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前編
しおりを挟むその日は雨降りだった。
婚約者エンベリーグスとお出掛けする約束をしていたので待ち合わせ場所にてじっと待っていたのだが、彼はなかなか来ず、そのせいで私はびっしょり濡れてしまった。
湿気が肌の表面をじんわりと刺激する。
何とも言えぬ湿り気というか何というか。
地味に気持ち悪いような――そんな感覚にも耐え、もうすぐ遅れてやって来るであろう彼を待っていた。
しかしそんな時、信じられない光景を目にしてしまう。
「エンべったらぁ、約束してたんじゃなかったのぉ?」
「ああそうだな」
エンベリーグスが見知らぬ女性と隣り合って歩いていたのである。
「ええ~、じゃあ行かないとぉ。駄目じゃないのぉ、こんなことしてたら」
え……? 私との約束は……?
「けどお前にの方が会いたくなったんだ」
「うっそぉひっどぉ~い」
何を見ているのだろう、なんて思ってしまう。
幻でも見ている?
もしかして私は死んだ?
……いや、そうじゃない。
これは現実だ、私は確かに女連れのエンベリーグスをこの目で捉えている。
「いいんだよ。どうせあいつは気づかないさ、疎い女だからな。それに、多分、これだけ雨が降っていたら待ち合わせにも来ないだろ」
女性は両腕をエンベリーグスの片腕に絡めて熱く燃える瞳で彼の顔を見上げている。
また、エンベリーグスが女性に向けている視線も、柔らかく愛を感じるようなもの――少なくとも私はこれまでに一度も見たことのない目つきと表情だ。
「そういうものなのぉ?」
「濡れるのは嫌いって言ってたからなぁ、来ないだろ」
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