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25話 「和む空気」
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「さーて! じゃ、今から王女の誕生日パーティーの計画を立てよーうっ!」
ジェシカが拳を突き上げ、高らかに宣言した。
私の自室にはジェシカとノア、エリアス、ヴァネッサ、私を含めて五人。それほど大人数ではないが私の部屋に入るにはやや多い人数だ。
「わーい。立てようー」
ジェシカの掛け声にノアだけが返事をした。ただし、とんでもない棒読みで。
エリアスとヴァネッサの間にはまだ奇妙な空気が流れている。一応喧嘩は落ち着いたものの、そう簡単に仲良くはできないようだ。いや、そもそも二人は仲良くなかったか。
「確か、ヴァネッサさんは歌手と手品師を雇ったんだよね!」
ジェシカは張り切って芯を取っている。
「ええ。まもなくエンジェリカに到着する頃と思われます」
ヴァネッサは素っ気ない淡々とした調子で答えた。表情も笑みのない冷淡なものだが、それは彼女としては普通のことだ。機嫌が悪いわけではない。
「じゃあ歌と手品の出し物はできるかな! うーんと、それ以外に何か……」
「しりとり大会とかはー?」
ノアが安定のまったり口調で提案する。
「しり、とり?」
私はしりとりなんてものは聞いたことがない。気になったので尋ねてみた。
「しりとりはしりとりだよー」
適当な返答をしかけたノアの頭をパシッと叩くジェシカ。
「適当な答えダメ! 王女様、しりとりっていうのはね、人間の娯楽なの」
そういえば前にヴァネッサから、ジェシカとノアは地上界へ言っていたと聞いた。だから地上界の文化に詳しいのだろう。
「人間の娯楽?」
王宮の外を出歩くことすら滅多にない私からすれば、地上界へ行くなんて夢のまた夢だ。地上界へ行きたいなんて言っても、まず王が許さないし、ヴァネッサも危険だからと止めるはずだ。
「そうそうっ。地上界じゃ有名な遊びで、相手が言った言葉の一番後ろの文字から始まる言葉を言うの! それと最後に【ん】がつくのも禁止ね!」
そして、早速やってみよう、という流れになる。
「さっ、王女様からどうぞっ」
ジェシカに振られたので取り敢えず言ってみる。
「アンナ!」
その直後。
「エリアス」「ヴァネッサ」
ほぼ同時に二人が言った。
いやいや、順番を守ろうよ。しかも二人ともしりとりできていないし。
「うーんとねー……」
ノアが頭を押さえて言いにくそうな顔をしつつ控えめに口を開く。
「二人ともしりとりになってないよー」
「違うのか?」
エリアスは首を傾げる。
「相手が言った言葉の一番後ろの文字から始まる言葉を言う! だからアンナの次は【な】からの言葉じゃないといけないってこと!」
改めてもう一度説明するジェシカ。
「そうか。ではどうするか……よし。ナイン、でどうだ」
「【ん】で終わるものはいけないと言われたじゃない」
的確な指摘をしたのはヴァネッサ。今回は彼女が正しい。
「ルール説明ぐらいちゃんと聞きなさいよ」
ヴァネッサが一言余計なことを付け加える。
だがエリアスは怒ることなく、逆に、ふっと笑みをこぼした。
「……その通りですね」
いつも真剣なエリアスが笑みをこぼしたことで場の雰囲気が一気に和む。
「これで大丈夫だねー。ジェシカ、もう誕生日パーティーの話し合いしていいよー」
ノアは右サイドの髪を指で触りながら何食わぬ顔で言った。
もしかして空気を和ませるためにしりとりなんてさせたのか? と思ったが、本人に尋ねてみても軽く流されて終わりそうなので聞くのは止めた。場が和んだのだからそれでいい。
「よっし! じゃあ気を取り直して……」
ちょうどその時、ドアをノックする軽い音が聞こえた。ヴァネッサが静かに立ち上がる。
「様子を見て参ります」
ドアを開けたヴァネッサの向こう側に平凡な女性使用人が立っているのが見える。きっと連絡でも伝えに来たのだろう。少しするとヴァネッサはその使用人との話を終え戻ってきた。
「何だった? ヴァネッサ」
私は尋ねてみた。
「雇っていた歌手と手品師が到着したそうです。一度こちらへ呼ぶように指示しました」
「おーっ。いいねいいねっ」
ジェシカは楽しそうに体を揺らす。少女の姿と相まって子どもみたいで可愛らしい。
「あたし、生の歌手を見るのって初かも! 楽しみっ。王女様も初めてじゃない?」
私は式典や晩餐会の余興で見たことがある。
「ジェシカさん、私は見たことあるわ」
「え、そうなの? いいなーっ! あたしも早く見たいよ!」
そんな他愛ない話をしばらく続けていると、少しして再び軽いノック音が響いた。
「これはもしかしてっ!?」
「ジェシカ、落ち着きなさい」
キラキラと瞳を輝かせ今にも飛び出ていきそうなジェシカをエリアスが押さえる。
だが私もどんな人か気になっていたので、ついドアの方を凝視してしまっていた。
「ヴァネッサー! 久しぶりネ! 元気にしてたー!?」
急に騒がしいぐらいの大声が聞こえる。それとほぼ同時にヴァネッサに抱きつく影があった。
「アンナ王女、それから皆さんにも。紹介します。彼女が歌手のラピスです」
紹介されたのは色気のある大人びた女性だった。
「アタシはラピス。皆さん、これからしばらく、よろしくお願いシマス!」
ジェシカが拳を突き上げ、高らかに宣言した。
私の自室にはジェシカとノア、エリアス、ヴァネッサ、私を含めて五人。それほど大人数ではないが私の部屋に入るにはやや多い人数だ。
「わーい。立てようー」
ジェシカの掛け声にノアだけが返事をした。ただし、とんでもない棒読みで。
エリアスとヴァネッサの間にはまだ奇妙な空気が流れている。一応喧嘩は落ち着いたものの、そう簡単に仲良くはできないようだ。いや、そもそも二人は仲良くなかったか。
「確か、ヴァネッサさんは歌手と手品師を雇ったんだよね!」
ジェシカは張り切って芯を取っている。
「ええ。まもなくエンジェリカに到着する頃と思われます」
ヴァネッサは素っ気ない淡々とした調子で答えた。表情も笑みのない冷淡なものだが、それは彼女としては普通のことだ。機嫌が悪いわけではない。
「じゃあ歌と手品の出し物はできるかな! うーんと、それ以外に何か……」
「しりとり大会とかはー?」
ノアが安定のまったり口調で提案する。
「しり、とり?」
私はしりとりなんてものは聞いたことがない。気になったので尋ねてみた。
「しりとりはしりとりだよー」
適当な返答をしかけたノアの頭をパシッと叩くジェシカ。
「適当な答えダメ! 王女様、しりとりっていうのはね、人間の娯楽なの」
そういえば前にヴァネッサから、ジェシカとノアは地上界へ言っていたと聞いた。だから地上界の文化に詳しいのだろう。
「人間の娯楽?」
王宮の外を出歩くことすら滅多にない私からすれば、地上界へ行くなんて夢のまた夢だ。地上界へ行きたいなんて言っても、まず王が許さないし、ヴァネッサも危険だからと止めるはずだ。
「そうそうっ。地上界じゃ有名な遊びで、相手が言った言葉の一番後ろの文字から始まる言葉を言うの! それと最後に【ん】がつくのも禁止ね!」
そして、早速やってみよう、という流れになる。
「さっ、王女様からどうぞっ」
ジェシカに振られたので取り敢えず言ってみる。
「アンナ!」
その直後。
「エリアス」「ヴァネッサ」
ほぼ同時に二人が言った。
いやいや、順番を守ろうよ。しかも二人ともしりとりできていないし。
「うーんとねー……」
ノアが頭を押さえて言いにくそうな顔をしつつ控えめに口を開く。
「二人ともしりとりになってないよー」
「違うのか?」
エリアスは首を傾げる。
「相手が言った言葉の一番後ろの文字から始まる言葉を言う! だからアンナの次は【な】からの言葉じゃないといけないってこと!」
改めてもう一度説明するジェシカ。
「そうか。ではどうするか……よし。ナイン、でどうだ」
「【ん】で終わるものはいけないと言われたじゃない」
的確な指摘をしたのはヴァネッサ。今回は彼女が正しい。
「ルール説明ぐらいちゃんと聞きなさいよ」
ヴァネッサが一言余計なことを付け加える。
だがエリアスは怒ることなく、逆に、ふっと笑みをこぼした。
「……その通りですね」
いつも真剣なエリアスが笑みをこぼしたことで場の雰囲気が一気に和む。
「これで大丈夫だねー。ジェシカ、もう誕生日パーティーの話し合いしていいよー」
ノアは右サイドの髪を指で触りながら何食わぬ顔で言った。
もしかして空気を和ませるためにしりとりなんてさせたのか? と思ったが、本人に尋ねてみても軽く流されて終わりそうなので聞くのは止めた。場が和んだのだからそれでいい。
「よっし! じゃあ気を取り直して……」
ちょうどその時、ドアをノックする軽い音が聞こえた。ヴァネッサが静かに立ち上がる。
「様子を見て参ります」
ドアを開けたヴァネッサの向こう側に平凡な女性使用人が立っているのが見える。きっと連絡でも伝えに来たのだろう。少しするとヴァネッサはその使用人との話を終え戻ってきた。
「何だった? ヴァネッサ」
私は尋ねてみた。
「雇っていた歌手と手品師が到着したそうです。一度こちらへ呼ぶように指示しました」
「おーっ。いいねいいねっ」
ジェシカは楽しそうに体を揺らす。少女の姿と相まって子どもみたいで可愛らしい。
「あたし、生の歌手を見るのって初かも! 楽しみっ。王女様も初めてじゃない?」
私は式典や晩餐会の余興で見たことがある。
「ジェシカさん、私は見たことあるわ」
「え、そうなの? いいなーっ! あたしも早く見たいよ!」
そんな他愛ない話をしばらく続けていると、少しして再び軽いノック音が響いた。
「これはもしかしてっ!?」
「ジェシカ、落ち着きなさい」
キラキラと瞳を輝かせ今にも飛び出ていきそうなジェシカをエリアスが押さえる。
だが私もどんな人か気になっていたので、ついドアの方を凝視してしまっていた。
「ヴァネッサー! 久しぶりネ! 元気にしてたー!?」
急に騒がしいぐらいの大声が聞こえる。それとほぼ同時にヴァネッサに抱きつく影があった。
「アンナ王女、それから皆さんにも。紹介します。彼女が歌手のラピスです」
紹介されたのは色気のある大人びた女性だった。
「アタシはラピス。皆さん、これからしばらく、よろしくお願いシマス!」
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