婚約破棄され泣きながら帰宅している途中で落命してしまったのですが、待ち受けていた運命は思いもよらぬもので……?

四季

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10話「信じていたかった」

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 信じていた。
 信じていたかった。

 ……でも現実は甘くはなくて。

 オポストは本当に職場の女性と浮気していた。
 それもかなり濃い意味で。
 単なる遊びだとか、ちょっと親しすぎるとか、そういうレベルの浮気ではなかった。

「急にごめんなさいね」
「いやいや、大丈夫だよ! アーメリアからの呼び出しならいつだって! それで、用は何かな」

 こんな時でもオポストは穏やかだ。こうしてじっと見つめていても、怪しいところなんて欠片ほどもない。目の前にいる彼の姿から彼の裏での行いを読み取ることができる者なんて滅多にいないはず。それほどに、彼は好青年に見える。

 けれどもそれは彼の本当の姿ではない。

 もうすべて知っているから。
 どんな姿をしていても惑わされはしない。

「オポスト、浮気していたのね」
「……見間違いじゃない?」
「とぼけないで。私はもう知っているの、すべてを」
「落ち着いてよアーメリア。誰かに何か言われた? そういう嘘の言葉は信じるべきじゃないよ。他人の言葉より僕を信じてほしいんだ」

 私もそうしたかったわ、と、呟くように発して。

「でも証拠が集まったの」

 ここで我が剣を彼へ向ける――というのはつまり、集めてきた証拠物を突きつけることである。

「もうすべて知っているのよ」
「なにこれ? こんなの証拠にはならないよ。駄目だよ、アーメリア。騙されちゃ駄目だ」
「嘘をついているのは貴方でしょう」
「僕の目を見て? そうすれば嘘なんてついていないって分かってもらえるはずだよ」

 私の心は揺らぐことはない。

「ふざけたこと言わないで!!」
「っ……」
「私はもう気づいたの。貴方に騙されていたのだと。だから私は現実だけを見つめる、そして、それに沿って未来のことを考える」
「お、おかしいよ、アーメリア」

 彼は狼狽えているけれど。

「オポスト、貴方との婚約は破棄とするわ」

 一切迷うことなく宣言した。

 ここに至るまで、私はずっと迷ってきた。独り考え、独り悩み、そうやって多くの時間を過ごしてきた。そしてその果てに出た答えが、婚約破棄する、というものだったのだ。

 なのでもうひとかけらの迷いもない。

「今後のことについては追って連絡します」

 ここまでにしよう。

 それが私の出した答えだ。


 あの後私はオポストから慰謝料を支払ってもらうことに成功した。
 本人は「浮気なんてしていない、だから払う気はない」と主張し続けていたようだが、事実を知った彼の親が代わりに請求金額分を支払ってくれたのだった。
 既に大人になっている男性のために親が慰謝料を支払うというのは少々不思議な話のような気もしたけれど。ただ、誰かしらに罪を償ってもらいたいという意味で考えれば、こちらとしては何もないよりかは良かったと思う。

 ちなみにオポストはというと、その後浮気相手だった職場の女性と一緒に地元を離れたそうだ。
 親から叱られ反発したこともあり、二人で生きていく、と強く言って飛び出していったのだとか。

 だがそれから少しして二人の間で喧嘩が多発するようになって。
 ある晩喧嘩中にオポストが相手の女性を十回以上殴ってしまい、それによって彼は逮捕されることとなってしまったそうである。


 婚約破棄から一年半ほどが経った頃、私アーメリアは五つ年上の男性と婚約した。

 彼はとても良い人で。
 だから共に行く未来を信じたかった。

 これまでは嫌なこともたくさんあったけれど彼と出会えたという事実だけで生きてきた価値があった、純粋にそんな風に思えて。彼と共に在ることができる日々は幸せに満ちたものであった。

 ――しかし結婚式数日前にアーメリアは落命した。

 かなり高い位置にある棚に物を置こうとして後ろ向きに倒れてしまい、打ち所が悪くて命を落としてしまったのだ。


 ◆


 また生まれ変わった。

 あっさりと落命して。
 少しだけ狭間を流れて。

 そうして新たな生命として産み落とされる。

 ――猛烈に足が速い女性エリエッタ・ティフォルムとして。

「エリエッタ・ティフォルム、少しいいか?」

 私エリエッタには婚約者がいる。
 彼の名はツスード。
 八つほど年上の男性である。

「あ、はい。ツスードさん、何かご用でしょうか」
「貴様は相変わらず変な女のようだな」
「どういう意味でしょうか」
「噂によれば足の速さはまだ衰えていないのだとか」
「そうですね」
「女性でありながら足が速いなど……違和感しかない。もしや貴様は呪われているのでは?」
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