼女であるとすぐに判別できた。

「リンディア!」
「来ちゃった」
「体調は? もう歩けるの?」

 訪ねてきたのが不審者であった時に備えて、扉を開けるのは少しだけにしていた。が、さすがにもう大丈夫だろう。目の前にいるのは、間違いなくリンディアなのだから。そう考え、扉を、人が通ることができるくらい大きく開けた。

 すると彼女は、何事もなかったかのように、室内へ入ってくる。

「あたしはたいした怪我じゃないものー」
「意外と元気そうね」

 赤い髪をさらりと揺らしながら、許可を取ることもせずに堂々と入ってくる。

 その行動は、非常にリンディアらしいと感じた。

 常識などには囚われず遠慮もしない。そういったところが普通の人とは少し違っていて、結果的に、彼女らしさを感じさせているのだろう。

「そーね。元気よ、元気。さっき、アスターのよーすを覗きに行ってきたわー」
「アスターさんの!? 面会は無理だったのではないの?」

 ベルンハルトはまだ無理だと言っていた。それに、そのことはリンディアにも伝わっているはずだ。なのにリンディアは、「アスターのところへ行ってきた」というようなことを言う。謎、とにかく謎だ。アスターにはまだ会えないはずなのに。

「面会はまだ禁止だったわー」
「部屋の前まで行ったけど無理だったってこと?」

 するとリンディアは、首を左右に振った。

「いーえ、そーじゃないわ。無理矢理入ってやったのよー」

 ……え。

 無理矢理。そんなことができるの? アスターも今は怪我人だもの、見張りくらいいるはず。無理矢理入るなんて、見張りの者に止められなかったのかしら。

「無理矢理……?」
「そーよ! 見張りの女が不愉快だったから、強行突破してやったーってわけ!」

 なんてこと。

 リンディアらしいといえばリンディアらしい行動だが、少々やり過ぎな気がしてしまう。いや、もちろん、彼女がアスターに早く会いたい気持ちはとても分かるけれど。

「アスターは意識が戻っていたのか」

 口を挟んでくるベルンハルト。

「いーえ。ありゃ駄目だわー」
「やはりまだ意識不明か」
「そ。そーんな感じねー。同じことを何回繰り返すつもりなのかしらねー」

 リンディアは、その凛々しく整った顔に呆れの色を滲ませつつ、話す。

「二回もほぼ同じことをするなんてねー」
「前回は襲撃、今回はお前を庇って。ほぼ同じではないと思うが」
「うっさいわね! 黙ってなさーい!」

 ベルンハルトの言っていることも、間違ってはいない。否、むしろ正しい。
 しかし、ここで私がベルンハルトに同意すると、それはそれでまたややこしくなりそうである。


 リンディアがやって来て二時間ほどが経過した頃、一人の侍女が私の部屋を訪ねてきた。

「はーい」
「お時間、少し構いませんか?」
「はーい!」

 私はそっと扉を開ける。

 扉の向こう側には、一人の女性が立っていた。
 侍女のコスチュームを見にまとい、暗い茶髪をうなじで一つにまとめた、平凡な容姿の女性だ。

 ……平凡な容姿、なんて言ったら失礼かもしれないが。

「お話の最中に、失礼致します」

 侍女と思われる平凡な容姿の女性は、軽く頭を下げつつ、いかにも定型な挨拶をする。

「何か用?」
「フィリーナという侍女はご存知でしょうか」

 私はその問いに、短く「えぇ」とだけ返す。

 というのも、フィリーナに関するどういった話なのかがまだ分からないからだ。どのような方向性の話なのかが不明である以上、まだ、あまり長文は述べられない。

「首を撃たれたとのお話でしたが、回復してきました」

 それを聞き、私は思わず両の手のひらを合わせた。

「そう!」

 嬉しかったのだ、フィリーナが回復してきたと聞いて。

「その彼女が、実は、王女様に会いたいと申しておりまして」
「そうなの?」
「はい。それをお伝えするべく、来させていただきました」

 悪い話じゃなくて良かった、と、私は密かに安堵する。

 フィリーナは悪人ではない。
 襲撃者に荷担したこと、それ自体は問題だけれど、彼女にそんなことをさせたのはシュヴァルだ。

 言うなれば、フィリーナもまた、被害者の一人。

 弱みに付け込まれ、襲撃に協力せざるを得なかった。それを考えれば、彼女の罪はそんなに大きなものではないように感じる。

「父さん、ベルンハルト、リンディア」

 私は三人がいる方へ視線を向ける。

「少し、フィリーナに会いに行ってくるわ」

 すると彼らは、それぞれ発する。

「そうかぁ! 一応シュヴァルは出てこないだろぅが、気をつけてくれよぉーっ!」
「一人でか? それはさすがに無理があるだろう」
「ベルンハルト過保護過ぎなーい? たまには一人でーってのも、悪くはないと思うわよー」
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