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前編
しおりを挟むありふれた朝、家から少し離れたところにある丘で歌っていたら。
「お前! こんなところで何を歌っているんだ!」
婚約者オーガンゼーに発見されてしまいそんなことを言われてしまった。
「え……どういうことですか? 歌っていただけですが……それに何か問題があったのでしょうか……?」
「ああ、問題はありすぎだ」
「どうして……」
「歌が趣味な女なんぞ低俗な輩だ。分かるか? 資産ある家の子息である俺に歌好き女なんぞは相応しくない!」
オーガンゼーはこれまでにもたまに階級意識が強いかのような発言を繰り返していた。が、これまではさほど気にしてはいなかった。人の思想は自由、それゆえ、敢えて注意するようなことはなかったのだ。取り敢えず、彼が少々過激なことを言っていても何となく流していた。
しかし、これはさすがに流せない。
「歌うくらい自由ではないですか」
私は初めて意見を述べた。
すると。
「なっ……そんなことを言うとは! 無礼な女だ! もういい、ならばここで言ってやる。お前との婚約なんぞ、今この時をもって破棄とする!!」
はっきりとそんなことを言われてしまった。
まさかの婚約破棄。
ただ歌うことを楽しんでいただけなのに。
ああもう、どこからどう考えてもただただ馬鹿げた話だ……。
「いいな。二度と俺の前に現れるなよ」
オーガンゼーはこちらを睨んでいる。
「本気で仰っているのですか?」
「当たり前だろう!」
どうやら本気で婚約を破棄しようと考えているようだ。
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