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しおりを挟むアルデヒートは隣の金髪の女性にこれまで私が見たことがないような優しげな笑みを向けていた。絵本に出てくる理想的な王子様みたいな表情。包み込むような笑み、それは私は一度も見たことがなかったものだ。
そうか、私は本当の愛に満ちた彼を知らなかったのか……。
私といる時アルデヒートは心ないことはなかった。むしろ優しかった。でもどこかよそよそしさもあって。そういう彼を見ては私はいつも大人っぽいなぁと思っていた。悪い風には捉えていなかったのだけれど、でも。もしかしたらあれは愛の薄さゆえだったのかもしれない。これまでずっと別段ネガティブには受け入れていなかったけれど。真実、答え、それらを突きつけられた今はすべてが見えてしまったような気がした。
彼、あんな顔をするんだな……。
◆
「いらっしゃいませ!」
婚約破棄後私は両親が営む店に積極的に出るようになった。
アルデヒートとの婚約中は店に出ることをセーブしていたのだけれど、波に乗るようにスムーズに復帰できた。
「あら娘さん、久々ね」
昔よく喋っていた常連客は皆温かく接してくれる。
帰る場所があるというのはありたがいことだ。
たとえ婚約破棄されたとしても、それでも、明るく声をかけてくれる人がいるだけで前を向ける。
「はい! 実は……色々ありまして」
「あらそうなの?」
「はい、戻ってきました」
「良かったわ、こうしてまた会えて。ちょっと寂しかったのよ」
「あ、そうでしたか」
「うふふ、娘さんのこと好きだったから。以前は時々会っていたでしょう? それに、お話とかもしたでしょう。あの時は楽しかったわ、今も良い思い出よ」
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