イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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144話 処刑までせずとも

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 騒がしかった父親が黙った。星王の間に静寂が訪れる。父親は言葉を失い、ただ、私の顔をじっと見ていた。

「こんなことを言ったら馬鹿だと思われるかもしれない。それは分かっているわ。覚悟のうえで言っているの」

 そっと父親を見つめ返す。

「シュヴァルは罪人よ。だから、罰を与えるのも、間違ったことではないと思うわ」

 私とて聖人ではない。だから、シュヴァルが犯した罪を許すことはできないし、これまで通り接するなんてこともできない。どうしても、敵として見てしまう。

 ただ、「命を奪うほどのことなのだろうか」という思いが、少しあるだけだ。

「処刑ではない、別の罰を与えるべきなのではないかしら」
「……イーダ」
「例えばー……えぇと」

 良い例が思いつかない。どうしたものか、と考えていると、父親が小さく言ってくる。

「追放とかかぁ?」
「できる?」
「もちろんできないことはない。が……その程度の罰だと、軽すぎないかぁ」

 父親は納得していないような口ぶりだ。

 ついこの前まで、彼はシュヴァルを盲信していた。誰が何を言おうと、シュヴァルを疑うことは絶対にしなかった。それはもう、不気味と言っても差し支えがないほどに、信じきっていたのだ。

 なのに、今は、こんなにもシュヴァルに厳しい。

 そこがどうもしっくりこない。

「一生外に出られないというだけでも、ほぼ死んだも同然よ。わざわざ殺さなくても、人のいない島なんかに行ってもらえば、それでいいんじゃないかしら」

 私の言葉に、父親は考えているような顔をした。何も発することなく、じっとして、考え込んでいる。

 父親が何か発するのを待つ。

 誰も言葉を放たなくなって、数十秒。
 ようやく、父親が沈黙を破った。

「そうかぁ……それもそうだな!」

 良い返事が来るとは思っていなかったため、少々驚いた。が、この感じだと話は早そうだ。

「分かったぁ! イーダがそう言うなら、変更するぅ!」

 父親にしては物分かりがいい。
 少し不気味だと思ってしまったほどに。

「間に合うの?」
「もちろん! 星王に不可能はないぃっ!」

 妙に張り切っている父親を見ると、不安は募るばかり。

「……本当に大丈夫?」
「もちろんだぁ! ……って、まさかイーダ! 父さんのこと、信頼していないのかぁ!?」
「信頼していないわけじゃないけれど、不安はいっぱいだわ」


 父親への進言から、またたく間に二日が過ぎた。
 結果、シュヴァルに与える罰は、処刑ではなく本島からの追放に変わった。

 その日、私が自室で勉強に取りかかっていると、室内にいたリンディアが声をかけてくる。

「ねー王女様ー」

 勉強中に躊躇いなく話しかけてくるとは、さすがはリンディア。

「何?」
「シュヴァルへの罰を軽くするよーに言ったらしーわね」
「えぇ」

 リンディアが何を言おうとしているのか、まだ分からない。なので、どういった返答をするのが最善なのかは不明だ。

 取り敢えず、無難な言葉を返しておくこととしよう。

「どーして?」

 冷たい声。
 思わず動揺してしまう。

「……リンディア?」

 胸の鼓動が加速する。

「どーしてそんなことを言ったのかしらー」
「命を奪うのはやり過ぎだと思ったからよ」
「ほんとーに、それだけ?」

 リンディアは私を凝視していた。
 彼女の透明感のある瞳には、動揺した私の顔が映り込んでいる。

 何を言いたいのか。何を言おうとしているのか。私には、分からない。察することができない。

「……それはどういう意味?」

 緊張で、声が微かに震えた気がした。

「べつにー。深い意味なんてなーいわよー。ただ、なぜそんなことを言ったのか、理解できなくてねー」

 リンディアは何食わぬ顔で言ってくる。

「シュヴァルのせいで、イーダ王女は何度も危なーい目に遭ったわけでしょー。なのに、そんな相手への罰を軽くしよーだなんて。おかしな話よー」
「……リンディア」
「少なくともあたしには理解できないわねー」

 言われるだろうと思っていた。

 私は甘い。そして、普通でないことを進言した。それは理解しているつもりだ。
 けれど、改めて言われると、複雑な心境になってしまう。

「リンディアは……処刑の方が良かったの?」

 恐る恐る聞いてみる。
 すると彼女は、数秒私をじっと見て、それから述べる。

「良いも何も、とーぜんってものがあるでしょー」
「でも、シュヴァルはリンディアのお父さんよね。お父さんが処刑されるなんて——」

 言いかけた時だ。

 すたすたと歩み寄ってきたと思ったら、彼女はばぁんと机を叩いた。
 机の上に置かれていた勉強のための冊子が、床に落ちる。

「勘違いしてんじゃないわよ」

 机を叩く力の強さに、私は、ただただ圧倒されるばかり。何も返せない。

「……リンディア」
「あんなやつ、もーあたしの父親じゃなーいのよ」

 リンディアの顔つきと声色は、冷たさのあるものだ。しかし、机に叩きつけられた拳は震えている。

「どうしたの、リンディア」

 私は椅子から立ち、彼女の整った顔を見上げる。

「大丈夫?」
「……どーかしてるんじゃないの」
「えっ」

 リンディアの心が分からない。私には、彼女の心を掴むことはできない。理解しようとしてはいるつもりなのだが。

「もーいーわ」

 吐き捨てるようにリンディアは言う。

「待って。ごめんなさい。不快なことをしてしまったなら謝るわ」
「べつにいーわよ。謝らせたいわけじゃないものー」

 何を言っても、空回りばかり。

「お願い、リンディア。言ってちょうだい」
「いーのよ」
「どうして!」

 思わず大きな声を出してしまう。
 すると、歩き出しかけていたリンディアはぴたりと足を止め、振り返った。

「もーいーって言ってるじゃない!」

 飛んできた鋭い言葉に、全身が一気に強張る。

 リンディアは歩き出す。私は「待って」と言おうとしたけれど、緊張のせいで何も言えずじまい。結果、彼女はそのまま部屋から出ていってしまった。


 それと入れ替わるようなタイミングで、ベルンハルトがやって来る。

「何があったんだ?」

 飛び出していったリンディアのことを聞いているのだろう。

「怒らせてしまったみたい……」
「状況が掴めない」

 ベルンハルトは、その凛々しい顔に、困惑の色を濃く滲ませている。状況がまったく理解できない、というような顔だ。

「机を叩かれてしまったの……」
「状況が掴めない。なぜ机を叩かれるんだ」
「怒らせてしまったから……」
「何の話をしていたんだ?」

 ベルンハルトの問いに、私は小さく答える。

「……シュヴァルの」
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