134 / 209
133話「ウタの思考の苦難」
しおりを挟む
これは答え方が難しい。ウィクトルとの関係を壊さないためには、相応しくない答えを述べてしまうわけにはいかないからだ。たった一言が関係を崩すことだってある。だからこそ、慎重にならねばならない。
「ウィクトルのアドバイスは間違っていないと思うわ。でも、リベルテが言ってくれたことも、間違ってはいないと思うの」
考えた末、曖昧な答えを発することになってしまった。
「私の発言もリベルテの発言も正しい……だとしたら、君は一体どちらの味方なんだ?」
ウィクトルは訝しむような顔つきで問う。
ここも慎重に。考え過ぎは良くないが、まったく考えないのも良くない。効率よく思考し、彼が気分を害さない範囲で返事を放たなければならない。
「両方、という感じかしら」
「それはまた珍しい」
「ごめんなさい、正直私もはっきりとは分かっていないの。ウィクトルが言ってくれたことは正論だと思うし、でも、リベルテが言ってくれていた配慮も嬉しい内容ではあったわ」
ウィクトルに嫌われたくないから、曖昧なことしか言えない。それも事実ではある。が、それだけの理由でこんな答えを述べたわけではない。
というのも、実際私の心は曖昧な位置にあるのだ。
ウィクトルの言うことは理解できる。けれどリベルテの言うことも事実。そういう状態だから、どちらの意見に賛成かと答えることはできない。
「だからね、ウィクトル。白黒はっきりさせなくて良いんじゃないかしら」
「それはどういうことか」
「私はウィクトルもリベルテも大切な仲間と思っているわ。三人でいられることが幸せなの。本当はフーシェさんもいたら良かったのだけど……でも、今は、こうして三人揃っていられることに感謝しているわ」
何とか話を逸らしたい!
「だから、今からは楽しい話をしましょ」
「……それもそうだな」
ウィクトルは多少理解を示してくれた。
私は内心安堵。
「リベルテ、手当てはそろそろ終わりそう?」
「あ、はい!」
ウィクトルの傷に処置を施していたリベルテは、その時だけ顔を上げ、明るい声で返事をしてくれた。
「迎えが来てくれるところまで、どうやって行く?」
「そうでございますね……歩くか、ここへ来てもらうか……」
その時、左腕に処置を施してもらっているウィクトルが口を開く。
「私は歩ける」
迷いなど一切ない、はっきりとした言い方だった。
彼は男との交戦によって負傷したが、幸い、致命傷になりそうな傷は負っていなかった。それに、腕は豪快にやられているが、下半身へのダメージはほとんどない。脚を怪我したということはないので、現実問題、歩けないということはなさそうだ。
だが、外傷だけで判断するのはいかがなものか。
本気でかかってくる相手と戦ったのだ、精神的な疲労も小さくはあるまい。
「では、徒歩で参りますか?」
「私はそれで構わない。ウタくんはどうだ」
ウィクトルは歩いていく選択で問題ないと考えているらしい。
ならば、私もそれで構わない。
そもそも、私は誰とも戦っていないのだ。それゆえ、当然怪我はないし、精神的な疲労もほとんどない。多少緊張した程度。歩いていくことになったとしても、不満はない。
「私? 私は何でもいいわよ」
「では歩くか」
「そうね。でも大丈夫? ウィクトルは怪我しているのに」
「私は平気だ、気にするな」
「そう。分かったわ」
言って、リベルテへ視線を向ける。
「歩きましょっか」
リベルテはウィクトルの選択を尊重するだろう——そう考えて、私はそんな風に言った。
こうして私たち三人は、再び歩き出す。
キエル帝国から去るために。
待ち合わせ場所へはそれほどかからなかった。
男に襲われる前に一生懸命歩いていたから、既に、かなり待ち合わせ場所に近いところまで行けていたようだ。
私たちがその場所へたどり着いた時、リベルテの知り合いの自動車はそこに停車していた。
頼んでおいて遅刻。その最悪のパターンを避けられなかったので、私はいろんな意味で不安を抱いていた。だが、自動車の運転手はのんびりした人で、待ち合わせに遅れた私たちに怒りを向けることはしなかった。怒るどころか心配してくれていたくらいで。心の広い人だなぁ、と思うと同時に、少々感動してしまった。
その後、自動車に乗って移動。
ファルシエラへ国内と向かう。
道中聞いた話によると、ファルシエラでは、まだ人が運転する自動車が使われているらしい。キエル帝国では自動運転車が普及しているが、ファルシエラはそうではないそうだ。
ちなみに、本来国と国を移動する時は、許可証が必要だとか。
けれど今回はその手続きをする必要がなかった。
それは、リベルテの実家と取引先の家が特別な契約を結んでいて、自由に行き来できる許可を得ているかららしい。
その許可は、本来、商売をスムーズに行うためのもの。国を脱出したい者を脱出させるための許可ではない。が、今回は、その許可を上手く利用したみたいだ。
やり方が若干グレーだが、今は仕方ない。
ファルシエラの都・ホーション。
広場にある巨大な噴水が美しい街だった。
「ここがファルシエラ……」
石造りの建物が多い。キエル帝国とはまた違った雰囲気が漂っている。
私たちは運転手より「しばらく暮らしていただく用の家を用意しています」と告げられ、街の東寄りのところにある一軒家へと案内された。
「こちらでお過ごし下さい」
「感謝致します……!」
「いえ。リベルテさんの家にはいつもお世話になっていますので、そのお返しです」
「本当に助かりました!」
灰色の石で造られた一軒家。そこが、私たちが暮らすために用意された家だったようだ。
何でも、かつては誰かが住んでいたがここ十年ほどは誰も住んでいなかった家だとか。いわば中古の家である。
けれども、今は、そんなことはどうでもいい。新しい建物でないから嫌、なんて贅沢を言える身分ではないから、住めるところさえあれば御の字。
「意外と立派な家を借りられたわね」
「はい。リベルテも少々驚きました」
二階は四分の一程度しかない家で、決して広そうな建物ではないけれど、雨風をしのげれば文句はない。それに、もっと小屋のようなところを貸してもらうのだと思っていたので、家らしい家を借りられたこと自体驚きだ。
「ウィクトルのアドバイスは間違っていないと思うわ。でも、リベルテが言ってくれたことも、間違ってはいないと思うの」
考えた末、曖昧な答えを発することになってしまった。
「私の発言もリベルテの発言も正しい……だとしたら、君は一体どちらの味方なんだ?」
ウィクトルは訝しむような顔つきで問う。
ここも慎重に。考え過ぎは良くないが、まったく考えないのも良くない。効率よく思考し、彼が気分を害さない範囲で返事を放たなければならない。
「両方、という感じかしら」
「それはまた珍しい」
「ごめんなさい、正直私もはっきりとは分かっていないの。ウィクトルが言ってくれたことは正論だと思うし、でも、リベルテが言ってくれていた配慮も嬉しい内容ではあったわ」
ウィクトルに嫌われたくないから、曖昧なことしか言えない。それも事実ではある。が、それだけの理由でこんな答えを述べたわけではない。
というのも、実際私の心は曖昧な位置にあるのだ。
ウィクトルの言うことは理解できる。けれどリベルテの言うことも事実。そういう状態だから、どちらの意見に賛成かと答えることはできない。
「だからね、ウィクトル。白黒はっきりさせなくて良いんじゃないかしら」
「それはどういうことか」
「私はウィクトルもリベルテも大切な仲間と思っているわ。三人でいられることが幸せなの。本当はフーシェさんもいたら良かったのだけど……でも、今は、こうして三人揃っていられることに感謝しているわ」
何とか話を逸らしたい!
「だから、今からは楽しい話をしましょ」
「……それもそうだな」
ウィクトルは多少理解を示してくれた。
私は内心安堵。
「リベルテ、手当てはそろそろ終わりそう?」
「あ、はい!」
ウィクトルの傷に処置を施していたリベルテは、その時だけ顔を上げ、明るい声で返事をしてくれた。
「迎えが来てくれるところまで、どうやって行く?」
「そうでございますね……歩くか、ここへ来てもらうか……」
その時、左腕に処置を施してもらっているウィクトルが口を開く。
「私は歩ける」
迷いなど一切ない、はっきりとした言い方だった。
彼は男との交戦によって負傷したが、幸い、致命傷になりそうな傷は負っていなかった。それに、腕は豪快にやられているが、下半身へのダメージはほとんどない。脚を怪我したということはないので、現実問題、歩けないということはなさそうだ。
だが、外傷だけで判断するのはいかがなものか。
本気でかかってくる相手と戦ったのだ、精神的な疲労も小さくはあるまい。
「では、徒歩で参りますか?」
「私はそれで構わない。ウタくんはどうだ」
ウィクトルは歩いていく選択で問題ないと考えているらしい。
ならば、私もそれで構わない。
そもそも、私は誰とも戦っていないのだ。それゆえ、当然怪我はないし、精神的な疲労もほとんどない。多少緊張した程度。歩いていくことになったとしても、不満はない。
「私? 私は何でもいいわよ」
「では歩くか」
「そうね。でも大丈夫? ウィクトルは怪我しているのに」
「私は平気だ、気にするな」
「そう。分かったわ」
言って、リベルテへ視線を向ける。
「歩きましょっか」
リベルテはウィクトルの選択を尊重するだろう——そう考えて、私はそんな風に言った。
こうして私たち三人は、再び歩き出す。
キエル帝国から去るために。
待ち合わせ場所へはそれほどかからなかった。
男に襲われる前に一生懸命歩いていたから、既に、かなり待ち合わせ場所に近いところまで行けていたようだ。
私たちがその場所へたどり着いた時、リベルテの知り合いの自動車はそこに停車していた。
頼んでおいて遅刻。その最悪のパターンを避けられなかったので、私はいろんな意味で不安を抱いていた。だが、自動車の運転手はのんびりした人で、待ち合わせに遅れた私たちに怒りを向けることはしなかった。怒るどころか心配してくれていたくらいで。心の広い人だなぁ、と思うと同時に、少々感動してしまった。
その後、自動車に乗って移動。
ファルシエラへ国内と向かう。
道中聞いた話によると、ファルシエラでは、まだ人が運転する自動車が使われているらしい。キエル帝国では自動運転車が普及しているが、ファルシエラはそうではないそうだ。
ちなみに、本来国と国を移動する時は、許可証が必要だとか。
けれど今回はその手続きをする必要がなかった。
それは、リベルテの実家と取引先の家が特別な契約を結んでいて、自由に行き来できる許可を得ているかららしい。
その許可は、本来、商売をスムーズに行うためのもの。国を脱出したい者を脱出させるための許可ではない。が、今回は、その許可を上手く利用したみたいだ。
やり方が若干グレーだが、今は仕方ない。
ファルシエラの都・ホーション。
広場にある巨大な噴水が美しい街だった。
「ここがファルシエラ……」
石造りの建物が多い。キエル帝国とはまた違った雰囲気が漂っている。
私たちは運転手より「しばらく暮らしていただく用の家を用意しています」と告げられ、街の東寄りのところにある一軒家へと案内された。
「こちらでお過ごし下さい」
「感謝致します……!」
「いえ。リベルテさんの家にはいつもお世話になっていますので、そのお返しです」
「本当に助かりました!」
灰色の石で造られた一軒家。そこが、私たちが暮らすために用意された家だったようだ。
何でも、かつては誰かが住んでいたがここ十年ほどは誰も住んでいなかった家だとか。いわば中古の家である。
けれども、今は、そんなことはどうでもいい。新しい建物でないから嫌、なんて贅沢を言える身分ではないから、住めるところさえあれば御の字。
「意外と立派な家を借りられたわね」
「はい。リベルテも少々驚きました」
二階は四分の一程度しかない家で、決して広そうな建物ではないけれど、雨風をしのげれば文句はない。それに、もっと小屋のようなところを貸してもらうのだと思っていたので、家らしい家を借りられたこと自体驚きだ。
0
あなたにおすすめの小説
ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~
水無月礼人
恋愛
私は冒険者ギルド職員ロックウィーナ。25歳の女で担当は回収役。冒険者の落し物、遺品、時には冒険者自体をも背負います!
素敵な恋愛に憧れているのに培われるのは筋肉だけ。
しかし無駄に顔が良い先輩と出動した先で、行き倒れた美形剣士を背負ってから私の人生は一変。初のモテ期が到来です!!
……とか思ってウハウハしていたら何やら不穏な空気。ええ!?
私の選択次第で世界がループして崩壊の危機!? そんな結末は認めない!!!!
※【エブリスタ】でも公開しています。
【エブリスタ小説大賞2023 講談社 女性コミック9誌合同マンガ原作賞】で優秀作品に選ばれました。
異世界の花嫁?お断りします。
momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。
そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、
知らない人と結婚なんてお断りです。
貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって?
甘ったるい愛を囁いてもダメです。
異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!!
恋愛よりも衣食住。これが大事です!
お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑)
・・・えっ?全部ある?
働かなくてもいい?
ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です!
*****
目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃)
未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。
サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない
白神ブナ
恋愛
高校一年一学期から三年三学期まで続く長編です。気になるサブタイトルを見つけて途中からでもお楽しみいただけます。
女子校あるあると、先生あるある、受験あるあるを描く学園恋愛ドラマ。
佐藤サトシは30歳の独身高校教師。
一度は公立高校の教師だったが心が折れて転職し、私立白金女子学園にやって来た。
一年A組の受け持つことになったサトシ先生。
その中の一人、桜井美柑はガチでサトシ先生に恋してしまった。
サトシ先生は、桜井美柑という生徒の存在を意識してしまいつつ、あくまで職務に忠実であろうと必死に適度な距離を保とうとするが……
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
貴方だけが私に優しくしてくれた
バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。
そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。
いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。
しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる