卒業が近づいた夏の終わり、一人泣いている男子学生を見つけたので声をかけてみたのですが……

四季

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前編

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 卒業が近づいた夏の終わり。
 学園の庭に設置されているベンチに座り一人泣いている男子学生を発見した。

「あの……どうされたのですか? 大丈夫、ですか?」

 思わず声をかけてしまった。

 彼のことなんて知らない。顔も、名前も、それ以外のことも。そう私たちは赤の他人だったのだ。もちろんクラスだって一緒だったことはないしすれ違ったことさえほとんどないくらいで。

 でも声をかけてしまったのは、一人ぽつんと佇んでいる彼が何となく可哀想だったからだ。

「え……」
「何かあったのですか? ええと……虐められた、とか? あ、いきなりすみません、失礼ですよね。でも……その、ちょっと、気になってしまって。言いたくないことであればもちろん言わなくて大丈夫ですよ」
「ごめんなさい、心配お掛けてしてしまって」
「いえいえ」
「大丈夫です、僕、もう元気なんで!」

 彼は笑顔を無理矢理作ってそう言ったけれど、すぐにまた涙を溢れさせてしまう。

 作り物の笑顔は一分ももたなかった。

「力になれることがあれば言ってください。話を聞くとか、そのくらいなら、私にもできると思うので」

 すると彼は。

「……実は、婚約破棄、されまして」

 ようやく口を開いた。

 それから彼は辛いことを話した。

 一年ほど前から婚約していた女性に捨てられたこと。その際ただそれを伝えるだけではなく侮辱するようなことまで言われてしまったこと。また、説得すらさせてもらえずに切り捨てられてしまったこと。

「それは、大変でしたね」

 私に言えることはそのくらいしかなかった。

 だってそういうものだろう。
 なんせ今日知り合ったばかりなのだ、言えることなど多くはない。

 つい先ほどまで知り合いでも友人でもなかったのに気の利いた発言なんてできるはずもない。

 ただそれでも。

「ありがとう、聞いていただけて少し心が軽くなりました」

 彼は最後少しだけ笑みを滲ませてそう言ってくれたので、力になれたのだと感じられて内心とても嬉しかった。

 その男子学生は別れしな自身の名をポートレットと名乗った。
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