エンジェリカの王女

四季

文字の大きさ
27 / 131

26話 「手品師は魔道士」

しおりを挟む
 ヴァネッサが雇った歌手ラピスは色気のある大人びた女性だった。サラリとした長い金髪に瑠璃色の長いワンピースが似合っている。一方声は快晴の空みたいに晴れやかで、表情はとても明るく華やか。とにかく外見と中身のギャップが激しい。

「今は宮廷歌手をしてマス! ヴァネッサとはもうずっーとの友達なのデス! つまり、一番の大親友ってやつデスヨ!」

 エンジェリカの天使たちとは一味違う世界観がある。

「単に天界学校時代の知り合いなだけです」
「エーッ!? ヴァネッサ、何を言い出スノ! お風呂入ったり、ご飯食べたり、一緒に寝たりしてたデショー!」

 ラピスは外見に似合わず騒々しい。よく喋るうえ声が大きく、しかも独特な発音。本当に歌手なのか……? と疑ってしまいそうだ。

「お互いに羽のマッサージしたり、口紅を塗りあったり、一緒にダンス踊ったりしたデショー! もしかシテ、忘れたのッ!?」

 ……後半が意味不明だ。

 ラピスにあらゆるところをペタペタ触られ、ついにヴァネッサの怒りが爆発する。

「そんなことはしてないっ!!」
「痛イ」

 ヴァネッサは口を歪めてラピスをバシバシしばいた。彼女がこれほど躊躇いなく他者をしばくのは初めて見る。そこから二人の親しさが窺えた。

「止めテー! 相変わらず冗談が通じないネ」

 なんというか……いろんな意味で凄い関係だ。今まで何人もの歌手を見てきたが、こんなタイプは初めてかもしれない。こんなに活発だとは想像していなかった。

「二人が親しいのはもう分かったよ。それで、後ろにいる男の人は誰なの?」

 ラピスとヴァネッサの騒がしいやり取りに注目してしまい気づかなかったが、よく見ると二人の後ろに男性がいた。黒いスーツに身を包んだミステリアスな雰囲気だ。

「初めまして! あたしはジェシカ。アンタ誰?」

 もはや気が散っているジェシカが男性に近寄り尋ねる。

「……フロライトという」

 黒ずくめの男性は無表情のまま低い声で小さく答えた。

「ふぅん、なんか感じ悪いやつだね。ま、よろしく」

 さすがにストレートに言いすぎでしょ!

 心の中でそんな突っ込みを入れつつ不安を抱いて様子を見ていたが、フロライトは怒ったり不快な顔をしたりは一切しなかった。ただ眉一つ動かさず真顔のままだ。

「……よく言われる」

 そんなことを言うものだから、実はいい天使なのかもと思ってしまった。いや、本当にいい天使なのだろう。

 だから私は勇気を出して話しかけてみることにした。

「初めまして、アンナです。よろしくお願いします。フロライトさんは手品師なんですか?」

 フロライトはすっかり黙り込んでしまう。でも怒っているのではないと分かるから怖くはない。きっと彼は今頭の中で何を言うか考えているのだ。

 かなり長い時間が経過した後、彼はようやく口を開いた。

「魔道士……でもある」

 これだけ時間をかけて出てきた言葉はこれだけだった。

「そうなの! 魔道士ってことは魔法が使えるの?」

 彼は小さく頷く。つまりイエスという意味なのだろう。
 それにしても魔法だなんて、何だかウキウキしてくる。

「じゃあ手品師っていうのは、魔法で手品をするということなのね?」

 フロライトはまた少し考え込み、さっきよりは短い時間で頷いて答えた。

「……手品には魔法も多い」

 さっきよりは延びているもののまだ一文だった。

「貴方って何だか可愛いわね」

 たいして会話していないのに不思議なことに段々愛着が湧いてくる。男性に対する感情というより、臆病な動物を可愛がる心境に近い。

「……初めて言われた」

 嬉しさと恥じらいの混ざったような顔で視線を逸らす。

「おぉ! 王女様、扱えてる!」

 私とフロライトがぎこちなくも意志疎通できているのを見たジェシカが驚いている。

「もう離れて!」
「うー、やっぱつれないネ」

 ヴァネッサとラピスはまだ騒いでいたようだ。

「とにかく、パーティーは明日です。ラピス、それとフロライトさん。お二人には客室を用意しておりますので、そちらへ」

 フロライトはヴァネッサに視線を向け一度だけ小さく頷く。

「ヴァネッサが直々に案内してくれると嬉シイナ!」
「使用人に案内させます」

 ヴァネッサが淡々とした口調ではっきり言ったのでラピスは肩を落としてがっくりした。

「すぐに呼びますからしばらくお待ち下さい」

 フロライトは黙ったまま、また小さく顎を引いた。本当にどこまでも口数の少ない天使だ。
 ヴァネッサはフロライトにだけ軽くお辞儀をしてそそくさと部屋から出ていく。

「ヴァネッサは相変わらず冷たいデスネーッ!」

 ラピスは頬を丸く膨らませて大きな声で冗談半分に愚痴を漏らしていた。

 そして待つこと数分、特徴のない平凡な女性使用人が一人部屋に現れた。

「お迎えにあがりました」

 彼女は部屋の外で一言二言ヴァネッサと言葉を交わし、それからその場でラピスとフロライトを呼ぶ。

「わざわざ離れたあそこから呼ばなくても、普通に入ってこればいいノニネ! それじゃあ王女様に皆さん、バイバイデス!」

 ラピスは明るい笑顔で大きく手を振り、女性使用人の方へと歩いていった。
 彼女がいなくなってから私は思わず息を吐き出した。華やかで美人、それでいて気さく。悪い人ではないし嫌いではない。だが騒がしいので、得体の知れない疲労感を感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...