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151話 本心を
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それでなくても気まずかったのに、ベルンハルトの呟きを聞いてますます気まずくなってしまった。
だが、このまま黙っているわけにもいかない。
なので私は、頭を捻り、取り敢えず何か言葉を発することに決めた。
「そんなことないわ、ベルンハルト。貴方がいてくれれば心強い」
彼の双眸をじっと見つめる。
お互いの視線が重なった。
今、私たちは二人。他には誰もいない。ここは、二人だけの世界だ。
「貴方は強い。それに、愛想なくても優しい。だから、これからもずっと、いつまでも……傍にいてほしいなって思うわ」
私は思いきってそう言った。
しかし、ベルンハルトは何も答えない。
「……ねぇ、覚えてる? 初めて会ったあの日。ダンダに撃たれそうになった私を、足を払って助けてくれたわよね」
すると、それまでは黙り続けていたベルンハルトが、ようやく口を開いた。
「そんなこともあったな」
「あの時は驚いたわ。だって、転倒させられたことなんてなかったんだもの」
言っていると何だか笑えてきて、しまいに笑ってしまった。
なにもかもが懐かしい。
けれど——今でも鮮明に思い出せるわ。
ベルンハルトとの出会い。
「あの時はすまなかった」
「あ! そんなつもりで言ったわけじゃないのよ! 私はただ……最初から助けられてばかりだったなって」
もしあの時、彼に出会っていなかったら。もしあの場に、彼がいなかったら。恐らく私は、とうに生きていなかっただろう。きっと、こうして笑っている私は存在していなかったはずだ。
「それに、ベルンハルトに助けられたのは私だけじゃないわ。父さんもよ。貴方がいなかったら、星王家は終わっていたかもしれないわね」
私も父親も命はなく、オルマリンはシュヴァルの手に落ちていたことだろう。
「それは大袈裟だ」
「大袈裟じゃないわ」
「いや、話を大きくしすぎだ」
「そんなことない!」
むきになって、調子を強めてしまう。
「貴方の功績は大きいの!」
「それは思い込みだ」
きっぱりと言われてしまった。
これは切ない。
「……そうね。でも、思い込みだっていいじゃない」
少し間を空けて、続ける。
「私にとっては、そうなんだから」
その頃になって、ベルンハルトはようやく私の手首を離した。自由の身になった私は、数歩歩いてベッドに腰掛ける。
「それにね」
ベッドの柔らかい触感に、心なしか癒やされた。
「死なないって言ってくれたのも、嬉しかったわ」
ベルンハルトは私の顔を見つめたまま、微かに首を傾げる。
「そんな昔のことを掘り起こして、何を言いたいんだ」
「感謝。たくさん伝えたいの」
彼はまだ「よく分からない」と言いたげな顔をしている。
「あの頃の私はね、失うことをただやみくもに恐れて、何もできなくなっていたの。新しい従者を雇うことさえ怖くて」
もう懐かしい話だけれど……あの頃の私は、本当に何もできなかった。すべてを恐れ、部屋に引きこもっているだけで。
「でも、ベルンハルトは『僕は死なない』って断言してくれた。だから、勇気を持てたの」
「そうか」
「えぇ。貴方の強さが、私を救ってくれたわ」
彼に出会わなかった世界。
その場合の私。
想像することは容易ではないが、きっと、今とは全然違っていただろうと思う。
「……正直なところを言うと、死ぬかもと思った時期もあったがな」
ベルンハルトはそう発する。
その言葉は、正直、少し意外なものだった。
「そうなの?」
「嘘はつかない」
「……そう」
つい、少し俯いてしまう。
そんなことをしても意味はないと、分かってはいるのに。
「そんな顔をしないでくれ。もう過ぎたことだ」
ベルンハルトは淡々とした調子で述べる。
「貴女を護れて良かったと思っている」
その言葉に、私は顔を上げる。
「ベルンハルト……!」
するとベルンハルトは、ふっ、と笑みをこぼした。どちらかというと苦笑に近い笑みである。
「単純だな」
「へ?」
「悪い意味ではない。ただ、貴女は素直な人間だなと思っただけだ」
単純と素直は同義だろうか……。
「そういうことなのね」
「あぁ。実に興味深い」
「何よ、それ!?」
興味深い、なんて言われるとは想定していなかったため、衝撃を受けた。また、そのせいで声を大きくしてしまった。
もっとも、悪い意味での衝撃ではないのでまだましだが。
「なぜそんなに驚く?」
「だって、興味深いなんて、未知の生物に対して言うようなことじゃない」
「そうだろうか。人間にも使うと思うが」
まぁ、それはそうだけど……って、私たちは一体何の話をしているのかしら。
「そうね! そうよね!」
「急にどうした」
「ベルンハルトが言うなら、きっとそうなんだわ」
「何なんだ、その理由は……」
穏やかな時間は好き。
暗いことを考えずにいられる。世の闇を見ずにいられる。
そんな瞬間が好き。
できるなら、こんな何の意味もない時が永遠に続いていってほしい。そうすれば、ずっと幸せの中にあれるから。
「私、本当に良かった。貴方に会えて、共に過ごせて、良かったと思っているわ」
改めて言うのは、少々気恥ずかしかった。
だが、本心を偽ることはできない。本心は本心。それを変えることなんて、自分にだってできやしないのだ。
「そうか」
だが。
私は気恥ずかしい思いをしながら本心を述べたにもかかわらず、ベルンハルトの反応は非常に淡々としたものだった。
「ありがたいことだ」
——なぜそんなにも平然としていられるの?
そんな風に思ったりした。
無論、そこが彼の長所でもあるわけなのだが。
「ベルンハルトはさすがに冷静ね」
「冷静? そんなことはない」
「私からすれば、冷静すぎるくらいに見えるわよ?」
すると彼は、普通にしていても鋭さのある凛々しい目を、大きく見開く。
「冷静すぎる、か。それは一種の問題かもしれない。だが……」
「え? あの、変な意味じゃないのよ!?」
「だが、どうすれば」
「べつに、貴方を否定したわけじゃないのよ!?」
だが、このまま黙っているわけにもいかない。
なので私は、頭を捻り、取り敢えず何か言葉を発することに決めた。
「そんなことないわ、ベルンハルト。貴方がいてくれれば心強い」
彼の双眸をじっと見つめる。
お互いの視線が重なった。
今、私たちは二人。他には誰もいない。ここは、二人だけの世界だ。
「貴方は強い。それに、愛想なくても優しい。だから、これからもずっと、いつまでも……傍にいてほしいなって思うわ」
私は思いきってそう言った。
しかし、ベルンハルトは何も答えない。
「……ねぇ、覚えてる? 初めて会ったあの日。ダンダに撃たれそうになった私を、足を払って助けてくれたわよね」
すると、それまでは黙り続けていたベルンハルトが、ようやく口を開いた。
「そんなこともあったな」
「あの時は驚いたわ。だって、転倒させられたことなんてなかったんだもの」
言っていると何だか笑えてきて、しまいに笑ってしまった。
なにもかもが懐かしい。
けれど——今でも鮮明に思い出せるわ。
ベルンハルトとの出会い。
「あの時はすまなかった」
「あ! そんなつもりで言ったわけじゃないのよ! 私はただ……最初から助けられてばかりだったなって」
もしあの時、彼に出会っていなかったら。もしあの場に、彼がいなかったら。恐らく私は、とうに生きていなかっただろう。きっと、こうして笑っている私は存在していなかったはずだ。
「それに、ベルンハルトに助けられたのは私だけじゃないわ。父さんもよ。貴方がいなかったら、星王家は終わっていたかもしれないわね」
私も父親も命はなく、オルマリンはシュヴァルの手に落ちていたことだろう。
「それは大袈裟だ」
「大袈裟じゃないわ」
「いや、話を大きくしすぎだ」
「そんなことない!」
むきになって、調子を強めてしまう。
「貴方の功績は大きいの!」
「それは思い込みだ」
きっぱりと言われてしまった。
これは切ない。
「……そうね。でも、思い込みだっていいじゃない」
少し間を空けて、続ける。
「私にとっては、そうなんだから」
その頃になって、ベルンハルトはようやく私の手首を離した。自由の身になった私は、数歩歩いてベッドに腰掛ける。
「それにね」
ベッドの柔らかい触感に、心なしか癒やされた。
「死なないって言ってくれたのも、嬉しかったわ」
ベルンハルトは私の顔を見つめたまま、微かに首を傾げる。
「そんな昔のことを掘り起こして、何を言いたいんだ」
「感謝。たくさん伝えたいの」
彼はまだ「よく分からない」と言いたげな顔をしている。
「あの頃の私はね、失うことをただやみくもに恐れて、何もできなくなっていたの。新しい従者を雇うことさえ怖くて」
もう懐かしい話だけれど……あの頃の私は、本当に何もできなかった。すべてを恐れ、部屋に引きこもっているだけで。
「でも、ベルンハルトは『僕は死なない』って断言してくれた。だから、勇気を持てたの」
「そうか」
「えぇ。貴方の強さが、私を救ってくれたわ」
彼に出会わなかった世界。
その場合の私。
想像することは容易ではないが、きっと、今とは全然違っていただろうと思う。
「……正直なところを言うと、死ぬかもと思った時期もあったがな」
ベルンハルトはそう発する。
その言葉は、正直、少し意外なものだった。
「そうなの?」
「嘘はつかない」
「……そう」
つい、少し俯いてしまう。
そんなことをしても意味はないと、分かってはいるのに。
「そんな顔をしないでくれ。もう過ぎたことだ」
ベルンハルトは淡々とした調子で述べる。
「貴女を護れて良かったと思っている」
その言葉に、私は顔を上げる。
「ベルンハルト……!」
するとベルンハルトは、ふっ、と笑みをこぼした。どちらかというと苦笑に近い笑みである。
「単純だな」
「へ?」
「悪い意味ではない。ただ、貴女は素直な人間だなと思っただけだ」
単純と素直は同義だろうか……。
「そういうことなのね」
「あぁ。実に興味深い」
「何よ、それ!?」
興味深い、なんて言われるとは想定していなかったため、衝撃を受けた。また、そのせいで声を大きくしてしまった。
もっとも、悪い意味での衝撃ではないのでまだましだが。
「なぜそんなに驚く?」
「だって、興味深いなんて、未知の生物に対して言うようなことじゃない」
「そうだろうか。人間にも使うと思うが」
まぁ、それはそうだけど……って、私たちは一体何の話をしているのかしら。
「そうね! そうよね!」
「急にどうした」
「ベルンハルトが言うなら、きっとそうなんだわ」
「何なんだ、その理由は……」
穏やかな時間は好き。
暗いことを考えずにいられる。世の闇を見ずにいられる。
そんな瞬間が好き。
できるなら、こんな何の意味もない時が永遠に続いていってほしい。そうすれば、ずっと幸せの中にあれるから。
「私、本当に良かった。貴方に会えて、共に過ごせて、良かったと思っているわ」
改めて言うのは、少々気恥ずかしかった。
だが、本心を偽ることはできない。本心は本心。それを変えることなんて、自分にだってできやしないのだ。
「そうか」
だが。
私は気恥ずかしい思いをしながら本心を述べたにもかかわらず、ベルンハルトの反応は非常に淡々としたものだった。
「ありがたいことだ」
——なぜそんなにも平然としていられるの?
そんな風に思ったりした。
無論、そこが彼の長所でもあるわけなのだが。
「ベルンハルトはさすがに冷静ね」
「冷静? そんなことはない」
「私からすれば、冷静すぎるくらいに見えるわよ?」
すると彼は、普通にしていても鋭さのある凛々しい目を、大きく見開く。
「冷静すぎる、か。それは一種の問題かもしれない。だが……」
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