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前編
しおりを挟む良家の娘である白銀の髪のレイティアはやたらと穴にはまる――いや、実際にはそれだけではなく――とんでもなくおっちょこちょいで、たびたびやらかす。
「お嬢様! お気をつけください、その辺りは」
「ええ! 気をつけているわ! 穴にはまらないように、でしょ? さすがに分かってい――きゃああ!」
どさ、と音が鳴る。
レイティアはまた穴にはまった。
「ああもうお嬢様! またですか!」
「ごめんなさ~い」
「だから申し上げたのですよ、気をつけるようにと」
「助けてちょうだい~」
「仕方ありませんね。待っていてください、紐を垂らしますからそれにつかまって」
「はぁ~い」
しかしこのレイティア、非常にマイペースな娘である。
それゆえ些細なことでは動じない。
おっちょこちょいでやたらと災難に見舞われる人生だ、しかしそうやって鍛えてきたからか不動の心を持っている。
◆
「レイティア、また穴にはまったそうだね」
「はい」
そんなレイティアにはルレクという婚約者がいるのだが。
「どうして君はそんなにも無能なんだ!」
「申し訳ありません~」
「にこにこしている場合じゃない! もっとしっかりしてくれ!」
「私おっちょこちょいでして~」
「知ってる! が! もう我慢ならない!」
ルレクは元よりイライラしやすい質の男だ。それゆえレイティアにはこれまでも定期的にイライラさせられていた。そして今、ついにその苛立ちが頂点に達したのだ。
そして。
「レイティア! 君との婚約、破棄とする!」
ついにそう宣言した。
「え……」
「聞こえたか? 婚約破棄だ」
「ああはい~。婚約破棄、ですね~。分かりました、聞こえましたよ」
レイティアはやはり動じない。
「何だその言い方は! 煽っているのか!?」
「煽って? まさかそんな~。そんなわけがないじゃないですか~」
「いや絶対煽ってるだろ!」
「いいえ、そのようなつもりはありません~」
笑みを崩さないレイティアを見てルレクはより一層苛立ち。
「もういい! 鬱陶しい、出てけ!」
最終的に彼はレイティアをぽいと放り出した。
「二度と来るな!」
そう吐き捨てて。
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