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2話「帰る場所」
しおりを挟む「そんなことが……信じられないわ、まだ」
あの後母は私を家に入れてくれた。
怒りはしなかったけれど、話を聞いてかなり戸惑っているようだった。
「オーツレット王子がそんな身勝手なことをなさるなんて……」
リビングの木でできた棚、懐かしい匂いがする。
「でも現実なの」
「ええ、疑ってはいない……けれど、本当に、どうして……」
「だから、彼は幼馴染みの女を選んだのよ。私を捨てて、そっちを取ったの。私を捨てられなかったのでしょうね」
もうしばらく帰っていなかった実家へ帰れば、家にある物すべてが迎え入れてくれているような気すらして。
不思議なことだけれど、抵抗はなかった。
やはり、ここで生まれ育ったからだろうか。
人間は己の基礎を作った場所というのは忘れないし、それにはいつまでも馴染みやすいものなのかもしれない。
棚に立てかけられている姿見も昔のままだ。
その姿見には椅子に座る自分の姿が映っていた。
それほど派手でない平凡な顔立ち、口紅を塗っていても慎ましめな色にしかなっていない唇、白に近い控えめな色の金髪。
今さら言うのも変かもしれないが、やはり私は平均的な女だ。
特別不細工ではないかもしれないけれど美女というわけでもなく、それこそ探せば一つの村に似た人が数人はいそうな目鼻立ち。
――私の取り柄は能力だけだった。
「でもいいの、あんなところはきっと相応しくなかったのよ」
母が淹れてくれたハーブティーを飲めば、段々冷静になってくる。
オーツレットへの怒りも徐々に収まってきた。
もちろん納得はできない。許すことだって。その身勝手さで振り回して、冷ややかな目を向けて。そんな彼への不愉快さはきっといつまでも消えないだろう、だってもう心の奥に刻まれてしまっている。が、だからといって常に激怒しているかといえばそうでもないもので。時の経過と状況によってその怒りは増減するものなのだ。
「またここで暮らしていい?」
「ええもちろん」
甘い香りが口腔内に広がる。
心まで溶けてしまいそう。
「父さんもびっくりするだろうな……」
「大丈夫よ、あの人娘には甘いから」
「そうかな……」
「当たり前よ! それに、リメリアは悪くないんだもの、もし一瞬はびっくりしたとしても絶対理解してくれるわ」
母から聞いた話によれば、父は今日よそへ行く用事があったそうで出掛けているらしい。夕方かその少し後くらいには帰ってきそうな感じらしい。ということで、取り敢えず帰りを待つことにした。
――そして夜。
「ただいまー……って、およよよよ!? リメリアッ!?」
父はやはりかなり驚いていた。
しかしそれは私がいることを想定していなかったからの一過性の驚きでしかなくて。
「――まさか、そんなことになっていたとはなぁ」
話をすればすぐに理解してくれた。
「オーツレット王子がそんなどうしようもないやつだったとはなぁ……」
帰宅後、素早く家着に着替え終わった父はリビングへ来た。
「何でだ! リメリアが一番可愛いのに!」
彼は少々親ばかなところがある。
それは昔から。
だから何を言い出しも今さら驚きはしない。
「……やめて父さん、恥ずかしいから」
「だが!」
「そういうのはやめて」
「お、おう……」
でも、理解してもらえて良かった。
父と母が理解を示してくれさえすれば私はここに留まることができる。
「ごめんね父さん、急なことで」
「いや! いいんだ! 気にする必要はない!」
「じゃあこれからまた……よろしく」
「いいぞ、もちろん。お帰りなさいッ!!」
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