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199話「シャルティエラの手紙」
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帝国での公演は無事終了。
翌日の昼頃、私を含む三人は、ファルシエラにある家へと帰ることにした。
「ミソカニさん、お世話になりました」
「いいエ! こちらこソ! 成功させることができて良かったワ。貴女のおかげヨ」
「フリュイさんも、お元気で」
「わざわざありがとうございます。ウタさんって、さりげなく真面目ですね」
企画してくれたミソカニと、朗読してくれたフリュイ。彼らは同士だ。私が舞台に立てるよう、彼らは協力してくれた。もっとも、始まりはミソカニの夢だったわけだが。けれど、結果的には、彼らがいたからすべてが綺麗に終わったと言えるだろう。
「ウタさん、また何かあったら連絡しても良いかしラ?」
「はい。もちろんです」
「じゃ、僕も帰ります」
「フリュイくん!? 切り替え早過ぎヨ!?」
こうして、私はミソカニやフリュイと別れる。
いつかまた帝国へ来る日がやって来るだろうか? 帝国の未来はどうなるのか? そんな疑問を抱きつつ、自動運転車に乗り込む。そして、帝国から去ってゆく。懐かしい地を想いながら。
ファルシエラにある家に帰ると、私はようやく思いきり伸びをすることができた。
こんな風に遠慮なくしたいことができるのは、いつだって自宅だけだ。
まだ地球にいた頃は、活動範囲が狭く自宅と近所だけだったので、基本的にいつものんびりしていた。退屈に思っていたくらいだから、余程平和に暮らせていたのだろう。
けれど、この星へ来てからは、そこまでのんびりはできず。特に、現在の帝国のような不安定な世の中においては、緊張感を抱かないわけにはいかない。
だからこそ、この家の中が心地良い。
信頼できる人しかいない空間が好き。
「物凄く寛いでいるな、ウタくん」
「え? そ、そうかしら」
「先ほどから、伸びやら何やらを連発していただろう」
見られていたなんて、ちょっと恥ずかしい……。
「いや、なに、誤解しないでくれ。べつに批判しているわけではない」
「そう……なの?」
「寛ぎ方が上手いというのは一つの才能だろう」
「何それ、面白いわね」
真面目に「寛ぎ方が上手いのが才能」なんて言うウィクトルを見ていたら、何だかおかしくて、つい笑みをこぼしてしまった。
「シンプルな話だ。緊張するのは簡単だが、心を緩ませるのは難しい。そうだろう?」
「確かにね」
それは分からないでもない。
寛ぐことと緊張することなら、緊張することの方が遥かに簡単だ。
数日後、一通の手紙が届いた。
ほんの少し横の方が長い長方形の封筒。全体は白く、縁の辺りにだけ柔らかい色合いの花が描かれている、優しい雰囲気のものだ。そして、黒いペンで文字が書かれていた。キエルの文字を読めるウィクトルが言うには、『ウタへ』と『シャルティエラより』が書かれているそうだ。その話から、私は、その手紙がシャルティエラからのものであることを悟った。
封は蝋によるものではなくシール。紅にほんの少し白を混ぜたような色の薔薇のシールだった。
私へ宛てたものなのならば、開封しても問題はないだろう。そう考え、私はすぐにそれを開封することに決めた。どこも破れないように、シールを慎重に捲っていく。
中から出てきたのは、便箋。これまたふんわりした色合いの紙だ。中央は白いがその周辺にはほんのり色が付いている、そんな便箋である。
「ねぇウィクトル」
私はテレビを見ながら体操していたウィクトルに声をかける。
「どうした」
「これ、読める?」
私は便箋をウィクトルに向けた。
手紙の内容を彼に読んでもらおうと考えての行動である。
「あぁ。構わないが」
「申し訳ないのだけど……読んでくれない?」
少し緊張しつつ頼んでみる。
するとウィクトルは、すんなりと「お安い御用だ」と返してきた。
「だが、内容を私が見てしまっても問題ないのか?」
「えぇ。そんな変なことは書いてないはずよ」
ウィクトルは体操を一時中断し、こちらに向かって歩いてくる。そして、私のすぐ前までたどり着くと、片手を差し出した。私はその手に二枚の便箋を渡す。ウィクトルは速やかに便箋へ視線を落とし、やがて口を開く。
「ウタへ。お元気かしら。先日の公演、見事でしたわ。最初から観ましたけれど、ドラマチックで、とても魅力的な舞台でしたわね」
便箋を凝視しているウィクトルの読み方は、意外とシャルティエラに似ていた。抑揚はなく、ほぼ棒読みに近いが、それでも、シャルティエラの面影を感じることができる。
「侍女と二人で観ましたわ。彼女も見事だと申していました。もちろんわたくしも同じ気持ちでいますわ。招待ありがとう」
少し間を空け、ウィクトルは続きを読む。
「今のキエル帝国は平和ではありません。皇帝が変わっても、世の乱れが変わることはなかった。哀れなこと、と笑われるやもしれませんわね。けれども、いつか、もし平和になったら……ウタ、貴女ともう一度お茶を飲みたいですわ。今はそれが望みです」
一枚目を読み終えたらしく、ウィクトルは手もとの便箋の順を変える。
「未来のことは分かりません。けれど、きっといつかはまた会える。わたくしはそう信じています。それではこれで失礼します。貴女に大きな幸せがありますように。シャルティエラ」
ウィクトルは二枚目を一気に読み終えた。そして「ここまでだ」と言って、二枚の便箋を返してくる。二枚目が意外と短かったことに驚きつつ、私は彼の手から便箋を受け取った。
「シンプルな内容だったな」
ウィクトルは小さな溜め息のようなものを漏らしつつ感想を述べた。
「そうね。手紙だったわね」
「ビタリーは皇帝を辞めるだろうが……あの女はどうなることやら、だな」
シャルティエラも罪人になるのだろうか?
妻ゆえ、ビタリーと同罪という扱いを受けるのだろうか?
翌日の昼頃、私を含む三人は、ファルシエラにある家へと帰ることにした。
「ミソカニさん、お世話になりました」
「いいエ! こちらこソ! 成功させることができて良かったワ。貴女のおかげヨ」
「フリュイさんも、お元気で」
「わざわざありがとうございます。ウタさんって、さりげなく真面目ですね」
企画してくれたミソカニと、朗読してくれたフリュイ。彼らは同士だ。私が舞台に立てるよう、彼らは協力してくれた。もっとも、始まりはミソカニの夢だったわけだが。けれど、結果的には、彼らがいたからすべてが綺麗に終わったと言えるだろう。
「ウタさん、また何かあったら連絡しても良いかしラ?」
「はい。もちろんです」
「じゃ、僕も帰ります」
「フリュイくん!? 切り替え早過ぎヨ!?」
こうして、私はミソカニやフリュイと別れる。
いつかまた帝国へ来る日がやって来るだろうか? 帝国の未来はどうなるのか? そんな疑問を抱きつつ、自動運転車に乗り込む。そして、帝国から去ってゆく。懐かしい地を想いながら。
ファルシエラにある家に帰ると、私はようやく思いきり伸びをすることができた。
こんな風に遠慮なくしたいことができるのは、いつだって自宅だけだ。
まだ地球にいた頃は、活動範囲が狭く自宅と近所だけだったので、基本的にいつものんびりしていた。退屈に思っていたくらいだから、余程平和に暮らせていたのだろう。
けれど、この星へ来てからは、そこまでのんびりはできず。特に、現在の帝国のような不安定な世の中においては、緊張感を抱かないわけにはいかない。
だからこそ、この家の中が心地良い。
信頼できる人しかいない空間が好き。
「物凄く寛いでいるな、ウタくん」
「え? そ、そうかしら」
「先ほどから、伸びやら何やらを連発していただろう」
見られていたなんて、ちょっと恥ずかしい……。
「いや、なに、誤解しないでくれ。べつに批判しているわけではない」
「そう……なの?」
「寛ぎ方が上手いというのは一つの才能だろう」
「何それ、面白いわね」
真面目に「寛ぎ方が上手いのが才能」なんて言うウィクトルを見ていたら、何だかおかしくて、つい笑みをこぼしてしまった。
「シンプルな話だ。緊張するのは簡単だが、心を緩ませるのは難しい。そうだろう?」
「確かにね」
それは分からないでもない。
寛ぐことと緊張することなら、緊張することの方が遥かに簡単だ。
数日後、一通の手紙が届いた。
ほんの少し横の方が長い長方形の封筒。全体は白く、縁の辺りにだけ柔らかい色合いの花が描かれている、優しい雰囲気のものだ。そして、黒いペンで文字が書かれていた。キエルの文字を読めるウィクトルが言うには、『ウタへ』と『シャルティエラより』が書かれているそうだ。その話から、私は、その手紙がシャルティエラからのものであることを悟った。
封は蝋によるものではなくシール。紅にほんの少し白を混ぜたような色の薔薇のシールだった。
私へ宛てたものなのならば、開封しても問題はないだろう。そう考え、私はすぐにそれを開封することに決めた。どこも破れないように、シールを慎重に捲っていく。
中から出てきたのは、便箋。これまたふんわりした色合いの紙だ。中央は白いがその周辺にはほんのり色が付いている、そんな便箋である。
「ねぇウィクトル」
私はテレビを見ながら体操していたウィクトルに声をかける。
「どうした」
「これ、読める?」
私は便箋をウィクトルに向けた。
手紙の内容を彼に読んでもらおうと考えての行動である。
「あぁ。構わないが」
「申し訳ないのだけど……読んでくれない?」
少し緊張しつつ頼んでみる。
するとウィクトルは、すんなりと「お安い御用だ」と返してきた。
「だが、内容を私が見てしまっても問題ないのか?」
「えぇ。そんな変なことは書いてないはずよ」
ウィクトルは体操を一時中断し、こちらに向かって歩いてくる。そして、私のすぐ前までたどり着くと、片手を差し出した。私はその手に二枚の便箋を渡す。ウィクトルは速やかに便箋へ視線を落とし、やがて口を開く。
「ウタへ。お元気かしら。先日の公演、見事でしたわ。最初から観ましたけれど、ドラマチックで、とても魅力的な舞台でしたわね」
便箋を凝視しているウィクトルの読み方は、意外とシャルティエラに似ていた。抑揚はなく、ほぼ棒読みに近いが、それでも、シャルティエラの面影を感じることができる。
「侍女と二人で観ましたわ。彼女も見事だと申していました。もちろんわたくしも同じ気持ちでいますわ。招待ありがとう」
少し間を空け、ウィクトルは続きを読む。
「今のキエル帝国は平和ではありません。皇帝が変わっても、世の乱れが変わることはなかった。哀れなこと、と笑われるやもしれませんわね。けれども、いつか、もし平和になったら……ウタ、貴女ともう一度お茶を飲みたいですわ。今はそれが望みです」
一枚目を読み終えたらしく、ウィクトルは手もとの便箋の順を変える。
「未来のことは分かりません。けれど、きっといつかはまた会える。わたくしはそう信じています。それではこれで失礼します。貴女に大きな幸せがありますように。シャルティエラ」
ウィクトルは二枚目を一気に読み終えた。そして「ここまでだ」と言って、二枚の便箋を返してくる。二枚目が意外と短かったことに驚きつつ、私は彼の手から便箋を受け取った。
「シンプルな内容だったな」
ウィクトルは小さな溜め息のようなものを漏らしつつ感想を述べた。
「そうね。手紙だったわね」
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