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149話 いつか、お手製の約束
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四人で話している途中、リンディアは唐突にベルンハルトの方へと顔を向けた。
「そーだ。ベルンハルト」
「何だ、いきなり」
いきなり声をかけられ、顔面に戸惑いの色を浮かべるベルンハルト。
「ちょーっといーかしら?」
リンディアは、赤い髪を片手でさらりと背中側に流しつつ、口を動かす。
「僕に何か用でもあるのか」
「そーそー。そーんな感じよー」
リンディアは口元に笑みを湛えつつ述べている。
すると、ベルンハルトは戸惑ったような顔のまま、私へ視線を向けてきた。その眼差しは「いいのか?」と問いかけてきているようで。
だから私は、一度ゆっくり頷いた。
「好きにしていいわよ、ベルンハルト」
「そうか。分かった」
私の言葉に、ベルンハルトはこくりと頷く。そして、リンディアへ視線を向ける。
「よし。何でも話せ」
「そーしましょ! じゃ、ちょーっとこっちに来てもらえるかしらー?」
リンディアはくすっと笑う。
それに対し、ベルンハルトは怪訝な顔をする。
「なぜだ」
「いーから!」
「断る。理由の説明もしない女と二人にはなれない」
怪訝な顔になっていたベルンハルトは、真顔になって返していた。
リンディアとならば、おかしなことにはならないだろう。彼女のことは信頼している。だから、相手が彼女であるならば、ベルンハルトが女性と二人きりになったとしても、怒る気はない。
「アンタだけに言っておきたい話があーるのよー」
「何だそれは。イーダ王女には聞かせられない話か」
「いーからいーから」
「おい! どうなっているんだ!」
ベルンハルトはリンディアに連れていかれてしまった。
私は自室に、アスターと二人取り残される。
四人だった室内が、二人になった。そう聞くだけだと、たいした変化がないようにも思えるかもしれない。しかし、実際にはかなりの変化を感じた。二人減ると、人がだいぶ減ったような感じがする。
アスターと二人で何を話せと。
よく分からない。
「リンディア、アスターさんの娘さんになったのね」
取り敢えず話を振ってみる。
するとアスターは、最初、少し驚いたような顔をした。
もしかしたら、話しかけられるとは想像していなかったのかもしれない。
「うむ。そうなのだよ」
「意外だわ。あのリンディアがそれを受け入れるなんて、正直思っていなかった」
するとアスターは、はは、と平淡に笑った。
「そうだね。君のおかげだよ」
「……そうかしら」
アスターが発した言葉の意味を、私は、すぐには理解できなかった。
「もちろん。君がいたからリンディアに再会できて、君が受け入れてくれたからリンディアと共に過ごせるようになった。それが君のおかげでないと言うのなら、一体誰のおかげなのかね」
穏やかに笑うアスターを見て、私は少し安堵する。
私は私の選んだ道を完全に正しかったとは思えずにいた。でも、私が選んだこの道はすべての人を不幸にしたわけではないのだと分かって。それなら、私が選び歩んできたこの道にも意味はあったのだと、今はそう思える。
「……貴方のためになっていれば良いのだけれど」
「もちろん! なっている、なっているとも!」
アスターはご機嫌なようで、明るく笑っている。まるで、顔面に向日葵が咲いたかのようだ。
「ありがとう、イーダくん」
真っ直ぐに言われると何だか気恥ずかしくて、思わず視線を逸らしてしまう。
「あ! そうだった!」
「え、何?」
「綿菓子か林檎飴、まだ贈っていなかったね!」
そんなこと。
もう、すっかり忘れていた。
私でさえ記憶から消えていたことをアスターが覚えていたとは、驚きだ。
「どちらがいいかね?」
「いいわよ、そんなの。私はお礼を貰うようなことはしていないわ」
綿菓子も林檎飴も要らない。
私はただ、こうして穏やかに過ごせる時間だけが欲しかったの。
「いやいや! 何度も騙しておいて、言葉の謝罪だけというわけには!」
「いいの!」
つい口調を強めてしまう。
「……あ、あぁ、そうかね。分かったよ」
アスターの声が小さくなる。
傷つけてしまっただろうか、と不安が過る。
しかし、それは杞憂だった。
「では! 私お手製の綿菓子というのはどうかな!」
私が心配したようなことはまったくなく、アスターは明るい表情のままであった。
「お手製……!」
魅力的な響きだ。
綿菓子をこよなく愛するアスターが作った綿菓子なら、きっと美味しいはず。
「悪くないわね!」
「ははは。そう言っていただけて光栄だよ」
「楽しみにしているわ」
私とアスターを包み込むのは、和やかな空気。穏やかで温かい、そんな雰囲気だ。
「そうそう。それと」
ぱたりと話題を変えてくるアスター。
「私はまだ君の従者を続けるつもりでいるのだが、リンディアは辞めろとばかり言う。どうすればいいと思うかね? 君の意見を聞いてみたいのだが」
彼は、それまでと変わらない柔らかな笑みを浮かべたまま、そんなことを尋ねてきた。
意見。
前触れなく聞かれては、上手く答えることができない。
咄嗟に答えられれば理想形なのだろう。しかし、それは容易なことではない。
……特に、私のような質の人間にとっては。
だが、答えないというわけにもいかないので、私は思いついたことを簡単に述べる。
「アスターさんがしたいようにするのが一番だと思うわ」
単純過ぎる。当たり前だ。
そんな風に言われてしまうかも、と思いはしたけれど。
だが、これが私の意見。意見を聞いてみたい、と言われたのだから、私の意見がくだらなくたって怒られはしないはずだ。
「だよね! そう言ってくれると思っていたよ! ……ということで、もうしばらくはお世話になるよ!」
……私への質問に意味はあったのだろうか。
私が密かに色々考えた時間は、無駄だったのかもしれない。
「えぇ! 嬉しいわ」
色々考えたにもかかわらず話があっさり終わってしまったというところは少々切ない。だが、また皆で過ごせるということは、何にも代えがたい幸福だ。
「そう言ってもらえると、こちらとしてもありがたいよ」
アスターはにっこり微笑み言う。それから少し空けて、彼はずいと身を寄せてきた。否、正しくは、顔を近づけてきたのだ。
彼の唐突な行動に戸惑い、言葉を失う。
だが、彼は私の様子などまったく気にしていないようだ。ほんの少しの躊躇いもなく、口を私の耳元へ近づける。
「あの……アスターさ……」
「ところで、ベルンハルトくんとはどうなのかね?」
アスターが耳元で小さく放った問いに、私の頭は真っ白になった。その問いが、予想の範囲外だったからだ。一瞬、時が止まったかのように、言葉を失ってしまう。すぐにまともな文章を返すことは、できなくて。
「えっ!?」
「そーだ。ベルンハルト」
「何だ、いきなり」
いきなり声をかけられ、顔面に戸惑いの色を浮かべるベルンハルト。
「ちょーっといーかしら?」
リンディアは、赤い髪を片手でさらりと背中側に流しつつ、口を動かす。
「僕に何か用でもあるのか」
「そーそー。そーんな感じよー」
リンディアは口元に笑みを湛えつつ述べている。
すると、ベルンハルトは戸惑ったような顔のまま、私へ視線を向けてきた。その眼差しは「いいのか?」と問いかけてきているようで。
だから私は、一度ゆっくり頷いた。
「好きにしていいわよ、ベルンハルト」
「そうか。分かった」
私の言葉に、ベルンハルトはこくりと頷く。そして、リンディアへ視線を向ける。
「よし。何でも話せ」
「そーしましょ! じゃ、ちょーっとこっちに来てもらえるかしらー?」
リンディアはくすっと笑う。
それに対し、ベルンハルトは怪訝な顔をする。
「なぜだ」
「いーから!」
「断る。理由の説明もしない女と二人にはなれない」
怪訝な顔になっていたベルンハルトは、真顔になって返していた。
リンディアとならば、おかしなことにはならないだろう。彼女のことは信頼している。だから、相手が彼女であるならば、ベルンハルトが女性と二人きりになったとしても、怒る気はない。
「アンタだけに言っておきたい話があーるのよー」
「何だそれは。イーダ王女には聞かせられない話か」
「いーからいーから」
「おい! どうなっているんだ!」
ベルンハルトはリンディアに連れていかれてしまった。
私は自室に、アスターと二人取り残される。
四人だった室内が、二人になった。そう聞くだけだと、たいした変化がないようにも思えるかもしれない。しかし、実際にはかなりの変化を感じた。二人減ると、人がだいぶ減ったような感じがする。
アスターと二人で何を話せと。
よく分からない。
「リンディア、アスターさんの娘さんになったのね」
取り敢えず話を振ってみる。
するとアスターは、最初、少し驚いたような顔をした。
もしかしたら、話しかけられるとは想像していなかったのかもしれない。
「うむ。そうなのだよ」
「意外だわ。あのリンディアがそれを受け入れるなんて、正直思っていなかった」
するとアスターは、はは、と平淡に笑った。
「そうだね。君のおかげだよ」
「……そうかしら」
アスターが発した言葉の意味を、私は、すぐには理解できなかった。
「もちろん。君がいたからリンディアに再会できて、君が受け入れてくれたからリンディアと共に過ごせるようになった。それが君のおかげでないと言うのなら、一体誰のおかげなのかね」
穏やかに笑うアスターを見て、私は少し安堵する。
私は私の選んだ道を完全に正しかったとは思えずにいた。でも、私が選んだこの道はすべての人を不幸にしたわけではないのだと分かって。それなら、私が選び歩んできたこの道にも意味はあったのだと、今はそう思える。
「……貴方のためになっていれば良いのだけれど」
「もちろん! なっている、なっているとも!」
アスターはご機嫌なようで、明るく笑っている。まるで、顔面に向日葵が咲いたかのようだ。
「ありがとう、イーダくん」
真っ直ぐに言われると何だか気恥ずかしくて、思わず視線を逸らしてしまう。
「あ! そうだった!」
「え、何?」
「綿菓子か林檎飴、まだ贈っていなかったね!」
そんなこと。
もう、すっかり忘れていた。
私でさえ記憶から消えていたことをアスターが覚えていたとは、驚きだ。
「どちらがいいかね?」
「いいわよ、そんなの。私はお礼を貰うようなことはしていないわ」
綿菓子も林檎飴も要らない。
私はただ、こうして穏やかに過ごせる時間だけが欲しかったの。
「いやいや! 何度も騙しておいて、言葉の謝罪だけというわけには!」
「いいの!」
つい口調を強めてしまう。
「……あ、あぁ、そうかね。分かったよ」
アスターの声が小さくなる。
傷つけてしまっただろうか、と不安が過る。
しかし、それは杞憂だった。
「では! 私お手製の綿菓子というのはどうかな!」
私が心配したようなことはまったくなく、アスターは明るい表情のままであった。
「お手製……!」
魅力的な響きだ。
綿菓子をこよなく愛するアスターが作った綿菓子なら、きっと美味しいはず。
「悪くないわね!」
「ははは。そう言っていただけて光栄だよ」
「楽しみにしているわ」
私とアスターを包み込むのは、和やかな空気。穏やかで温かい、そんな雰囲気だ。
「そうそう。それと」
ぱたりと話題を変えてくるアスター。
「私はまだ君の従者を続けるつもりでいるのだが、リンディアは辞めろとばかり言う。どうすればいいと思うかね? 君の意見を聞いてみたいのだが」
彼は、それまでと変わらない柔らかな笑みを浮かべたまま、そんなことを尋ねてきた。
意見。
前触れなく聞かれては、上手く答えることができない。
咄嗟に答えられれば理想形なのだろう。しかし、それは容易なことではない。
……特に、私のような質の人間にとっては。
だが、答えないというわけにもいかないので、私は思いついたことを簡単に述べる。
「アスターさんがしたいようにするのが一番だと思うわ」
単純過ぎる。当たり前だ。
そんな風に言われてしまうかも、と思いはしたけれど。
だが、これが私の意見。意見を聞いてみたい、と言われたのだから、私の意見がくだらなくたって怒られはしないはずだ。
「だよね! そう言ってくれると思っていたよ! ……ということで、もうしばらくはお世話になるよ!」
……私への質問に意味はあったのだろうか。
私が密かに色々考えた時間は、無駄だったのかもしれない。
「えぇ! 嬉しいわ」
色々考えたにもかかわらず話があっさり終わってしまったというところは少々切ない。だが、また皆で過ごせるということは、何にも代えがたい幸福だ。
「そう言ってもらえると、こちらとしてもありがたいよ」
アスターはにっこり微笑み言う。それから少し空けて、彼はずいと身を寄せてきた。否、正しくは、顔を近づけてきたのだ。
彼の唐突な行動に戸惑い、言葉を失う。
だが、彼は私の様子などまったく気にしていないようだ。ほんの少しの躊躇いもなく、口を私の耳元へ近づける。
「あの……アスターさ……」
「ところで、ベルンハルトくんとはどうなのかね?」
アスターが耳元で小さく放った問いに、私の頭は真っ白になった。その問いが、予想の範囲外だったからだ。一瞬、時が止まったかのように、言葉を失ってしまう。すぐにまともな文章を返すことは、できなくて。
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