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26話 「手品師は魔道士」
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ヴァネッサが雇った歌手ラピスは色気のある大人びた女性だった。サラリとした長い金髪に瑠璃色の長いワンピースが似合っている。一方声は快晴の空みたいに晴れやかで、表情はとても明るく華やか。とにかく外見と中身のギャップが激しい。
「今は宮廷歌手をしてマス! ヴァネッサとはもうずっーとの友達なのデス! つまり、一番の大親友ってやつデスヨ!」
エンジェリカの天使たちとは一味違う世界観がある。
「単に天界学校時代の知り合いなだけです」
「エーッ!? ヴァネッサ、何を言い出スノ! お風呂入ったり、ご飯食べたり、一緒に寝たりしてたデショー!」
ラピスは外見に似合わず騒々しい。よく喋るうえ声が大きく、しかも独特な発音。本当に歌手なのか……? と疑ってしまいそうだ。
「お互いに羽のマッサージしたり、口紅を塗りあったり、一緒にダンス踊ったりしたデショー! もしかシテ、忘れたのッ!?」
……後半が意味不明だ。
ラピスにあらゆるところをペタペタ触られ、ついにヴァネッサの怒りが爆発する。
「そんなことはしてないっ!!」
「痛イ」
ヴァネッサは口を歪めてラピスをバシバシしばいた。彼女がこれほど躊躇いなく他者をしばくのは初めて見る。そこから二人の親しさが窺えた。
「止めテー! 相変わらず冗談が通じないネ」
なんというか……いろんな意味で凄い関係だ。今まで何人もの歌手を見てきたが、こんなタイプは初めてかもしれない。こんなに活発だとは想像していなかった。
「二人が親しいのはもう分かったよ。それで、後ろにいる男の人は誰なの?」
ラピスとヴァネッサの騒がしいやり取りに注目してしまい気づかなかったが、よく見ると二人の後ろに男性がいた。黒いスーツに身を包んだミステリアスな雰囲気だ。
「初めまして! あたしはジェシカ。アンタ誰?」
もはや気が散っているジェシカが男性に近寄り尋ねる。
「……フロライトという」
黒ずくめの男性は無表情のまま低い声で小さく答えた。
「ふぅん、なんか感じ悪いやつだね。ま、よろしく」
さすがにストレートに言いすぎでしょ!
心の中でそんな突っ込みを入れつつ不安を抱いて様子を見ていたが、フロライトは怒ったり不快な顔をしたりは一切しなかった。ただ眉一つ動かさず真顔のままだ。
「……よく言われる」
そんなことを言うものだから、実はいい天使なのかもと思ってしまった。いや、本当にいい天使なのだろう。
だから私は勇気を出して話しかけてみることにした。
「初めまして、アンナです。よろしくお願いします。フロライトさんは手品師なんですか?」
フロライトはすっかり黙り込んでしまう。でも怒っているのではないと分かるから怖くはない。きっと彼は今頭の中で何を言うか考えているのだ。
かなり長い時間が経過した後、彼はようやく口を開いた。
「魔道士……でもある」
これだけ時間をかけて出てきた言葉はこれだけだった。
「そうなの! 魔道士ってことは魔法が使えるの?」
彼は小さく頷く。つまりイエスという意味なのだろう。
それにしても魔法だなんて、何だかウキウキしてくる。
「じゃあ手品師っていうのは、魔法で手品をするということなのね?」
フロライトはまた少し考え込み、さっきよりは短い時間で頷いて答えた。
「……手品には魔法も多い」
さっきよりは延びているもののまだ一文だった。
「貴方って何だか可愛いわね」
たいして会話していないのに不思議なことに段々愛着が湧いてくる。男性に対する感情というより、臆病な動物を可愛がる心境に近い。
「……初めて言われた」
嬉しさと恥じらいの混ざったような顔で視線を逸らす。
「おぉ! 王女様、扱えてる!」
私とフロライトがぎこちなくも意志疎通できているのを見たジェシカが驚いている。
「もう離れて!」
「うー、やっぱつれないネ」
ヴァネッサとラピスはまだ騒いでいたようだ。
「とにかく、パーティーは明日です。ラピス、それとフロライトさん。お二人には客室を用意しておりますので、そちらへ」
フロライトはヴァネッサに視線を向け一度だけ小さく頷く。
「ヴァネッサが直々に案内してくれると嬉シイナ!」
「使用人に案内させます」
ヴァネッサが淡々とした口調ではっきり言ったのでラピスは肩を落としてがっくりした。
「すぐに呼びますからしばらくお待ち下さい」
フロライトは黙ったまま、また小さく顎を引いた。本当にどこまでも口数の少ない天使だ。
ヴァネッサはフロライトにだけ軽くお辞儀をしてそそくさと部屋から出ていく。
「ヴァネッサは相変わらず冷たいデスネーッ!」
ラピスは頬を丸く膨らませて大きな声で冗談半分に愚痴を漏らしていた。
そして待つこと数分、特徴のない平凡な女性使用人が一人部屋に現れた。
「お迎えにあがりました」
彼女は部屋の外で一言二言ヴァネッサと言葉を交わし、それからその場でラピスとフロライトを呼ぶ。
「わざわざ離れたあそこから呼ばなくても、普通に入ってこればいいノニネ! それじゃあ王女様に皆さん、バイバイデス!」
ラピスは明るい笑顔で大きく手を振り、女性使用人の方へと歩いていった。
彼女がいなくなってから私は思わず息を吐き出した。華やかで美人、それでいて気さく。悪い人ではないし嫌いではない。だが騒がしいので、得体の知れない疲労感を感じた。
「今は宮廷歌手をしてマス! ヴァネッサとはもうずっーとの友達なのデス! つまり、一番の大親友ってやつデスヨ!」
エンジェリカの天使たちとは一味違う世界観がある。
「単に天界学校時代の知り合いなだけです」
「エーッ!? ヴァネッサ、何を言い出スノ! お風呂入ったり、ご飯食べたり、一緒に寝たりしてたデショー!」
ラピスは外見に似合わず騒々しい。よく喋るうえ声が大きく、しかも独特な発音。本当に歌手なのか……? と疑ってしまいそうだ。
「お互いに羽のマッサージしたり、口紅を塗りあったり、一緒にダンス踊ったりしたデショー! もしかシテ、忘れたのッ!?」
……後半が意味不明だ。
ラピスにあらゆるところをペタペタ触られ、ついにヴァネッサの怒りが爆発する。
「そんなことはしてないっ!!」
「痛イ」
ヴァネッサは口を歪めてラピスをバシバシしばいた。彼女がこれほど躊躇いなく他者をしばくのは初めて見る。そこから二人の親しさが窺えた。
「止めテー! 相変わらず冗談が通じないネ」
なんというか……いろんな意味で凄い関係だ。今まで何人もの歌手を見てきたが、こんなタイプは初めてかもしれない。こんなに活発だとは想像していなかった。
「二人が親しいのはもう分かったよ。それで、後ろにいる男の人は誰なの?」
ラピスとヴァネッサの騒がしいやり取りに注目してしまい気づかなかったが、よく見ると二人の後ろに男性がいた。黒いスーツに身を包んだミステリアスな雰囲気だ。
「初めまして! あたしはジェシカ。アンタ誰?」
もはや気が散っているジェシカが男性に近寄り尋ねる。
「……フロライトという」
黒ずくめの男性は無表情のまま低い声で小さく答えた。
「ふぅん、なんか感じ悪いやつだね。ま、よろしく」
さすがにストレートに言いすぎでしょ!
心の中でそんな突っ込みを入れつつ不安を抱いて様子を見ていたが、フロライトは怒ったり不快な顔をしたりは一切しなかった。ただ眉一つ動かさず真顔のままだ。
「……よく言われる」
そんなことを言うものだから、実はいい天使なのかもと思ってしまった。いや、本当にいい天使なのだろう。
だから私は勇気を出して話しかけてみることにした。
「初めまして、アンナです。よろしくお願いします。フロライトさんは手品師なんですか?」
フロライトはすっかり黙り込んでしまう。でも怒っているのではないと分かるから怖くはない。きっと彼は今頭の中で何を言うか考えているのだ。
かなり長い時間が経過した後、彼はようやく口を開いた。
「魔道士……でもある」
これだけ時間をかけて出てきた言葉はこれだけだった。
「そうなの! 魔道士ってことは魔法が使えるの?」
彼は小さく頷く。つまりイエスという意味なのだろう。
それにしても魔法だなんて、何だかウキウキしてくる。
「じゃあ手品師っていうのは、魔法で手品をするということなのね?」
フロライトはまた少し考え込み、さっきよりは短い時間で頷いて答えた。
「……手品には魔法も多い」
さっきよりは延びているもののまだ一文だった。
「貴方って何だか可愛いわね」
たいして会話していないのに不思議なことに段々愛着が湧いてくる。男性に対する感情というより、臆病な動物を可愛がる心境に近い。
「……初めて言われた」
嬉しさと恥じらいの混ざったような顔で視線を逸らす。
「おぉ! 王女様、扱えてる!」
私とフロライトがぎこちなくも意志疎通できているのを見たジェシカが驚いている。
「もう離れて!」
「うー、やっぱつれないネ」
ヴァネッサとラピスはまだ騒いでいたようだ。
「とにかく、パーティーは明日です。ラピス、それとフロライトさん。お二人には客室を用意しておりますので、そちらへ」
フロライトはヴァネッサに視線を向け一度だけ小さく頷く。
「ヴァネッサが直々に案内してくれると嬉シイナ!」
「使用人に案内させます」
ヴァネッサが淡々とした口調ではっきり言ったのでラピスは肩を落としてがっくりした。
「すぐに呼びますからしばらくお待ち下さい」
フロライトは黙ったまま、また小さく顎を引いた。本当にどこまでも口数の少ない天使だ。
ヴァネッサはフロライトにだけ軽くお辞儀をしてそそくさと部屋から出ていく。
「ヴァネッサは相変わらず冷たいデスネーッ!」
ラピスは頬を丸く膨らませて大きな声で冗談半分に愚痴を漏らしていた。
そして待つこと数分、特徴のない平凡な女性使用人が一人部屋に現れた。
「お迎えにあがりました」
彼女は部屋の外で一言二言ヴァネッサと言葉を交わし、それからその場でラピスとフロライトを呼ぶ。
「わざわざ離れたあそこから呼ばなくても、普通に入ってこればいいノニネ! それじゃあ王女様に皆さん、バイバイデス!」
ラピスは明るい笑顔で大きく手を振り、女性使用人の方へと歩いていった。
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