婚約破棄され泣きながら帰宅している途中で落命してしまったのですが、待ち受けていた運命は思いもよらぬもので……?

四季

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11話「その選択肢は選べなかった」

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「呪われている、ですか?」
「ああ」
「そうは思いません。生まれつきですし。単なる身体能力かと思うのですが」

 するとツスードは顔をしかめた。

「わたしから見れば不自然な女としか思えない」
「ただ足が速いだけです」
「足が速いだけ? ……馬鹿なことを言うな。本来女は弱々しくあるべきだろう、それなのに足が速くしかもそれを隠さないなぞ不自然の極み……だろう?」

 彼の発する言葉には明らかに棘が宿っている。

「不自然というのがよく分からないのですが」
「そのままの意味だよ」
「走りが得意なだけで女としておかしいのですか?」
「そういうこと、だな」
「えええ……」

 少し間を空けて、彼は口を動かす。

「エリエッタ・ティフォルム、貴様との婚約は本日をもって破棄とする」

 ツスードは私エリエッタをあっさりと切り落とした。

「この先、わたしの前には二度と現れないように。……これは命令だ」

 彼と結ばれる未来はなかった。
 どうやらそれが現実だったようだ。

 悲しいことだけれどそれが運命であるなら仕方ないことなのだろう。

 人間という生き物は、時に何でもできるが時に何もできないもの。だから神が定めた運命を書き換えることは容易くはない。

 ……いや、書き換えることに成功した人間というのも存在しないわけではないのだろうが。

 ただ、そういった例は恐らく稀な例だろう。そういった事例は多くはないはずだ。


 ツスードに婚約破棄を宣言された日から十日ほどが経ったある日のことだ。彼の家の近くで複数人のがらの悪い男が暴れる事件が起きた。そして彼はその男たちのターゲットとなってしまった。屈強な男たちに数十分追い掛け回されたツスードはやがて逃げきれず捕まってしまい、話を聞くだけでも痛みを感じるようなことをされることとなってしまったそうだ。

 ……もしかしたら、の話だけれど。

 私なら助けに行けたかもしれない。彼を抱えて走って逃げることも可能だったかもしれない。いくら屈強な男だとしても私より速く走ることはないから。人一人抱えて、であったとしても、追いかけてくる男から逃げるくらいのことなら不可能ではなかったはずだ。

 けれどそれは不可能な選択だった。

『この先、わたしの前には二度と現れないように。……これは命令だ』

 なぜならこういう言葉を彼が発していたから。

 ツスードはあの時確かにそう言った。それに従うなら、私には助けに入るという選択肢は選べなかったということだ。助けに入るということは彼の前に現れるということとイコールだから。

 その後私は国内の大規模な大会にて短距離走で出場し一位になった。

「一発優勝!? えええー! エリエッタさん、すごいなぁ。かっこいい!」
「まさか本当に優勝しちゃうなんてねぇ」
「おめでとうおめでとう! おめでとうおめでとう! サイコー!」
「エリエッタさんすごすぎるぅ~」

 あっという間に人気者になった。かつての私は死んでしまったのかと、別の人になってしまったのかと、そんな風に思うほどに。大会での優勝は私の人生に大きな変化を与えた。それも、良い意味での変化を。希望を、輝きを、称賛を、たった一度の優勝によって私は手に入れた。

 ――が、四十歳目前で病にかかり命を落としてしまったのだった。


 ◆


 そうして私はまた狭間を流れる。

 剣術はマスターした。魔法の勉強もした。大いなる魔力を身に宿す経験もした。驚くくらい速く走る感覚も掴めた。

 ……確かに私は少しずつ強くなってきている!

 とはいえ例外もあったわけだし。
 まだまだ終わりが見えてこない。

 このループの終わりはどこにあるのだろう? いや、そもそも、いつか終わるのか? いずれ終わりが来るという保証さえないというのに終わりについて考えることに意味なんてないけれど。でも時に考えてしまうものだろう? 終着地点があるかないかは大きな違い、終わりが見えればそれだけでも少しは心が軽くなるのだから。
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