婚約破棄されても帰る場所はありました、そしてそこから新しい世界へと歩み出すのです。

四季

文字の大きさ
2 / 3

2話

しおりを挟む

 アルデヒートは隣の金髪の女性にこれまで私が見たことがないような優しげな笑みを向けていた。絵本に出てくる理想的な王子様みたいな表情。包み込むような笑み、それは私は一度も見たことがなかったものだ。

 そうか、私は本当の愛に満ちた彼を知らなかったのか……。

 私といる時アルデヒートは心ないことはなかった。むしろ優しかった。でもどこかよそよそしさもあって。そういう彼を見ては私はいつも大人っぽいなぁと思っていた。悪い風には捉えていなかったのだけれど、でも。もしかしたらあれは愛の薄さゆえだったのかもしれない。これまでずっと別段ネガティブには受け入れていなかったけれど。真実、答え、それらを突きつけられた今はすべてが見えてしまったような気がした。

 彼、あんな顔をするんだな……。


 ◆


「いらっしゃいませ!」

 婚約破棄後私は両親が営む店に積極的に出るようになった。
 アルデヒートとの婚約中は店に出ることをセーブしていたのだけれど、波に乗るようにスムーズに復帰できた。

「あら娘さん、久々ね」

 昔よく喋っていた常連客は皆温かく接してくれる。
 帰る場所があるというのはありたがいことだ。

 たとえ婚約破棄されたとしても、それでも、明るく声をかけてくれる人がいるだけで前を向ける。

「はい! 実は……色々ありまして」
「あらそうなの?」
「はい、戻ってきました」
「良かったわ、こうしてまた会えて。ちょっと寂しかったのよ」
「あ、そうでしたか」
「うふふ、娘さんのこと好きだったから。以前は時々会っていたでしょう? それに、お話とかもしたでしょう。あの時は楽しかったわ、今も良い思い出よ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました

黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。 古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。 一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。 追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。 愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

虐げられた聖女が魔力を引き揚げて隣国へ渡った結果、祖国が完全に詰んだ件について~冷徹皇帝陛下は私を甘やかすのに忙しいそうです~

日々埋没。
恋愛
「お前は無能な欠陥品」と婚約破棄された聖女エルゼ。  彼女が国中の魔力を手繰り寄せて出国した瞬間、祖国の繁栄は終わった。  一方、隣国の皇帝に保護されたエルゼは、至れり尽くせりの溺愛生活の中で真の力を開花させていく。

「輝きがない」と言って婚約破棄した元婚約者様へ、私は隣国の皇后になりました

有賀冬馬
恋愛
「君のような輝きのない女性を、妻にするわけにはいかない」――そう言って、近衛騎士カイルは私との婚約を一方的に破棄した。 私は傷つき、絶望の淵に落ちたけれど、森で出会った傷だらけの青年を助けたことが、私の人生を大きく変えることになる。 彼こそ、隣国の若き皇子、ルイス様だった。 彼の心優しさに触れ、皇后として迎え入れられた私は、見違えるほど美しく、そして強く生まれ変わる。 数年後、権力を失い、みすぼらしい姿になったカイルが、私の目の前に現れる。 「お久しぶりですわ、カイル様。私を見捨てたあなたが、今さら縋るなんて滑稽ですわね」。

魅了魔法に対抗する方法

碧井 汐桜香
恋愛
ある王国の第一王子は、素晴らしい婚約者に恵まれている。彼女は魔法のマッドサイエンティスト……いや、天才だ。 最近流行りの魅了魔法。隣国でも騒ぎになり、心配した婚約者が第一王子に防御魔法をかけたネックレスをプレゼントした。 次々と現れる魅了魔法の使い手。 天才が防御魔法をかけたネックレスは強大な力で……。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

処理中です...