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後編

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 ◆


 あの婚約破棄から数年、私は領主の子息である青年と結婚した。

 出会いはある地域のパーティー。

 そこで向こうから声をかけてきてくれて、意外と気が合った。で、そこから関わるうちに定期的に会うようになっていって。そうしているうちに段々特別な二人となっていった。

 恋人同士というよりかは親友に近いような安定的な関係性だったが、それは非常にあたたかで愛おしいものであった。

 一方オーギュオスはというと。
 私と離れた後、女性を漁るも、多くの女性から相手にしてもらえなかったために心が折れていってしまったようだ。
 そうしているうちに心を病むのみならず身体の調子まで崩してしまって。
 やがて家族以外の人と関わることを恐れるようになってゆき、段々家にこもるようになっていったそう。

 彼の心に光はない。

 そして希望も。

 彼に幸福はない。
 そこにあるのは絶望だけ。

 もはや彼の状態が回復することはないだろう。


 ◆


 あれから数年、私は今も領主の子息だった彼と共に穏やかに暮らせている。

「畑仕事終わったの?」
「ええ、今ちょうど戻ってきたところよ」
「そうだったんだ!」
「あなたは?」
「昨日できなかった分の書類整頓を終わらせたところなんだ」
「お疲れ様!」

 夫は先日正式に領主になった。
 それからは仕事が増えて。
 ここのところは何かと忙しそう、日によってはかなり大変そうな時もある。

 それでも彼は穏やかな心を失わない。

 ただただ、尊敬しかない。

 偉大だ。
 そんな言葉が似合う。

「畑仕事もお疲れ様、大変だったでしょ」
「まぁ……そうね、ちょっと。でも大丈夫よ、慣れているから」
「慣れてる、って。さすがだなぁ、すごいなぁ」
「ふふ、ありがとう」
「尊敬するよ」
「あなただって凄いじゃないの」
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。でも、褒められるって、ちょっと照れるね!」


◆終わり◆
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