私、ウェルネリア。婚約者の家へ行った時、彼が他の女といちゃついているのを目撃してしまいました。……これはもう駄目ですね。

四季

文字の大きさ
7 / 10

7話「窓際の席も良いものですね」

しおりを挟む

「このお店、入るのは初めてです」

 今日もまたモーレスとお茶をする。
 誘ったのはこちらからの形ではあるが、このお店を紹介してくれたののは外の誰でもないモーレスである。
 外観もおしゃれな感じだし、ぱっと見て悪い印象は抱かないような喫茶店だ。
 入り口のすぐ傍にある花壇には小さな花が可憐に咲いていた。

「僕も実はこの前一回行っただけなんですよ」
「あ、そうなんですか」
「でも良い雰囲気だったので、ウェルネリアさんと行ってみたいなと」
「それで紹介してくださったのですね」
「そういうことです」

 私たちは隣り合って店内へと進んでゆく。

 そして、窓際の二人席に座った。

「窓際の席って二人だと良い感じですね」
「ええと、それは、一人だとあまりということですか?」

 窓の向こうにそっと立つ木々は風に揺られている。

「はい。何だかちょっと落ち着かないんです。一人で窓際に座っていたら……外が気になってしまって」
「ああ、そういうことでしたか」
「モーレスさんはそうは思わないですか?」
「そうですね、僕はあまり気にしません」
「人それぞれってやつですかね」

 取り敢えず、一番ベーシックなアイスティーを注文してみた。

 その時。

「お前、恋人できたのか?」

 誰かがそんな風に声をかけてきた。

 嫌な予感がして視線をそちらへ向ければ。

「トマス……」

 やはり、予感は当たっていた。

 一番会いたくない人だった。

「久しぶりだな」
「え、ええ……」

 モーレスはきょとんとしている。

「ああそうだ、ちょうど良かった。これから俺とお茶しようぜ、そんなやつとはさっさと別れて――」
「やめて!!」
「え……」
「何が『そんなやつ』よ! モーレスさんはね、そんな風に呼ばれるような人じゃないわ!」

 つい感情が昂ってしまう。

「それに、馬鹿なことしておいて今さら絡んでくるなんて、あり得ないわよ!」
「な、何だよ急に怒って」
「いいからさっさとどこかへ行ってちょうだい」
「何だと……!? 生意気女! ふざけるな!!」

 トマスは眉尻をつり上げ襲いかかってくる。

「待ってください」

 ――だが、モーレスがそれを制止していた。

「暴力はいけません」

 殴ろうとしたトマスの手首を掴み、モーレスは冷ややかな目を相手へ向ける。

「たとえ何があったとしても、ですよ」
「お……お前……」
「殴ろうとしていたでしょう。そういう行為は問題です」

 トマスの怒りは今度モーレスへ向く。

「うるせえ男だな、おい……何も知らないくせしてふざけんなよ! 後から入りしやがって!」
「一体何の話ですか!」
「婚約破棄になったからってウェルネリアにすぐ取り入りやがって! 最低男! 屑! ウェルネリアはなぁ、一人でいれば良かったんだよ!」

 やめて、そう言おうとするけれど言えなかった。

 トマスとモーレスの睨み合いが怖くて。

「俺はウェルネリアの婚約者だったんだよ!」
「ですが、もう破棄になったのでしょう」
「ああなったさ! 無礼な誰かのせいでな」
「何があったのです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...