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前編
しおりを挟む我が婚約者モルトネーギルは酷い人だった。
彼は婚約するや否や私に一緒に住むことを求めてきた。そして私を家へ連れ込むと狭い部屋に監禁。そこで暮らすことを強要してきたのだった。
「女は放っておいたらすぐだらしないことをするからな、大人しくこの部屋に入っておけ」
それが彼の口癖だった。
しかしその一方で彼は好き放題。
私には貞操を守ることを過剰なほど求めるわりに自分に関してはそういった意識は一切なくむしろとんでもなく開放的であった。
モルトネーギルは女遊びが好きで、たびたび家に女を連れ込んでいた。
しかも、そういった行為は婚約者がいても続けられていたので、正直「私って一体何なのだろう?」と思うことが多々あったくらいだ。
だがある日のこと、彼は急に婚約の破棄を告げてきた。
「え……こ、婚約破棄……ですか」
「ああそうだ」
「ま、また……それは、急ですね……」
「理由を教えてやろうか? 簡単なこと、もうすぐ手に入りそうな女性でお前より条件の良いやつができたんだ。家柄も資産もお前より上だ」
――そうか、彼は私のそれを求めていたのか。
この時になってようやく気づいた。
ここまでのことをする理由に。
彼が欲していたのは私ではなく私の後ろにあるもので、だからこそ、こうして絶対に逃げられないようにしながら愛することはなく放置していたのだ。
私を放置していても家柄や資産は消えない……。
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