上 下
1 / 2

前編

しおりを挟む

「なぁ、ちょっとさ……しりとりしない?」

 夫ローバーは時折急にそんなことを言ってくる。

「しりとり?」
「うん」
「いいわよ、しても」
「やった!」

 でも驚きはあまりない。
 だって初めてのことではないから。

 彼と関わるようになってから今に至るまで、もう、百回以上しりとりをしたと思う。

 最初は多少戸惑いもあったけれど今ではもうすっかり慣れてしまった。

「ローバーは本当に好きね、しりとりが」
「ああ! 好き! 何よりも!」
「凄い熱量ね……」
「でも君のことも好きだよ?」
「気を遣わなくていいわよ」
「いやだって本当のことなんだ」
「そう……なら、ありがとう」
「じゃ、しりとり開始! ありがとう、から!」
「ええっ」

 私とローバーの出会いは今から数年前。
 ある男女混合お茶会にて少し話をしたのが知り合うきっかけとなった。

 でもその時はまだ結婚するなんて思っていなかった。

 ただ、ローバーが妙に乗り気でやたらと近づいてきて、また私は婚約破棄された直後だったということもあって――気づけば近しい関係性になっていた。

 で、ある時ローバーから婚約してほしいと言われて。

 私はそれを受け入れることにした。

 ――そんな事情で私たちの縁は誕生したのである。

「俺からいくな」
「いいわよ」

 人と人の縁というのは実に不思議なものだと思う。
 意外なところからある日突然ふわりと現れるのだから、不思議以外に相応しい言葉は見つけられない。

 でも、高圧的で支配的だった前の婚約者に比べてローバーは穏やかで面白い人だったから、彼と生きることを嫌なことだとは思わなかった。

 たとえそれが意外な展開で始まった関係だったとしても、だからといって嫌だと思うというわけではないのである。
しおりを挟む

処理中です...