無垢な娘、それは幻ですわよ

四季

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前編

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 私には生まれた時から決まっていた婚約者がいましたの。

 半ば自動的に決められた婚約者でしたけれど、嫌だとは思っていませんでしたわ。いえ、むしろ、彼のことは気に入っていましたの。

 片想い、というわけでもありませんでしたのよ?

 彼は彼で私を気に入ってくださっていましたわ。会った時には楽しく話せましたし。それなりに良い感じでしたの。

 でも、彼との関係は、あることをきっかけに変わり始めてしまいましたの。

 そのあることというのが、彼に近づく娘が現れたこと。

 その娘は、家柄は私や彼より下だけれど、彼に平然と近づきましたの。とても積極的な質でしたわ。正直私は彼女を良く思っていませんでした。けれども、彼は、その娘をすっかり気に入ってしまいましたの。

 積極的なところに惚れたのかしら?

 理由はよく分かりませんけれど、とにかく彼はデレデレしてしまっていましたわ。

 彼は子どもの頃からずっと真面目な性格で、異性ともあまり関わらないまま大人になりましたの。だから、親しげに関わってきてくれる異性が現れたことで浮かれてしまったのだと思いますわ。彼との付き合いは長いですもの、そのくらいのことは分かりますわ。

 皆は彼女を心優しく無垢な少女と思っているようですの。でもそれは事実ではありませんの。それは彼女が創り出した幻。彼女が見せたい自分の姿であって、彼女の本当の姿ではありませんの。それを一番知っているのは、彼女から嫌われている私ですわ。

 彼女からすれば、愛しい彼の婚約者である私は不愉快な存在なのでしょう。いなくなってほしい存在なのでしょう。

 だから彼女は嘘をついて、いつも私を悪く言いますのよ。

 たとえ存在が不愉快なものだとしても、嘘で貶めるなんて、失礼にもほどがありますわ。酷いことですわね。それを信じる者も信じる者ですけれど。
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