イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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154話 平穏でない平穏?

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 そんなことを話していると、カッタッタがノックもせずに駆け込んできた。

「失礼しまーっす!」

 声は大きく、しかもはきはきとした挨拶。考えようによっては、良いことなのかもしれない。捉え方によっては、礼儀正しい、と言えないこともない。

 が、ノックもせずいきなり入ってくるというのは、挨拶以前の問題ではないだろうか。

 いや、百歩譲ってノックはしなくてもいいとしても、せめてゆっくりと扉を開けるようには意識してもらいたかった。

 今は話をしているだけだったから良かったが、もしこれが着替えているタイミングであったりしたら。そんなことになったら、困ってしまう。それに、もし扉の付近にいる時だったら、ぶつかっていたかもしれない。
 何の前触れもなく勢いよく入ってくるというのは、非常に危険な行為である。

 だが父親は、そういったところには触れなかった。

「おぉ! カッタッタ!」
「ここにいらっしゃったんですね!」
「そうだぞぅ。イーダとお喋りしていたんだぁ!」

 父親は何やら楽しげ。
 元気そうな調子で、勢いよく言葉を発している。

 私は何とも言えない気分になりつつ、近くのベルンハルトを一瞥する。

 予想通り、彼は眉を寄せていた。口元も、渋柿を食べてしまったかのような状態になっていて、不快感を抱いていることがよく分かる。

 私とて、何でもかんでも指摘する気はない。
 が、こんな登場の仕方はさすがに問題と言わざるを得ない。

「待て、カッタッタ。イーダ王女の部屋へいきなり入ってくるのは失礼だろう」

 数秒後、ベルンハルトが発した。

 彼と私はまったく同じ考えのようだ。

 今回は完全に彼の発言の味方をしたい。というのも、ベルンハルトの発言は、私の心を見事に表現してくれていたのである。

「なーに言ってんだぁ? ベルンハルト。硬すぎだぞぅ!」
「父親として、問題とは思わないのか」
「どういうことだぁ?」

 カッタッタの行いを欠片も問題視しない父親に対し、鋭い言葉を投げるベルンハルト。

「イーダ王女の自室に男が勝手に入る。貴方は父親として、そんなことを許せるのか」

 ベルンハルトの厳しい発言。
 それまで楽観的だった父親が、急に黙る。

 ここにきてまさかの沈黙。

 カッタッタの行動が問題になっているだけで、厳密には私はあまり関係がない。だが、沈黙の気まずさは私も感じる。いや、むしろ、私が一番気まずさを感じているような気さえする。

「そ、そ、それは許せんっ!!」
「ならば注意しろ」
「カッタッタに……か?」
「そうだ」

 ベルンハルトの顔は真面目そのもの。
 少々厳しいような気もするが、星王に対してでも臆することなく意見を言えるところは尊敬だ。

 ……前にもこんなことを考えたような気がするが。

「きちんと見張っておくべきだ」
「いや、だがなぁ、カッタッタがそんなことをするとは思えないんだが——」
「その油断が、シュヴァルにあそこまでさせたんだ」

 きっぱり言い放つベルンハルト。
 その目つきは、ナイフの刃のように鋭い。まるで、敵を見るかのような目つきだ。

「な! そんな言い方ないだろぅ!」

 珍しく、調子を強める父親。

「事実だ」
「シュヴァルの裏切りを、俺のせいにするのかぁ!?」
「そうではない。最も悪いのはあいつだ。だが、貴方が気づかないふりを続けたがために襲撃回数が増えたことは確か」

 ベルンハルトは、冷静に言い続ける。
 今の彼に躊躇いという文字はない。

「もっと早く対応していたなら、ここまではならなかったはずだ」
「な! 責任を他人に押し付けるなよぅ!」

 父親は、握った両の拳を、胸の前で上下に振る。
 珍妙な動きだ。

「貴方はイーダを愛しているような言動をしてはいる。しかし、僕にはそれが心からであるようには感じられない。行動が伴っていない」

 カッタッタの件から、いつの間にか話が変わっている。ずれている、と言うべきだろうか。

 とにかく、話が変化してしまっている。

「ベルンハルト、ちょっと、落ち着いて」

 これ以上気まずくなるのは嫌なので、取り敢えず制止することにした。

「僕は元より、疑問に思っていたんだ。なぜ、イーダ王女の言葉を真剣に聞かないのかが」
「今はそういう話じゃないでしょう?」
「それはそうだが……」
「私の言葉なんていいの。ね、ベルンハルト。解決したことはもういいじゃない」

 すると、ベルンハルトは口を閉じた。

「考えてくれたことは嬉しいわ。ありがとう」
「……礼を言われるようなことはしていない」
「ふふ。貴方はそういうことが自然とできる人なのね」

 そこへ。

「うおっ! いい感じだな!」

 カッタッタが口を挟んできた。
 雰囲気を切り替える、という意味では、ナイスタイミングだ。

「ベルンハルト! 王女さんと、いつの間にこんなに進展したんだ!?」

 しかし、若干面倒臭そうな感じでもある。

「何を言うの? 元から仲良しだったわよ」
「いやいや! 王女さん、それはないでしょ! 明らかに変わってるじゃないですか!」

 やはり面倒臭そうだ。

 カッタッタは悪人ではない。が、少々面倒臭いところがある。

 もっとも、助けてもらった私には文句を言う権利などないが。

「そう?」
「どう見てもそうですよ!」

 私とベルンハルトは、色々なことに巻き込まれ、様々な経験をしてきた。だから、その中で絆が育まれていたとしても、おかしな話ではない。

「何を言っている、カッタッタ」
「ベルンハルト? 何だ?」
「イーダ王女を困らせるな」
「……は? 事実を言っただけだろ!」

 睨み合う、ベルンハルトとカッタッタ。

 ここにきて、気まずい空気。
 なぜいちいちこういうことになるのだろう。

「余計なことを言うな」
「あ! もしかして、照れてるのか!?」

 カッタッタは茶化す。
 それに対し、ベルンハルトは強く言い返す。

「待て! おかしいだろう! なぜそんな話になる!」

 どうしてこうなった。
 そう言いたいくらいの、どうしようもない状況だ。

 こうして言い合っていられるのも、平和になったから。そういう意味では悪いことではないのかもしれないが。

「……それはさておき。聞いてくれ、ベルンハルト!」

 突然話を変えるカッタッタ。

「さておき、ではないだろう」
「いや、話を止めるなよ! 友だろ!?」
「友ではない。それゆえ、話を止める」
「ちょ! 酷いだろ、それ!」

 カッタッタは何か話したいことがあるようだ。しかし、ベルンハルトに制止され、なかなか話し出せないようである。

 だが、このままでは話が進まない。

 なので私は口を挟んだ。

「カッタッタ、何か話があるの?」
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