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39話「ウィクトルの生まれた国」
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国のことについて聞かせてもらえるものと考えていたのだが、それは短時間で終わってしまい、ウィクトルの過去に関する話が本格的に幕開ける。想像と違う内容に戸惑いつつも、私はリベルテの話をそれなりに真面目には聞いた。ウィクトルの過去話になるとは思っていなかったが、まったく興味がないわけではないから、聞くこと自体が苦痛ということはなく。いざ耳にしてみると、案外興味深い話だった。
「ですから、キエル帝国の西に位置しておりましたフリント共和国が主の生まれ育った国なのでございます。……と言いましても、フリント共和国という国は現在は存在しておりません。今はキエルの領土となり、ウェストエナーという名称になっておりますので」
ウェストエナー。私はその単語を聞いたことがある——そう、私にとってはこの星で一番初めに降り立った地だ。ちなみに、ウェストエナーがキエル帝国の西の端だということはどこかで聞いた記憶がある。
「かつては国があったの? あそこに?」
「はい。そうでございます」
「でも、一つの国にしては狭くない?」
「はい。領土は決して大きくない国でございました」
広大な土地を持たない国だったから、キエル帝国に支配されたのだろうか。だとしたら悲しいことだ。
でも、あり得ないことではない。
地球にいた頃にもそういった事例は読んだことがある。歴史の本か何かで。
この星は限りなく地球に近い。空気や温度などの環境も、そこに生きる人間も。だからこそ、地球と似たようなことが起こるのだろう。同じような要因を有している以上、強き者が支配を広げ弱き者が支配されるという構図が出来上がるのは定めなのかもしれない。
「フリントの生き残り——彼が言っていたのは、そういうことだったのね」
あれは確か、ビタリーから部屋に遊びに来るよう誘われた時のことだ。私との間に割って入ったウィクトルを、ビタリーは「フリントの生き残り風情が」などと罵っていた。
あの時は意味が分からなかったが、今ならその言葉の意味が分かる。
「……どなたがそのようなことを?」
「ビタリーさんよ。妙な誘いを受けて困っていた私を庇ってくれたウィクトルに向かって発していたわ」
「そうですか……まったく! あの男、無礼にもほどがあります!」
リベルテは頬を丸く膨らます。
「皇帝の血を引く者でなければ、叩き潰しましたのに!」
「ま、待って待って。人格が変わってるわ」
「……そうですね。つい熱くなってしまい、失礼致しました」
ウィクトルのことを心から慕っているリベルテだ、主人を馬鹿にされて黙っていられないのは当然のことだろう。本当は、他者を見下すような発言をした方が悪い。もっとも、当のビタリーは自分が皇帝の血筋だから何をしても許されると勘違いしているのだろうが。
「でも、どうしてフリントのウィクトルがキエル皇帝の下で働いているの? それは少し不自然じゃない? 感情的に、嫌がりそうなものだけれど」
正直、どこまで踏み込んで良いものか分からない。ウィクトルはフリント共和国出身でも、リベルテはキエル帝国出身なのだろうから、キエル帝国のことを悪く言い過ぎたらリベルテが傷つくかもしれないし。どちらの国の味方をすべきかがはっきりしない状態で話をするというのは、意外と難しいものだ。
「そうですね、主はイヴァン様がスカウトしてきたようでございましたが——実は、本当のところはリベルテもよく知らないのです」
すべてを知っているわけではない、とリベルテは言う。
「主に直接尋ねてみられれば、より多くの情報を得られるやもしれません。力不足で申し訳ございません」
丁寧に謝罪され、私は凄く申し訳ない気持ちになった。質問しない方が良かったのかな、なんて思ってしまう部分もあるくらいだ。
——そんな時。
部屋に一人の男性隊員が突然現れた。
「リベルテさん! お客さんがいらっしゃいました!」
「……どのような方で?」
「ローザパラストのお嬢さんです」
若干慌てた様子で出現した男性隊員が問いに答えた瞬間、リベルテの顔が硬直する。
「なぜ……?」
独り言のように呟くリベルテの面に、いつものような明るさはなかった。
いきなり宿舎へやって来た『ローザパラストのお嬢さん』なる人は、シーグリーンに白を混ぜたような髪色の女性だった。海水と砂浜が重なる浅瀬のような淡い色の髪は、前と耳に被るサイドの辺りだけは真っ直ぐに揃っている。そして、後ろ髪は頭の右側で一つに束ねていた。前とサイドだけを見るとロングヘアだとは思えないが、束ねた部分を見る感じ、それなりの長さはあるのだろう。なんせ、一つに束ねた房は胸より下まで伸びているのだ。
「初めまして。貴女がウタですわね」
ワインレッドのカチューシャの右端には、赤い一輪の薔薇。そして、その下側には、立体になった菱形のような金色の飾りが三つぶら下がっている。固定されておらず、頭部が動くたびにさりげなく揺れる。
目は大きく、唇は桜色のリップを薄く塗っていて、可愛らしい顔面に仕上がっている。化粧が濃すぎないところも好印象ではある。
ただ、愛らしい系の顔立ちながら、気が強そう。そう感じさせるのは、目つきだろうか。
「噂は聞いていますわ。ウィクトルの愛玩地球人だとか」
……何だろう、愛玩地球人とは。
「確かに可愛らしい娘ですわね。もっとも、わたくしたちのような品格はありませんけれど」
彼女は、目を細めると、嘲るような笑みを桜色の唇にうっすら浮かべる。
どうやら好かれてはいないみたい。
……それにしても、彼女の服装は実に個性的だ。
見える範囲の一番下に着ている提灯袖のワンピースは、カチューシャと同じ色。膝にかかるかかからないかくらいの丈だ。そして、そんなワンピースの上に、マントが一体化した上衣をまとっている。その上衣は、前側の縦の金ライン以外は、すべて髪と似た色。また、肩の上は尖っていて、そこから、真っ直ぐ下に向かって布が伸びていた。その布がマントのように見えるのだ。その上に着用しているコルセットは、これまたワインレッド。
「わたくしの名は、シャルティエラ・ローザパラスト。貴女は特別、シャロと呼んで良いですわよ」
「ですから、キエル帝国の西に位置しておりましたフリント共和国が主の生まれ育った国なのでございます。……と言いましても、フリント共和国という国は現在は存在しておりません。今はキエルの領土となり、ウェストエナーという名称になっておりますので」
ウェストエナー。私はその単語を聞いたことがある——そう、私にとってはこの星で一番初めに降り立った地だ。ちなみに、ウェストエナーがキエル帝国の西の端だということはどこかで聞いた記憶がある。
「かつては国があったの? あそこに?」
「はい。そうでございます」
「でも、一つの国にしては狭くない?」
「はい。領土は決して大きくない国でございました」
広大な土地を持たない国だったから、キエル帝国に支配されたのだろうか。だとしたら悲しいことだ。
でも、あり得ないことではない。
地球にいた頃にもそういった事例は読んだことがある。歴史の本か何かで。
この星は限りなく地球に近い。空気や温度などの環境も、そこに生きる人間も。だからこそ、地球と似たようなことが起こるのだろう。同じような要因を有している以上、強き者が支配を広げ弱き者が支配されるという構図が出来上がるのは定めなのかもしれない。
「フリントの生き残り——彼が言っていたのは、そういうことだったのね」
あれは確か、ビタリーから部屋に遊びに来るよう誘われた時のことだ。私との間に割って入ったウィクトルを、ビタリーは「フリントの生き残り風情が」などと罵っていた。
あの時は意味が分からなかったが、今ならその言葉の意味が分かる。
「……どなたがそのようなことを?」
「ビタリーさんよ。妙な誘いを受けて困っていた私を庇ってくれたウィクトルに向かって発していたわ」
「そうですか……まったく! あの男、無礼にもほどがあります!」
リベルテは頬を丸く膨らます。
「皇帝の血を引く者でなければ、叩き潰しましたのに!」
「ま、待って待って。人格が変わってるわ」
「……そうですね。つい熱くなってしまい、失礼致しました」
ウィクトルのことを心から慕っているリベルテだ、主人を馬鹿にされて黙っていられないのは当然のことだろう。本当は、他者を見下すような発言をした方が悪い。もっとも、当のビタリーは自分が皇帝の血筋だから何をしても許されると勘違いしているのだろうが。
「でも、どうしてフリントのウィクトルがキエル皇帝の下で働いているの? それは少し不自然じゃない? 感情的に、嫌がりそうなものだけれど」
正直、どこまで踏み込んで良いものか分からない。ウィクトルはフリント共和国出身でも、リベルテはキエル帝国出身なのだろうから、キエル帝国のことを悪く言い過ぎたらリベルテが傷つくかもしれないし。どちらの国の味方をすべきかがはっきりしない状態で話をするというのは、意外と難しいものだ。
「そうですね、主はイヴァン様がスカウトしてきたようでございましたが——実は、本当のところはリベルテもよく知らないのです」
すべてを知っているわけではない、とリベルテは言う。
「主に直接尋ねてみられれば、より多くの情報を得られるやもしれません。力不足で申し訳ございません」
丁寧に謝罪され、私は凄く申し訳ない気持ちになった。質問しない方が良かったのかな、なんて思ってしまう部分もあるくらいだ。
——そんな時。
部屋に一人の男性隊員が突然現れた。
「リベルテさん! お客さんがいらっしゃいました!」
「……どのような方で?」
「ローザパラストのお嬢さんです」
若干慌てた様子で出現した男性隊員が問いに答えた瞬間、リベルテの顔が硬直する。
「なぜ……?」
独り言のように呟くリベルテの面に、いつものような明るさはなかった。
いきなり宿舎へやって来た『ローザパラストのお嬢さん』なる人は、シーグリーンに白を混ぜたような髪色の女性だった。海水と砂浜が重なる浅瀬のような淡い色の髪は、前と耳に被るサイドの辺りだけは真っ直ぐに揃っている。そして、後ろ髪は頭の右側で一つに束ねていた。前とサイドだけを見るとロングヘアだとは思えないが、束ねた部分を見る感じ、それなりの長さはあるのだろう。なんせ、一つに束ねた房は胸より下まで伸びているのだ。
「初めまして。貴女がウタですわね」
ワインレッドのカチューシャの右端には、赤い一輪の薔薇。そして、その下側には、立体になった菱形のような金色の飾りが三つぶら下がっている。固定されておらず、頭部が動くたびにさりげなく揺れる。
目は大きく、唇は桜色のリップを薄く塗っていて、可愛らしい顔面に仕上がっている。化粧が濃すぎないところも好印象ではある。
ただ、愛らしい系の顔立ちながら、気が強そう。そう感じさせるのは、目つきだろうか。
「噂は聞いていますわ。ウィクトルの愛玩地球人だとか」
……何だろう、愛玩地球人とは。
「確かに可愛らしい娘ですわね。もっとも、わたくしたちのような品格はありませんけれど」
彼女は、目を細めると、嘲るような笑みを桜色の唇にうっすら浮かべる。
どうやら好かれてはいないみたい。
……それにしても、彼女の服装は実に個性的だ。
見える範囲の一番下に着ている提灯袖のワンピースは、カチューシャと同じ色。膝にかかるかかからないかくらいの丈だ。そして、そんなワンピースの上に、マントが一体化した上衣をまとっている。その上衣は、前側の縦の金ライン以外は、すべて髪と似た色。また、肩の上は尖っていて、そこから、真っ直ぐ下に向かって布が伸びていた。その布がマントのように見えるのだ。その上に着用しているコルセットは、これまたワインレッド。
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