無垢な娘、それは幻ですわよ

四季

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後編

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 ただ、私も言われっぱなしで終わるつもりはありませんのよ。

 私は彼女が隠したい事実を知っている。一応口封じされてはいますから、何もなければ明かす気はありませんでしたけれど、彼女が無礼なことばかりするなら話は別ですわ。

 彼女が隠したい、私だけが知っていること。

 これは間違いなく私の剣となってくれるはずですわ。

 私とて、積極的に争いたいわけではありませんの。争いが好きなわけではないですし。私としては無駄な争いはなるべく避けたいですの。けれどもそれはあくまで向こうが大人しくしていればの話。相手が私に害を為さなければ、というだけのこと。

 私の名誉を傷つけるなら、容赦しませんわ。
 相手がその気なのなら、私もその気で受けて立つつもりですわ。


 ◆


 真実を明かした時、人々は驚いていましたわ。

 無垢な娘に見えていた彼女にそんな罪があったなんて、皆、とても信じられなかったのでしょう。きっと。でも、具体的な根拠を示されては、さすがに皆信じるしかなかったのでしょう。

 これでもう私を誤解する者はいないはずですわ。
 そして、誰も彼女を善人とは思わないでしょう。

 この一件があってから、彼女は私の婚約者の前に身を晒せなくなったようでしたわ。けれども、これは私の罪ではありませんの。悪いのは彼女の方。他人の男にわざわざ寄ってくる彼女が悪いんですの。

 彼女が他人の男に積極的に寄らなければ、こんなことにはならなかった。

 隠したいことも世に出ずに済んだのですわ。


 ◆


 邪魔者は去り、環境も戻り、彼とまた以前のように仲良くなれると期待していましたの。

 けれども、結局それは叶いませんでしたわ。

 彼の心には彼女がしっかりと焼きついてしまっていた。そして、その色は、こびりついてしまっていた。彼女ま彼の胸のうちに、深く深く刻まれてしまっていた。

 だからすべて手遅れでしたの。

 私は彼に睨まれましたら。なぜこんなことをした、なぜ明かした、と。他の者たちは私を見直しましたけれど、彼だけは私をきちんと捉えてはくれませんでしたわ。彼だけは彼女の味方のまま。とても残念でしたわ。

 しかも、後になって、彼と彼女に身体の関係があったことが判明。
 最終的に私たちは婚約破棄することになりました。

 慰謝料は支払っていただきましたわ。彼の行いに非があった、ということで。けれども、慰謝料を支払っていただいたからといって、この胸の内のもやが消えるわけではなくて。何とも言えぬ気持ちだけが残りましたわ。

 一方彼はというと、婚約破棄後、彼は自身の行いを後悔していたそうですわ。

 私と仲良かった彼は取り戻せなかったけれど、真面目な彼は返ってきたようでしたわ。

 してきたことを悔いた彼は、段々心を病み、部屋から出られなくなって、しまいには横になっていることしかできなくなってしまったとか。

 何とも悲しいことですわね。


◆終わり◆
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