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7話 「王宮の自室にて」
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王宮へ戻るとエリアスは私を侍女のヴァネッサに引き渡し、今回の件について報告してくると言って王の間へ向かった。
私は自室でヴァネッサと二人きりになる。彼女は深い青色の瞳でじっと凝視してくる。普段から厳しそうな雰囲気だが、今日はいつにも増して厳しい顔つきだ。
「アンナ王女。私は貴女に危ないと感じればすぐ逃げるようにと申し上げました」
「……そうね」
「それと、エリアスから離れないようにとも申し上げましたよね」
私は小さく頷く。
「それなのに! 何故こんなことになったのですか!」
ヴァネッサは声を荒らげた。
「無事だったから良かったものの、一歩誤れば大問題に発展するところでしたよ!」
「……ごめんなさい」
私は何も言い返せなかった。彼女の言うことがまっとうだったから。
「しかし今回で学習されたことでしょう。次からは気をつけて行動するようにして下さい」
そうまとめるとヴァネッサは流し台の方へ歩いていく。
今日はいろんな慣れないことがありすぎて疲れた。それから私はベッドの上に座ってぼんやりと時間を過ごした。
そのうちに日は暮れ、夜。私は建国記念祭の初日に行う予定である挨拶の練習をすることになった。挨拶として読み上げる数枚の原稿は数日前に渡されていたが、面倒だったので今まで放置していた。しかしそろそろ練習しなくてはならないと思ってくる。
「えっと、うーん……ここからか。本日は記念すべき、えと……三百回目の建国記念日を迎えられたことを、……エンジェリカの王女として、光栄に思います。今年の建国記念祭は例年とは異なり、一週間に渡る日程で……あー! もー!」
他人の書いた真面目な文章を読んでいるとむしゃくしゃしてきてついに放り出してしまう。ベッドに飛び込み目を閉じる。やはり私にはこのような役割は向いていない。
「面倒臭い……」
身を回転させて仰向けになり一人呟く。横目に窓の外を見ると沢山の星が輝いているのが分かる。星たちの輝きはいやに明るく感じられた。私もあんな風に自由に輝けたら……なんてよく分からないことを夢想する。天使が星になるなんてありえないのに今は星たちが羨ましい。
その時、突然誰かがドアをノックした。
「アンナ王女、いらっしゃいますか?」
ヴァネッサの声だった。
「はーい。今開けるわ」
軽く返事をしてベッドから起き上がりドアを開ける。
そこに立っていたヴァネッサは少し様子がおかしい。
「ヴァネッサ、どうしたの。こんな夜遅くに用事?」
私は敢えて気づいていないふりをして普通に尋ねる。
「エリアスが牢へ入れられました」
微塵も想像していなかったことを告げられ戸惑う。そんな私に構わずヴァネッサは続ける。
「王が、王女を連れ出し危険な目に遭わせたとお怒りになり、エリアスを牢へ入れよと」
「そんな……どうして。エリアスは何も悪くないじゃない」
王は実の父だが、一体何を考えているのかさっぱり理解できない。エリアスはただ私を守ってくれただけ。何がどうなれば彼が悪くなるのか。
「私、お父様に話してくるわ。ちゃんと説明すればエリアスは何も悪くないって分かってくれるはずよ」
「いけません、アンナ王女。こんな夜分に王の間へ行くなど」
ヴァネッサは早速歩き出そうとした私の手を握り制止する。
「でも誤解を解かないと。あんな暗くて汚い場所にいなくちゃならないなんて、エリアスが可哀想よ」
罪を犯した者を収容しておく地下牢。以前一度行ったことがあるが、光が入らず暗く、埃っぽくて不潔という、劣悪な環境だったのを覚えている。天界の明るさとは真逆のような場所だった。
「関係ありません。夜分に王の間へ行くのはいけません」
彼女が淡々とした態度なのに段々腹が立ってくる。
「ヴァネッサ、貴女変よ。どうしてそんなに冷たいの」
「時間というものを考慮して行動していただきたいだけです。貴女はいずれ女王となる身ですから、最低限のマナーは……」
いつもいつもそうやって真面目なことばかり言って。
「ヴァネッサ、貴女は酷いわ。手を離して!」
口調を強めても彼女はまったく動じない。
「まだ王の間へお行きになる気なら離しません」
ひたすらそれの一点張りだ。
「じゃあそれ以外なら離してくれるの? 王の間に行く気じゃないなら離すのね?」
だったらエリアスに会うために今すぐ地下牢へ向かうわ。と心で呟いた瞬間、その思考を読んだかのようにヴァネッサは提案した。
「エリアスに会いに行かれますか?」
私は驚いて少しの間黙ってしまったが、その後すぐに返す。
「……心が読めるの?」
「いえ。ただ、アンナ王女のお考えぐらい簡単に分かります。私は貴女がまだ赤子だった頃からお仕えしているでしょう。かなり長い付き合いですから、そのくらい分かります」
特に王妃であった母が亡くなってからは、彼女がほとんどの世話をしてくれた。考えぐらい読めても不思議ではないのかもしれない。
「会えるものなら会いたいわ。彼には色々と謝らなくちゃならないし」
あれからまだまともに話していないので言いたいことは沢山ある。
「では会いに行きますか?」
ヴァネッサは珍しく笑みを浮かべた。いつもは表情があまりなく淡々としているものだから珍しいものを見た気分になる。
「いいの?」
「それなら構いません。ただし私も同行しますが」
ヴァネッサがいて困るようなことをする気はない。逆にそのような質問をする意味がいまいちよく分からなかったが、敢えて突っ込むことはないだろう。
「ありがとう! どっちみち私は場所分からないし、ヴァネッサも一緒に行こう!」
こうして私はヴァネッサと共に、エリアスがいるという地下牢へ向かうことにした。
私は自室でヴァネッサと二人きりになる。彼女は深い青色の瞳でじっと凝視してくる。普段から厳しそうな雰囲気だが、今日はいつにも増して厳しい顔つきだ。
「アンナ王女。私は貴女に危ないと感じればすぐ逃げるようにと申し上げました」
「……そうね」
「それと、エリアスから離れないようにとも申し上げましたよね」
私は小さく頷く。
「それなのに! 何故こんなことになったのですか!」
ヴァネッサは声を荒らげた。
「無事だったから良かったものの、一歩誤れば大問題に発展するところでしたよ!」
「……ごめんなさい」
私は何も言い返せなかった。彼女の言うことがまっとうだったから。
「しかし今回で学習されたことでしょう。次からは気をつけて行動するようにして下さい」
そうまとめるとヴァネッサは流し台の方へ歩いていく。
今日はいろんな慣れないことがありすぎて疲れた。それから私はベッドの上に座ってぼんやりと時間を過ごした。
そのうちに日は暮れ、夜。私は建国記念祭の初日に行う予定である挨拶の練習をすることになった。挨拶として読み上げる数枚の原稿は数日前に渡されていたが、面倒だったので今まで放置していた。しかしそろそろ練習しなくてはならないと思ってくる。
「えっと、うーん……ここからか。本日は記念すべき、えと……三百回目の建国記念日を迎えられたことを、……エンジェリカの王女として、光栄に思います。今年の建国記念祭は例年とは異なり、一週間に渡る日程で……あー! もー!」
他人の書いた真面目な文章を読んでいるとむしゃくしゃしてきてついに放り出してしまう。ベッドに飛び込み目を閉じる。やはり私にはこのような役割は向いていない。
「面倒臭い……」
身を回転させて仰向けになり一人呟く。横目に窓の外を見ると沢山の星が輝いているのが分かる。星たちの輝きはいやに明るく感じられた。私もあんな風に自由に輝けたら……なんてよく分からないことを夢想する。天使が星になるなんてありえないのに今は星たちが羨ましい。
その時、突然誰かがドアをノックした。
「アンナ王女、いらっしゃいますか?」
ヴァネッサの声だった。
「はーい。今開けるわ」
軽く返事をしてベッドから起き上がりドアを開ける。
そこに立っていたヴァネッサは少し様子がおかしい。
「ヴァネッサ、どうしたの。こんな夜遅くに用事?」
私は敢えて気づいていないふりをして普通に尋ねる。
「エリアスが牢へ入れられました」
微塵も想像していなかったことを告げられ戸惑う。そんな私に構わずヴァネッサは続ける。
「王が、王女を連れ出し危険な目に遭わせたとお怒りになり、エリアスを牢へ入れよと」
「そんな……どうして。エリアスは何も悪くないじゃない」
王は実の父だが、一体何を考えているのかさっぱり理解できない。エリアスはただ私を守ってくれただけ。何がどうなれば彼が悪くなるのか。
「私、お父様に話してくるわ。ちゃんと説明すればエリアスは何も悪くないって分かってくれるはずよ」
「いけません、アンナ王女。こんな夜分に王の間へ行くなど」
ヴァネッサは早速歩き出そうとした私の手を握り制止する。
「でも誤解を解かないと。あんな暗くて汚い場所にいなくちゃならないなんて、エリアスが可哀想よ」
罪を犯した者を収容しておく地下牢。以前一度行ったことがあるが、光が入らず暗く、埃っぽくて不潔という、劣悪な環境だったのを覚えている。天界の明るさとは真逆のような場所だった。
「関係ありません。夜分に王の間へ行くのはいけません」
彼女が淡々とした態度なのに段々腹が立ってくる。
「ヴァネッサ、貴女変よ。どうしてそんなに冷たいの」
「時間というものを考慮して行動していただきたいだけです。貴女はいずれ女王となる身ですから、最低限のマナーは……」
いつもいつもそうやって真面目なことばかり言って。
「ヴァネッサ、貴女は酷いわ。手を離して!」
口調を強めても彼女はまったく動じない。
「まだ王の間へお行きになる気なら離しません」
ひたすらそれの一点張りだ。
「じゃあそれ以外なら離してくれるの? 王の間に行く気じゃないなら離すのね?」
だったらエリアスに会うために今すぐ地下牢へ向かうわ。と心で呟いた瞬間、その思考を読んだかのようにヴァネッサは提案した。
「エリアスに会いに行かれますか?」
私は驚いて少しの間黙ってしまったが、その後すぐに返す。
「……心が読めるの?」
「いえ。ただ、アンナ王女のお考えぐらい簡単に分かります。私は貴女がまだ赤子だった頃からお仕えしているでしょう。かなり長い付き合いですから、そのくらい分かります」
特に王妃であった母が亡くなってからは、彼女がほとんどの世話をしてくれた。考えぐらい読めても不思議ではないのかもしれない。
「会えるものなら会いたいわ。彼には色々と謝らなくちゃならないし」
あれからまだまともに話していないので言いたいことは沢山ある。
「では会いに行きますか?」
ヴァネッサは珍しく笑みを浮かべた。いつもは表情があまりなく淡々としているものだから珍しいものを見た気分になる。
「いいの?」
「それなら構いません。ただし私も同行しますが」
ヴァネッサがいて困るようなことをする気はない。逆にそのような質問をする意味がいまいちよく分からなかったが、敢えて突っ込むことはないだろう。
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