16 / 25
16話「聖女と呼ばれ」
しおりを挟む
あの戦い以降、私は急激に有名人になった。
圧倒的な魔法で魔物の群れを一掃した聖女――誰かがそんな風に呼び始めて、それが広がって、気づけば聖女と呼ばれるようになっていた。
私はもう虐げられている女ではない。
「エリサさん、民から物凄い人気ですよ」
そんなある日。
王城内の廊下を歩いていたらディアにばったり出会った。
「あ……す、すみません、お騒がしてしまって」
「なぜ貴女が謝るのです」
「それは……つい、くせで」
「そうなのですね。分かりました。しかしここではそのように振る舞われる必要はありません。堂々となさってください」
ディアは柔らかな笑みを浮かべてそう言ってくれた。
「はい」
私は短く返事をする。
「そういえば、あれ以降魔物の出現が減っているようですよ」
「そうなんですか!?」
「恐らく、この国には強者がいると気づいたのでしょう」
「魔物にそんな知恵があるものでしょうか……」
「彼らにも知能は多少あるのですよ。これまでの研究により若干ではありますが解き明かされています」
ディアはそれから「もっとも、意思疎通できるほどの知能はないようですが」と付け加えた。
「そうですか……それは少し残念です」
「といいますと?」
「話し合いができるならどうにかなるのではと思ったのですが……意思疎通は不可能ということであれば話し合いで解決するというのは難しそうですね」
平和的解決は望めそうにない。
「だからこそ、圧倒的な力を見せることが重要なのです」
魔物との戦いの話をしている時のディアはそれ以外のどんな時とも違った真剣な表情をしている。
彼にとって魔物との戦いというのはかなり重要な問題なのだろう。
顔つきを見ているだけでそれがひしひしと伝わってくる。
「ディアさん、私はこれからも戦いますので、この力が必要な時があればいつでもそう言ってください」
言えば、ディアは瞳を潤ませるかのようにキラキラと輝かせる。
「エリサさん……!」
なんという目をしているんだ、この人は。
大人だろう。
男性だろう。
なのに、今はなぜか、希望に満ちた子どものような目をしている。
「ありがとうございます……!」
想定していた反応と違う。
信じられないくらい喜ばれている。
圧倒的な魔法で魔物の群れを一掃した聖女――誰かがそんな風に呼び始めて、それが広がって、気づけば聖女と呼ばれるようになっていた。
私はもう虐げられている女ではない。
「エリサさん、民から物凄い人気ですよ」
そんなある日。
王城内の廊下を歩いていたらディアにばったり出会った。
「あ……す、すみません、お騒がしてしまって」
「なぜ貴女が謝るのです」
「それは……つい、くせで」
「そうなのですね。分かりました。しかしここではそのように振る舞われる必要はありません。堂々となさってください」
ディアは柔らかな笑みを浮かべてそう言ってくれた。
「はい」
私は短く返事をする。
「そういえば、あれ以降魔物の出現が減っているようですよ」
「そうなんですか!?」
「恐らく、この国には強者がいると気づいたのでしょう」
「魔物にそんな知恵があるものでしょうか……」
「彼らにも知能は多少あるのですよ。これまでの研究により若干ではありますが解き明かされています」
ディアはそれから「もっとも、意思疎通できるほどの知能はないようですが」と付け加えた。
「そうですか……それは少し残念です」
「といいますと?」
「話し合いができるならどうにかなるのではと思ったのですが……意思疎通は不可能ということであれば話し合いで解決するというのは難しそうですね」
平和的解決は望めそうにない。
「だからこそ、圧倒的な力を見せることが重要なのです」
魔物との戦いの話をしている時のディアはそれ以外のどんな時とも違った真剣な表情をしている。
彼にとって魔物との戦いというのはかなり重要な問題なのだろう。
顔つきを見ているだけでそれがひしひしと伝わってくる。
「ディアさん、私はこれからも戦いますので、この力が必要な時があればいつでもそう言ってください」
言えば、ディアは瞳を潤ませるかのようにキラキラと輝かせる。
「エリサさん……!」
なんという目をしているんだ、この人は。
大人だろう。
男性だろう。
なのに、今はなぜか、希望に満ちた子どものような目をしている。
「ありがとうございます……!」
想定していた反応と違う。
信じられないくらい喜ばれている。
62
あなたにおすすめの小説
〖完結〗聖女の力を隠して生きて来たのに、妹に利用されました。このまま利用されたくないので、家を出て楽しく暮らします。
藍川みいな
恋愛
公爵令嬢のサンドラは、生まれた時から王太子であるエヴァンの婚約者だった。
サンドラの母は、魔力が強いとされる小国の王族で、サンドラを生んですぐに亡くなった。
サンドラの父はその後再婚し、妹のアンナが生まれた。
魔力が強い事を前提に、エヴァンの婚約者になったサンドラだったが、6歳までほとんど魔力がなかった。
父親からは役立たずと言われ、婚約者には見た目が気味悪いと言われ続けていたある日、聖女の力が覚醒する。だが、婚約者を好きになれず、国の道具になりたくなかったサンドラは、力を隠して生きていた。
力を隠して8年が経ったある日、妹のアンナが聖女だという噂が流れた。 そして、エヴァンから婚約を破棄すると言われ……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
ストックを全部出してしまったので、次からは1日1話投稿になります。
精霊の愛し子が濡れ衣を着せられ、婚約破棄された結果
あーもんど
恋愛
「アリス!私は真実の愛に目覚めたんだ!君との婚約を白紙に戻して欲しい!」
ある日の朝、突然家に押し掛けてきた婚約者───ノア・アレクサンダー公爵令息に婚約解消を申し込まれたアリス・ベネット伯爵令嬢。
婚約解消に同意したアリスだったが、ノアに『解消理由をそちらに非があるように偽装して欲しい』と頼まれる。
当然ながら、アリスはそれを拒否。
他に女を作って、婚約解消を申し込まれただけでも屈辱なのに、そのうえ解消理由を偽装するなど有り得ない。
『そこをなんとか······』と食い下がるノアをアリスは叱咤し、屋敷から追い出した。
その数日後、アカデミーの卒業パーティーへ出席したアリスはノアと再会する。
彼の隣には想い人と思われる女性の姿が·····。
『まだ正式に婚約解消した訳でもないのに、他の女とパーティーに出席するだなんて·····』と呆れ返るアリスに、ノアは大声で叫んだ。
「アリス・ベネット伯爵令嬢!君との婚約を破棄させてもらう!婚約者が居ながら、他の男と寝た君とは結婚出来ない!」
濡れ衣を着せられたアリスはノアを冷めた目で見つめる。
······もう我慢の限界です。この男にはほとほと愛想が尽きました。
復讐を誓ったアリスは────精霊王の名を呼んだ。
※本作を読んでご気分を害される可能性がありますので、閲覧注意です(詳しくは感想欄の方をご参照してください)
※息抜き作品です。クオリティはそこまで高くありません。
※本作のざまぁは物理です。社会的制裁などは特にありません。
※hotランキング一位ありがとうございます(2020/12/01)
〖完結〗仮面をつけさせられた令嬢は義姉に婚約者を奪われましたが、公爵令息様と幸せになります。
藍川みいな
恋愛
「マリアは醜くて、見ていられないわ。今日から、この仮面をつけなさい。」
5歳の時に、叔母から渡された仮面。その仮面を17歳になった今も、人前で外すことは許されずに、ずっとつけています。両親は私が5歳の時に亡くなり、私は叔父夫婦の養子になりました。
私の婚約者のブライアン様は、学園ダンスパーティーで婚約を破棄して、お義姉様との婚約を発表するようですが、ブライアン様なんていりません。婚約破棄されるダンスパーティーで、私が継ぐはずだったものを取り戻そうと思います!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
現実の世界のお話ではないので、細かい事を気にせず、気楽に読んで頂けたらと思います。
全7話で完結になります。
〖完結〗冤罪で断罪された侯爵令嬢は、やり直しを希望します。
藍川みいな
恋愛
「これより、サンドラ・バークの刑を執行する!」
妹を殺そうとした罪で有罪となった私は、死刑を言い渡されました。ですが、私は何もしていない。
全ては、妹のカレンが仕組んだことでした。
刑が執行され、死んだはずの私は、何故か自分の部屋のベッドの上で目を覚ましたのです。
どうやら時が、一年前に戻ったようです。
もう一度やり直す機会をもらった私は、二度と断罪されないように前とは違う選択をする。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全14話で完結になります。
〖完結〗私の事を愛さなくても結構ですが、私の子を冷遇するのは許しません!
藍川みいな
恋愛
「セシディには出て行ってもらう。」
ジオード様はいきなり愛人を連れて来て、いきなり出て行けとおっしゃいました。
それだけではなく、息子のアレクシスを連れて行く事は許さないと…
ジオード様はアレクシスが生まれてから一度だって可愛がってくれた事はありませんし、ジオード様が連れて来た愛人が、アレクシスを愛してくれるとは思えません…
アレクシスを守る為に、使用人になる事にします!
使用人になったセシディを、愛人は毎日いじめ、ジオードは目の前でアレクシスを叱りつける。
そんな状況から救ってくれたのは、姉のシンディでした。
迎えに来てくれた姉と共に、アレクシスを連れて行く…
「シモーヌは追い出すから、セシディとアレクシスを連れていかないでくれ!!」
はあ!? 旦那様は今更、何を仰っているのでしょう?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全11話で完結になります。
〖完結〗醜い私は誰からも愛されない…そう思っていたのに、ずっと愛してくれていた人がいました。
藍川みいな
恋愛
伯爵令嬢のキャシディは幼い頃に病にかかり、顔に酷い痕が残ってしまう。その痕を隠すために包帯を巻いていると、不気味で醜いと嫌われていた。
娘を心配したホワイト伯爵は友人のルーズベルト伯爵に頼み、ルーズベルト伯爵の息子リドルフとキャシディを婚約させた。
だがリドルフはキャシディとの婚約を破棄し、キャシディが親友だと思っていたサラと婚約すると言い出した。
設定はゆるゆるです。
本編9話+番外編4話で完結です。
〖完結〗役立たずの聖女なので、あなた達を救うつもりはありません。
藍川みいな
恋愛
ある日私は、銀貨一枚でスコフィールド伯爵に買われた。母は私を、喜んで売り飛ばした。
伯爵は私を養子にし、仕えている公爵のご子息の治療をするように命じた。私には不思議な力があり、それは聖女の力だった。
セイバン公爵家のご子息であるオルガ様は、魔物に負わされた傷がもとでずっと寝たきり。
そんなオルガ様の傷の治療をしたことで、セイバン公爵に息子と結婚して欲しいと言われ、私は婚約者となったのだが……オルガ様は、他の令嬢に心を奪われ、婚約破棄をされてしまった。彼の傷は、完治していないのに……
婚約破棄をされた私は、役立たずだと言われ、スコフィールド伯爵に邸を追い出される。
そんな私を、必要だと言ってくれる方に出会い、聖女の力がどんどん強くなって行く。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?
藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。
目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。
前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。
前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない!
そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる