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前編
しおりを挟む婚約者で小国の王子だったアルハードは私より三つ年上。
しかしそんな年齢差など少しに気にさせないような気さくな人で、それゆえ、仲良くなるのにそれほど時間はかからなかった。
だから彼となら上手くいけそうだと思っていたのだ――あの日、あの夜、彼が私の悪口を他の女に言っているところを見るまでは。
「あの女、つまらねえんだよな」
「んもぉ酷いこと言うわねぇ、やめてあげなさいよぉ~」
「事実だからしょうがないだろ!」
「もぅ、駄目よぉ~。貴方は王子なんだからもっと品よくしないとぉ。って、まぁ、あの地味娘じゃアルハード様の相手なんてできないでしょうけどぉ。うっふっふふふ! 想像はできちゃうけれど!」
その日私は二つのことを同時に知った。
一つは、アルハードが私を良く思っていなかったこと。
そしてもう一つは、アルハードには実は他の女がいたということ。
それから数日が経ったある日、二人で一緒にいた時にそのことについて話を切り出してみたのだが――普通に言っただけのつもりだったのにアルハードをとんでもなく激怒させてしまい、それによって私は捨てられることとなってしまった。
「お前なんかとはもう縁切りだ! 婚約は破棄だ!」
自分が身勝手なことをしておいてそれはないわ、と思いはするけれど、そんなことを言えるはずもなく。
「今すぐここから去れ! 二度と俺の前に現れるな! 不愉快な女はとっとと消えてくれ、何ならこの世からも消えてほしいくらいだ!」
彼は勢いのままにそこまで言った。
――消えてほしい、か。
その言葉は感情に任せて発されたものだと分かっていて、それでもなお、私の胸に複雑な痛みを残した。
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