エンジェリカの王女

四季

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24話 「可愛いから仕方ない」

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 ジェシカとノアが現れたおかげでエリアスとヴァネッサの喧嘩はなんとか収まった。しかし話についてこれないジェシカらに、私は何が喧嘩の発端となったのかを説明する。

「そっかぁ、そういう流れで喧嘩になっちゃったんだね」

 ジェシカは明るく言うが、エリアスとヴァネッサはまだ不満そうな顔のままでいた。仲直りはしばらくできそうにない。

「エリアスは王女様のこと大好きだけど、ヴァネッサさんはどちらかというとお母さんって感じだもんね」
「教育方針の差かなー」

 今は客観的な判断をしているジェシカとノアがとても大人に見える。エリアスとヴァネッサはどちらも譲らない、もはや子どもの喧嘩だ。

「……アンナ王女はいずれ女王になりますから、立派に成長していただきたいのです。そのためにまず慎重に考え行動する力を身につけていただかなければなりません」

 先にヴァネッサが主張した。

「まだ言うか!」
「はいはーい、落ち着いてー」

 激昂して反論しかけたエリアスをノアが宥める。制止されたエリアスは仕方なく言葉を止めるが、瞳はまだ怒りで揺れていた。放出されている聖気からも怒りの感情がひしひしと伝わってくる。

「隊長、落ち着いてー」

 ノアは今にも暴れそうなエリアスを宥めつつ苦笑した。

「今日は聖気が尋常じゃないね! エリアスよっぽど怒ってる」

 ジェシカも少し引き気味だった。

 とにかくエリアスの怒りをなんとかしないと、と考えているうちにふと良い案が閃く。恐らく成功するであろう比較的お手軽な方法だ。

 ゆっくりとエリアスに歩み寄り、彼の前に手を差し出す。

「……王女?」

 急なことにきょとんとした顔をする。

「握手しない?」

 私が手を差し出したまま言うと、彼は両眉を上げる。

「……何事ですか?」

 意図が理解できないらしい。よし、それでいい。

 理解するにも和解するにも、まずは怒っている状態をどうにかしなくてはならない。そのためには訳の分からないことを起こすのが一番だろう。一旦落ち着けば少しは冷静になって話を聞けるはず。

「私が未熟だっていうのは本当のことよ。だからエリアス、もう怒らないで。これ以上きついことを言わないで。お願いだから、喧嘩するのは止めて!」

 するとエリアスは何か言いたそうな顔で俯く。

「……何か言いたいの?」

 私は彼の顔を何気なく覗き込み愕然とした。俯いている彼の顔がとても辛そうだったから。食いしばった唇、ピクピク動く眉頭。涙を流しているわけでもないのに、とても悲しそうだ。

 きっとエリアスにはエリアスの考えがあったのだろう。思い返せば彼はずっと私を護ろうとしてくれていた。ヴァネッサに「成長しない」と言われて私が傷つくことを心配してくれていたのだ。
 それなのに私は何も考えず、自分が言いやすいエリアスだけに、喧嘩を止めるように言ってしまった。でも今更後悔しても遅い。一度言ってしまったことは後悔しても消えない。

 エリアスは私に言われたら何も言い返せない。例え思うところがあったとしても、私の言動が私自身を傷つけることでない限り、決して言い返さないだろう。彼は何より私が幸せにいることを望んでいるから。

「最低ね……」

 私は無意識に呟いていた。
 心から自然に湧いてきた純粋な言葉だった。

 エリアスが顔を持ち上げて、驚いた顔で私を見る。

「私、何も考えずに……ごめんなさい」
「あの、一体何を?」
「エリアスは悪くないのに、それなのに……」
「待って下さい。王女」

 エリアスが肩を優しく掴んでくる。

「貴女は何を責めておられるのですか? 私はただ、王女が健やかにすごせるようにと、護衛隊長として取り組んでいただけのことでして……」

 色々言っているが、どうやらなかなかまとまらないようだ。

「隊長は不器用だねー」
「うん。面倒だねっ」

 ノアとジェシカが呆れた顔で言っていた。

「貴女は何も悪くない。だから泣かないで下さい。王女が泣くところは見たくありません」

 どうしてそんな風に優しくするの。私は貴方を傷つけたのに貴方は……。
 優しくされればされるほど、胸が締め付けられて苦しい。

「甘やかしていると言われても構いません。私は護衛隊長として貴女の幸せに貢献したい」

 エリアスは真剣な顔でそんなことを言う。

「ほぇぇ……」
「いやー、何だか楽しいねー。えっと、こういうのはー、ロマンチスト?」
「ロマンチック、ね」
「うん。ロマンチックだねー」

 ジェシカとノアののんびりした会話が耳に入ってくる。

「エリアス……悪いのは私よ。私は自分の都合で貴方を責めそうになった。ごめんなさい。それは謝らせて」

 一度謝らないと自分の中の後悔を拭えそうになかったから。

「構いません。王女の思いを考慮せず喧嘩をした我々にも問題があったのです」

 それから彼は黙っているヴァネッサに目をやる。

「ね、ヴァネッサさん。王女の前での喧嘩はこれきりにしましょう」
「……バカらしい。私は何も間違っていないわ」

 ヴァネッサはまったく和解する気がない様子だ。

「えぇ、貴女は間違ってはいません。すみませんでした。けれど私はこれからも王女を甘やかしてしまうでしょう」

 少し間を開けて続ける。

「なぜなら私は王女が可愛くて仕方ないからです」

 これにはさすがのヴァネッサも驚愕していた。
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