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21話「ウタの身は自由となり」
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拘束は解かれた。もはや私を縛るものはない。なんだかんだで牢に入れられたのは一晩だけだったけれど、物足りないとは感じない。むしろ嬉しい。今、私は、自由の身になれたことに安堵している。塔から出た私は、フーシェとリベルテに先導されつつ宿舎へ戻った。ウィクトルがいる部屋まで、真っ直ぐに向かう。
部屋に人はいなかった。
ベッドの上に横たわったウィクトルがいるだけだ。
私たち三人が入っていった瞬間、横たわったままじっとしていたウィクトルが上半身を起こすのが視界に入った。
「……ウタくん」
掛け布団を半分ほど捲り座る体勢になったウィクトルの、琥珀のような瞳がこちらを向いて、私を捉える。
「ウィクトル……!」
私は思わず駆け出してしまった。
色々な感情が一気に込み上げてきて、爆発しそうになる。
「気がついたのね!」
ベッドの傍にたどり着くと、私は彼の上半身を強く抱き締める。
「良かった!」
「な……。ウタ、くん……?」
彼の体はまだ燃えるように熱い。彼から放たれるその熱は、布越しでも十分過ぎるほどに伝わってくる。意識は戻っても、まだ熱は下がっていないということなのだろう。顔もまだ赤く染まっている。
「貴方がいたから出てこられた。ありがとう、ウィクトル」
「一体なぜ君が……牢などに入れられた……?」
ウィクトルはらしくなく戸惑っている様子だ。表情、声、その両方から、戸惑いが伝わってくる。
「襲撃者が地球人だったから、かしらね?」
「……だから君も疑われたのか。それは……恐ろしく短絡的だな」
ホントそれ。
ここでは言えないけれど、ウィクトルと二人きりなら言っていたかもしれない。
「今後はそのようなことがないよう注意しておこ——うっ」
比較的スムーズに話せていたウィクトルだったが、唐突に低い声を漏らした。
「どうしたの!?」
ウィクトルは片手を額に当てながら目を細めている。
「……頭が、痛い」
「頭痛ね。ごめんなさい、私が騒いだからかもしれないわ」
私も幼い頃、酷い頭痛になったことがある。そういう時はいつも母親が看病してくれて——おっと、そういう話ではなかった。頭痛が酷い時に大きな声で話しかけられると脳に響いてしまう、という話だ。
ウィクトルが陥っているのは多分その状態だろう。
そして、原因は私が騒いだことである。
「……ボナ様、無茶しないで」
額を手で押さえながら頭痛に苦しむウィクトルを、フーシェは心配していた。ウィクトルが声を震わせるのを見た瞬間、駆け寄ってくる。
「……まだ横になっていた方がいい」
「そうだな……そうしよう」
フーシェのアドバイスを聞き入れ、ウィクトルは再び上半身を横にする。横たわる体勢になった時、ふぅ、と小さく息を吐き出していた。彼はまだ呼吸が整わない様子だが、瞼は開いていて、こちらをじっと見つめている。
「ウタくん……塔は寒くはなかったか」
「え? あ、そうね。寒さは大丈夫だったわよ」
唐突な質問に戸惑いつつも、私は速やかに答えた。
「リベルテが会いに来てくれたから助かったの」
「そう、か。……それなら良かった」
思うところは色々あったが、それは彼に言うべきことではない。それでなくとも弱っている彼が相手だ、責めるようなことは言わない方が良いだろう。それでなくても私のせいで彼を苦しめることになってしまったのだ、さらに別の方向からも苦しめることになっては、罪悪感だけが強く残る。お互いのため、それは避けたい。
こうして冤罪を取り消してもらえることとなった私は、塔の牢から解放され、以前に近い暮らしをできるようになった。
解放されてから数日間、フーシェはまだ私のことを若干怪しんでいるようなそぶりを見せていた。だが、それも、時が経つにつれ少しずつ薄れていってはいるようで。冤罪騒ぎによる嵐は、あっという間に去っていった。
「先日のウタ様への疑惑に対する調査報告を行います」
あれから五日ほどが経過した、ある昼下がり。まだベッドから離れられないウィクトルのもとへ、リベルテがメモ帳を持って現れた。
「どうした、リベルテ」
「主襲撃にウタ様が関与した、という話に持っていこうとした人物がいるのではないかと考え、調査を続けておりましたが、いくつか判明致しましたので、報告に参ったところでございます」
相変わらず、リベルテの話し方は独特だ。敬語に敬語を重ねたような。
「この前開催されました『歌姫祭』にて惜しくも優秀賞に終わったパパピタ・ポポポが、部隊の人間と取引を行なっていたとのことです。地球人に主を襲わせ、ウタ様も実はぐるであると思わせる策略だったようでございます」
はめられたのか、私は。
もしそれが事実なら、とても恐ろしいことだ。
なぜって、それは、他者の嘘によって危うく罪人にさせられるところだったということなのだから。
「根拠は」
ウィクトルはさすがにもう上半身を縦にできるようになっている。また、熱が下がるのとともに頭痛も和らいできつつはあるようで、額を押さえる動作はもう行っていない。
「このリベルテ自身、パパピタと部隊の人間が共にいる場面を目撃致しました。そしてその際、パパピタの『ウタが解放されているなんてどういうこと!』といった発言を耳にしております。もちろん、それだけではございません。目撃情報は他にも数件確認しております」
いつもは軽やかな口調で話すリベルテだが、今は落ち着いた調子で報告を続けている。
報告を受け、ウィクトルは溜め息を漏らす。
「ウタくんのことが気に入らなかったか、何かか……」
いち歌手に過ぎない女性がそんなことをするだろうか? と一人疑問を抱いていたら。
「彼女は権力を持った家柄でございます。いきなり現れた異星人のウタ様をすんなり受け入れる気持ちにはなれなかったのかもしれません」
権力ある家の娘なら一人でもできるのかもしれない——弱い立場の余所者に濡れ衣を着せるくらいのことは。
部屋に人はいなかった。
ベッドの上に横たわったウィクトルがいるだけだ。
私たち三人が入っていった瞬間、横たわったままじっとしていたウィクトルが上半身を起こすのが視界に入った。
「……ウタくん」
掛け布団を半分ほど捲り座る体勢になったウィクトルの、琥珀のような瞳がこちらを向いて、私を捉える。
「ウィクトル……!」
私は思わず駆け出してしまった。
色々な感情が一気に込み上げてきて、爆発しそうになる。
「気がついたのね!」
ベッドの傍にたどり着くと、私は彼の上半身を強く抱き締める。
「良かった!」
「な……。ウタ、くん……?」
彼の体はまだ燃えるように熱い。彼から放たれるその熱は、布越しでも十分過ぎるほどに伝わってくる。意識は戻っても、まだ熱は下がっていないということなのだろう。顔もまだ赤く染まっている。
「貴方がいたから出てこられた。ありがとう、ウィクトル」
「一体なぜ君が……牢などに入れられた……?」
ウィクトルはらしくなく戸惑っている様子だ。表情、声、その両方から、戸惑いが伝わってくる。
「襲撃者が地球人だったから、かしらね?」
「……だから君も疑われたのか。それは……恐ろしく短絡的だな」
ホントそれ。
ここでは言えないけれど、ウィクトルと二人きりなら言っていたかもしれない。
「今後はそのようなことがないよう注意しておこ——うっ」
比較的スムーズに話せていたウィクトルだったが、唐突に低い声を漏らした。
「どうしたの!?」
ウィクトルは片手を額に当てながら目を細めている。
「……頭が、痛い」
「頭痛ね。ごめんなさい、私が騒いだからかもしれないわ」
私も幼い頃、酷い頭痛になったことがある。そういう時はいつも母親が看病してくれて——おっと、そういう話ではなかった。頭痛が酷い時に大きな声で話しかけられると脳に響いてしまう、という話だ。
ウィクトルが陥っているのは多分その状態だろう。
そして、原因は私が騒いだことである。
「……ボナ様、無茶しないで」
額を手で押さえながら頭痛に苦しむウィクトルを、フーシェは心配していた。ウィクトルが声を震わせるのを見た瞬間、駆け寄ってくる。
「……まだ横になっていた方がいい」
「そうだな……そうしよう」
フーシェのアドバイスを聞き入れ、ウィクトルは再び上半身を横にする。横たわる体勢になった時、ふぅ、と小さく息を吐き出していた。彼はまだ呼吸が整わない様子だが、瞼は開いていて、こちらをじっと見つめている。
「ウタくん……塔は寒くはなかったか」
「え? あ、そうね。寒さは大丈夫だったわよ」
唐突な質問に戸惑いつつも、私は速やかに答えた。
「リベルテが会いに来てくれたから助かったの」
「そう、か。……それなら良かった」
思うところは色々あったが、それは彼に言うべきことではない。それでなくとも弱っている彼が相手だ、責めるようなことは言わない方が良いだろう。それでなくても私のせいで彼を苦しめることになってしまったのだ、さらに別の方向からも苦しめることになっては、罪悪感だけが強く残る。お互いのため、それは避けたい。
こうして冤罪を取り消してもらえることとなった私は、塔の牢から解放され、以前に近い暮らしをできるようになった。
解放されてから数日間、フーシェはまだ私のことを若干怪しんでいるようなそぶりを見せていた。だが、それも、時が経つにつれ少しずつ薄れていってはいるようで。冤罪騒ぎによる嵐は、あっという間に去っていった。
「先日のウタ様への疑惑に対する調査報告を行います」
あれから五日ほどが経過した、ある昼下がり。まだベッドから離れられないウィクトルのもとへ、リベルテがメモ帳を持って現れた。
「どうした、リベルテ」
「主襲撃にウタ様が関与した、という話に持っていこうとした人物がいるのではないかと考え、調査を続けておりましたが、いくつか判明致しましたので、報告に参ったところでございます」
相変わらず、リベルテの話し方は独特だ。敬語に敬語を重ねたような。
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はめられたのか、私は。
もしそれが事実なら、とても恐ろしいことだ。
なぜって、それは、他者の嘘によって危うく罪人にさせられるところだったということなのだから。
「根拠は」
ウィクトルはさすがにもう上半身を縦にできるようになっている。また、熱が下がるのとともに頭痛も和らいできつつはあるようで、額を押さえる動作はもう行っていない。
「このリベルテ自身、パパピタと部隊の人間が共にいる場面を目撃致しました。そしてその際、パパピタの『ウタが解放されているなんてどういうこと!』といった発言を耳にしております。もちろん、それだけではございません。目撃情報は他にも数件確認しております」
いつもは軽やかな口調で話すリベルテだが、今は落ち着いた調子で報告を続けている。
報告を受け、ウィクトルは溜め息を漏らす。
「ウタくんのことが気に入らなかったか、何かか……」
いち歌手に過ぎない女性がそんなことをするだろうか? と一人疑問を抱いていたら。
「彼女は権力を持った家柄でございます。いきなり現れた異星人のウタ様をすんなり受け入れる気持ちにはなれなかったのかもしれません」
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